皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。今回はトイレ動作における認知機能として、視空間認知機能に焦点を当てて考えていきたいと思います。
視空間認知とは? メカニズムを知る
空間認知とは「3次元空間において自己と空間の相対的位置関係を把握すること」と定義されています。空間認知に関わる感覚情報として、視空間認知のための視覚情報、視覚対象が動く場合は眼球運動によって動きの情報を得ることができます。さらに、自己の動きが伴う場合は前庭感覚を含む体性感覚(運動感覚)も必要とされます。
視空間認知機能は「見たものの全体像を把握する機能」で、以下のようにいくつかの要素に分けて考えることができるとされています。
- 対象と背景の区別:物とその背景を区別できるか
- 形や色の認識:さまざまな形や色を識別できるか
- 一貫性のある認識:形や方向が変わっても同じものを同じと認識できるか
- 空間関係の理解:物と物、または自分と物の距離感が分かるか
視力が障害されていないにもかかわらず、顔や物品の認識や物品を見つける能力の障害、簡単な道具の操作や着衣の能力の障害があることを空間認識障害といいます。
アルツハイマー型認知症の場合には、初期では図形を描くのが下手になり、運転で道に迷うようになる、車の車庫入れができなくなる、中期では、物を探すのが難しくなる、後期では簡単な道具の操作と着衣ができなくなるようになると言われています。
トイレ動作に当てはめると、どの工程で必要になる?
それでは、視空間認知機能の各項目をトイレ動作に当てはめるとどの工程で必要になってくるのか考えていきましょう!
- 対象と背景の区別:トイレの便座とその奥にある壁を区別できる
- 形や色の認識:トイレの形がわかる、手すりの色が分かる
- 一貫性のある認識:部屋が変わってもトイレの入り口を認識できる
- 空間関係の理解:車椅子から便座までの距離感が分かる
このように、トイレ動作は移動を伴いかつ動作を行う環境が、状況に応じて変化するため視空間認知機能が動作自立のために重要なピースを担っていることが分かります!
どのように評価する?
視空間認知機能が、トイレ動作遂行のために重要であることは分かりましたが、どのように評価していけばいいのでしょうか?評価バッテリーや観察などさまざまな視点で考えてみましょう。
評価バッテリー一覧
- 視覚探索テスト:形式としてシンプル探索・複合探索などがある。
- シンプル探索の例:青い円の中から赤い円を見つける。ターゲットの特徴が明確なので、反応が速く簡単である。
- 複合探索の例:赤い三角形の中から青い三角形を見つける。色と形を考慮する必要があり、反応時間が長くなる。
- クロッキングテスト:被検者にアナログ時計の文字盤を描かせ、指定された時間(例:10時10分)を指すように時計の針を配置してもらう検査。この検査では、時計の形や配置の正確性、針の位置が正しいかどうかなどを評価する。
- 線分二等分テスト:被検者に、水平に引かれた複数の線の真ん中を鉛筆でマークしてもらう検査。評価ポイントとして、線の中心からの偏りや方向の偏りがないかを確認する。
- レイ複合図形検査:模写・即時再生・遅延再生・認識のステップで行う図形描写検査。
- 模写:提示された複雑な図形を見ながら模写する
- 即時再生:図形を見ないで記憶に基づいて再度図形描写を行う
- 遅延再生:20~30分後に再度記憶に基づいて図形描写する
- 認識:図形の細部に関する認識能力を評価する
- コース立方体テスト:赤と白の立方体ブロックを使用し、提示された図形を被検者に模倣してもらう検査。評価ポイントとして、模様の正確性や時間・手順などがある。
観察評価
- 空間認識能力:トイレ内の空間配置を把握し、目的の場所へ適切に移動できるかを観察評価する。
例:便座に正確に座れるか、トイレットペーパーの位置を適切に認識できるか
- 物品の操作:ドアやペーパーホルダーなど、正しい方向で物品を使用できるかを観察評価する
- 順序の理解:トイレ動作の一連の流れを正しく理解し、順序通りに行えるかを観察評価する
身体機能評価
- 頸部の可動性、周辺筋の筋出力(土台の固定・安定性):
- 頸椎椎間関節の可動性評価(屈曲/伸展/側屈/回旋):ROM
- 僧帽筋(肩甲骨挙上):MMT
- 胸鎖乳突筋(頚部対側回旋):MMT
- 斜角筋(頚部側屈):MMT
- 眼球運動のレベル:
- 輻輳:物体を近づけて寄り目の状態を30秒間キープできるか?
- 追視:物体の動きに合わせて目で追いかけることができるか?
- サッケード:物体の素早い動きを目で追いつくことができるか?
- 頸部と視覚の分離ができるか?(頚部と眼球の協調運動):
- 頚部を固定した状態で、左右方向に追視をすることができるか?
- 追視した先で、目線を固定し目線の部分まで頚部をうごかすことができるか?
まとめ
- 視空間認知機能は「見たものの全体像を把握する機能」である。
- トイレ動作は、動作を行う環境が状況に応じて変化するため、視空間認知機能が重要なピースを担っている。
- 視空間認知機能は、評価バッテリーのみならず観察評価や土台となる身体機能の評価も合わせて必要である。