頸長筋の解剖・評価・アプローチを解説!ストレートネック・頸部痛改善への道

理学療法士・作業療法士の皆さんは、患者さんからこのような悩みをよく聞きませんか?

  • 「頸部の不安定性、具体的にどの筋肉が関わっているの?」
  • 「ストレートネックや頸部痛の患者さん、何を評価すればいいか分からない…」
  • 「深層にある頸長筋に、どうアプローチしたらいいの?」

これらの疑問を解決する鍵が、頸長筋(longus colli)です。

頸部の前方深層に位置するこのインナーマッスルは、頭部と頸椎の安定性に極めて重要な役割を果たします。特にストレートネック頸部痛を訴える患者さんではその機能が低下していることが多く、適切な深層筋トレーニングが症状改善に非常に有効とされています。

本記事では、臨床で意識しづらい「頸長筋」について、その解剖から評価、効果的なトレーニング(訓練)、そして具体的な臨床応用まで、理学療法士・作業療法士の皆さんが明日からの臨床で役立つよう、わかりやすく解説します。


この記事でわかること

  • 頸長筋の解剖と作用
  • 頸長筋の評価方法
  • 頸長筋への効果的なアプローチ
  • 頸長筋機能低下が及ぼす影響
  • 臨床での応用ポイント

1. 頸長筋の解剖と作用

頸長筋の解剖図
頸長筋の解剖図

頸長筋は、頸部の深層に位置する重要なインナーマッスルであり、以下の3つの線維束から構成されます。

  • 頸長筋 (上斜線維)
    • 起始:C3〜C5の横突起前結節
    • 停止:C1前結節
  • 頸長筋 (垂直線維)
    • 起始:C5〜C7椎骨体の前面、Th1〜Th3椎骨体前面
    • 停止:C2〜C4の椎骨体の前面
  • 頸長筋 (下斜線維)
    • 起始:Th1〜Th3椎骨体前面
    • 停止:C5〜C6椎骨の横突起前結節

作用

  • 両側収縮: 頸椎の前屈
  • 片側収縮: 頸椎の同側側屈、回旋

これらの作用により、頸長筋は頸椎の分節的安定性と、頭部の位置制御に深く関与しています。


2. 頸長筋の評価

頸長筋の機能を正確に評価することは、適切な介入計画を立てる上で不可欠です。ここでは、主要な評価方法をご紹介します。

徒手筋力検査 (MMT)

測定肢位: 全て背臥位、膝屈曲位で行います。

段階5、4の手順

頸長筋MMT 段階5、4の姿勢
頸長筋MMT 段階5、4の姿勢
  • 顎を引いた位置を保持し、天井を見たまま頭をわずかに浮かせます。
  • 検者は指2本を使用し、顎に軽く抵抗を加えます(軽度の抵抗)。

段階3の手順

  • 段階5、4の手順と同様ですが、検者は抵抗を加えません。

判断基準

  • 段階5, 4: 抵抗に対して姿勢を保持できる。
  • 段階3: 抵抗がなければ、全可動域で頭部を動かせる。

段階2, 1, 0の手順(胸鎖乳突筋の収縮確認)

胸鎖乳突筋収縮確認の様子
胸鎖乳突筋収縮確認の様子
  1. 左右に首を回してもらい、検者は胸鎖乳突筋を触知します。
  2. 反対方向に顔を向けさせます。

判断基準

  • 段階2: 可動域の一部を動かせる。
  • 段階1: 動きは起こらないが、筋の活動(収縮)が認められる。
  • 段階0: 筋収縮が全く起こらない。

頸椎屈曲テスト

頸椎屈曲テストの様子
頸椎屈曲テストの様子

患者に、下顎を胸につけるように頭部をゆっくりと屈曲させてもらいます。

陽性所見:

  • 頭部の伸展(下顎が突き上がる)
  • 頭部の震え

判断のポイント:

陽性時に下顎の挙上がある場合は、胸鎖乳突筋の過活動が考えられます。また、頭部の震えが認められる場合は、頸長筋の筋力低下が強く示唆されます。


3. 頸長筋への効果的なアプローチ

頸長筋の機能改善には、以下の頸部深層屈筋トレーニングが基本となります。

頸部深層屈筋トレーニング

  • 枕を使わず背臥位になります。
  • 首の後ろに丸めたタオルなどを軽く入れます。
  • 「顎を引く」ような、「頷く(コックアップ)」運動を行います。この際、後頭部でベッドをわずかに押すようなイメージも持ちつつ、頸部を長く保つことを意識しましょう。
  • 浅層の筋肉(胸鎖乳突筋など)が過剰に収縮しないよう、ゆっくりとコントロールされた動きで行うことが重要です。

この運動は、頸長筋を意識的に収縮させることで、頸部の安定性を高め、ストレートネック頸部痛の改善に繋がります。


4. 頸長筋の機能低下とそれが及ぼす影響

頸長筋の機能が低下すると、以下のような問題が生じ、様々な頸部症状や姿勢不良に繋がります。

  • 頭部前方姿勢(ストレートネック)の主要な原因の一つとなります。
  • 頸部の不安定性が増加し、椎間関節や椎間板への負荷が上昇します。
  • 深層筋である頸長筋の筋出力低下を補うため、表層筋(僧帽筋上部、胸鎖乳突筋など)が過活動になります。
  • 結果として、肩こり頭痛頸椎症性疼痛を助長する可能性があります。
  • スポーツ時の視線安定性頭部加速への対応力の低下など、パフォーマンスにも影響を及ぼします。

5. 臨床ちょこっとメモ:知っておきたいポイント

  • 胸鎖乳突筋が過活動な患者さんほど、頸長筋がうまく使えていないケースが多いです。両筋のバランスを評価しましょう。
  • 頸部伸展位(前方頭位)となっている患者さんでは、ほとんどの場合に頸長筋の弱化が認められます。姿勢改善のキーとなる筋肉です。
  • 肩関節疾患(インピンジメント、五十肩など)の治療においても、頸部姿勢改善の一環として頸長筋トレーニングが有効な場合があります。頸部と肩甲帯の連動性を考慮しましょう。

6. まとめ:頸長筋の理学療法的アプローチ

これまで解説してきた頸長筋に関する重要なポイントを、理学療法士・作業療法士の皆さんのために簡潔にまとめます。

頸長筋の解剖学的特徴と基本機能

  • 上斜、垂直、下斜の3つの線維束から構成され、C1からTh3まで広範囲に付着します。
  • 両側収縮で頸椎前屈、片側収縮で同側側屈・回旋を担う、深層頸屈筋の主要な一つです。
  • 頸椎の分節的安定性に重要な役割を果たし、頸部深層筋システムの中核を成します。
  • 頸動脈洞近傍に位置するため直接的な触診は困難であり、血管系への配慮が必要です。
  • 表層筋(胸鎖乳突筋)との協調により、頸部の安定した運動制御を実現します。

評価・診断の特徴と方法

  • MMTは背臥位・膝屈曲位で顎引き頭部挙上により実施します(軽度抵抗で段階5, 4判定)。
  • 頸椎屈曲テストで機能評価が可能で、陽性時の下顎挙上は胸鎖乳突筋過活動、震えは頸長筋筋力低下を示唆します。
  • 直接的触診が困難なため、間接的な機能評価と代償運動パターンの観察が特に重要です。
  • 胸鎖乳突筋の過活動の有無が、頸長筋機能低下の重要な指標となります。
  • 段階2, 1, 0の評価では、胸鎖乳突筋の収縮確認により総合的な頸部屈筋機能を評価します。

臨床応用と治療効果

  • 機能低下により頭部前方姿勢頸部不安定性、表層筋過活動による肩こり・頭痛が出現します。
  • 治療には、背臥位でタオルを使用し顎引き運動を実施する頸部深層屈筋トレーニングが有効です。
  • 頸部伸展位姿勢の患者さんではほぼ全例に筋力低下が認められ、頸長筋は姿勢矯正の鍵となります。
  • 肩関節疾患(インピンジメント・五十肩)の治療においても、頸部姿勢改善の一環として有効です。
  • スポーツパフォーマンス向上(視線安定・頭部加速対応)にも寄与する重要な治療対象筋です。

今回解説した内容はあくまで筋単体のことです。実際の治療においては、周囲の筋肉とのバランス、そして患者さんの全体的な姿勢や動作パターンを考慮することが極めて重要です。ぜひ皆さんも一緒に解剖と評価を深め、患者さんや利用者さんの生活の質向上を支援していきましょう!

頸部の解剖学に関するさらに詳しい情報や画像については、以下のリンクもご参照ください。LTSセミナー 解剖学画像資料


7. 参考文献

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