こんにちは、理学療法士の赤羽です。疼痛について解説するシリーズ第13回目です。今回は、体に備わっている痛みを抑える仕組み「疼痛抑制系」について、基礎から臨床応用まで詳しく解説します。
はじめに
痛みは私たちの体を守る重要な警告信号です。しかし、慢性疼痛のような過度な痛みは、生活の質を著しく低下させ、心身に大きな影響を及ぼすことがあります。こうした痛みを適切にコントロールする役割を果たすのが「疼痛抑制系」です。
疼痛抑制系の基礎知識
主要な疼痛抑制系の分類と特徴
抑制系 | 主要な物質/経路 | 作用機序 | 臨床的意義 |
---|---|---|---|
下行性疼痛抑制系 | セロトニン、ノルアドレナリン | 脳幹から脊髄への下行性経路による抑制 | 運動療法、薬物療法の作用点 |
内因性オピオイド系 | エンドルフィン、エンケファリン | オピオイド受容体を介した鎮痛 | 運動による内因性鎮痛効果 |
脊髄内抑制系 | GABA、グリシン | 脊髄後角でのシナプス抑制 | 物理療法、手技療法の作用機序 |
DNIC | セロトニン作動性経路 | 広範な痛覚抑制 | 圧痛点治療の理論的根拠 |
内因性カンナビノイド系 | アナンダミド | CB1受容体を介した抑制 | 新規治療法開発の標的 |
神経生理学的メカニズム
脊髄レベルでの疼痛抑制
シナプス伝達の特徴
要素 | 特徴 | 臨床的意義 |
---|---|---|
一次求心性線維 | Aδ線維:速い痛み C線維:遅い痛み | 痛みの性質評価に重要 |
介在ニューロン | 抑制性/興奮性の調節 | 治療効果の作用点 |
神経伝達物質 | GABA/グリシンによる抑制 | 薬物療法の標的 |
疼痛抑制系の賦活方法
疼痛抑制系を効果的に活性化するために有効な手段として以下が考えられます。
- 身体的アプローチ
適度な運動やストレッチ、温熱療法や冷却療法等があげられます。運動により脳内で内因性オピオイドが分泌されるため、日常的に身体を動かすことが疼痛管理に有効と考えられます。
- 心理的アプローチ
疼痛抑制系は、心理的な影響を受けやすいため、リラクゼーション法やマインドフルネス、瞑想などが効果的な可能性があります。また、認知行動療法などの心理療法も痛みの認知を変えることで、疼痛抑制系の働きを助けます。
- 薬物療法
抗うつ薬や鎮痛薬、オピオイド系薬物やカンナビノイド系の薬物が疼痛抑制系に作用し、痛みを緩和する可能性があります。
疼痛抑制系が働きづらくなる要因
疼痛抑制系は様々な要因によって働きが低下し、痛みに対する感受性が高まることがあります。例として以下があります。
- 慢性的なストレス
- 睡眠不足
- 不活動
まとめ
疼痛抑制系の理解と適切な活用は、効果的な疼痛管理に不可欠です。重要なポイントは以下の3点です:
- 疼痛抑制系は「下行性疼痛抑制系」、「内因性オピオイド系」、「脊髄内抑制系」、「DNIC」、「内因性カンナビノイド系」等様々な種類があり協力して働いている。
- 賦活するために「身体的アプローチ」、「心理的アプローチ」、「薬物療法」が考えられる。
- 働きづらくなる要因として、「慢性的なストレス」、「睡眠不足」、「不活動」等が考えられます。
痛みに対する科学的根拠をベースにした徒手アプローチを学びたい方は、こちらのコースをチェックしてみてください:
慢性疼痛に対する痛み・神経の科学的根拠をもとにした末梢神経への徒手介入法 ~DNM(Dermo Neuro Modulating)~ BASICコース
確認問題
問題を表示
問題:疼痛抑制系について、正しい説明はどれですか?
- 痛みを完全に取り除くシステムである
- 薬物療法でのみ活性化できる
- 複数のシステムが協力して働いている
- ストレスは影響を与えない
- 運動は効果がない
正解:3
解説:
疼痛抑制系は、下行性疼痛抑制系、内因性オピオイド系、脊髄内抑制系などの複数のシステムが協力して働いています。完全に痛みを除去するわけではなく、様々なアプローチで活性化が可能です。また、ストレスや運動は疼痛抑制系の機能に大きく影響を与えます。