こんにちは!作業療法士の仲田です。
「担当している患者さんの意欲が低い気がする…」「リハビリに集中してもらえない…」と感じることはありませんか?
前回は「体力」の中でも特に身体的な要素について掘り下げましたが、今回は見落とされがちな「精神的な要素」に焦点を当てて解説します。
一般的に「体力」というと筋力や持久力といった身体的な側面が想起されやすいですが、実は「やる気が出ない」「集中力が続かない」といった状態も、広い意味での「体力低下」、特に精神的な体力低下と捉えることができます。患者さんのリハビリ効果を最大限に引き出すためには、この精神的側面へのアプローチが不可欠です。
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この記事はこんな理学療法士・作業療法士におすすめ
- 患者さんの「やる気」や「集中力」を引き出す具体的な方法を知りたい
- 「体力」の定義を精神面も含めて深く理解したい
- 精神的な要素と身体的な要素の相互作用について学び、アプローチの幅を広げたい
- クライアント中心のアプローチにおける「意欲」の重要性を再確認したい
【前回の復習】「体力」って、具体的にどこが問題?
見落とせない「体力」の精神的要素とは?
前回の記事で触れたように、「体力」は大きく「身体的要素」と「精神的要素」に分けられます。そして、この「精神的要素」も、目的を達成するための力である「行動体力(精神面)」と、ストレスなどから心身を守る力である「防衛体力(精神面)」に分類して考えることができます。
精神的要素としての「行動体力」:意欲や集中力の源泉
精神的な行動体力は、目標達成に向けた行動を initiating(開始)し、sustaining(持続)させるためのエネルギーです。具体的には以下の要素が含まれます。
- 意思・決断力:目標を定め、行動を選択する力
- 判断力:状況を適切に評価し、最適な行動を判断する力
- 意欲(やる気・モチベーション):目標に向かって積極的に取り組む気持ち
- 集中力:目の前の課題に注意を向け、持続させる力
- 記憶力:必要な情報を保持し、活用する力
これらが低下すると、「リハビリに乗り気でない」「すぐに飽きてしまう」「指示を覚えていられない」といった問題につながる可能性があります。
精神的要素としての「防衛体力」:ストレスへの抵抗力
精神的な防衛体力は、心理的なストレスから自分を守り、心の健康を維持する力です。
- 精神的ストレスに対する抵抗力(ストレス耐性):プレッシャーや困難な状況に耐え、乗り越える力
- 不安や抑うつへの対処能力:ネガティブな感情をコントロールし、回復する力
入院や疾患による環境の変化、将来への不安などは大きなストレス源となり、精神的な防衛体力が低いと、意欲低下や抑うつ状態を引き起こしやすくなります。
心と体はつながっている!身体的要素と精神的要素の密接な関係
身体的な体力と精神的な体力は、互いに深く影響し合っています。どちらか一方だけを見るのではなく、全体として捉える視点が重要です。
- 睡眠・栄養不足の影響: 身体的な不調は、脳機能にも影響を与え、集中力や意欲の低下につながります。十分な睡眠とバランスの取れた栄養は、精神的な安定の基盤です。
- 運動の効果: 適度な運動は、ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌を抑制し、幸福感に関わる神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)の放出を促すため、気分転換や精神的な安定に効果的です。
- 痛みや不快感の影響: 慢性的な痛みや身体的な不自由さは、活動意欲を削ぎ、抑うつ気分や無力感を引き起こすことがあります。
このように、心身は不可分です。理学療法士・作業療法士は、身体機能へのアプローチと同時に、それが精神面にどのような影響を与えているか、また精神的な状態が身体活動にどう影響しているかを常に評価する必要があります。
作業療法士・理学療法士ができる精神的要素へのアプローチ例
では、患者さんの精神的な体力をサポートするために、私たちは具体的にどのようなアプローチができるでしょうか?以下にいくつかの実践例を挙げます。
- 協働的な目標設定: 患者さんと一緒に、現実的で達成可能な短期・長期目標を設定します。「やらされている感」ではなく、「自分で決めた」という感覚が意欲を引き出します。
- 成功体験の積み重ねと共有: スモールステップで課題を設定し、達成感を味わえる機会を意図的に作ります。できたことを具体的にフィードバックし、自己効力感を高めます。
- 認知行動療法的アプローチの活用: 患者さんの否定的な思考パターン(例:「どうせできない」)に気づき、より建設的な考え方(例:「ここまでできたから、次はこうしてみよう」)ができるよう支援します。
- リラクゼーション技法の導入: 呼吸法、漸進的筋弛緩法、マインドフルネスなどをリハビリに取り入れ、不安や緊張を和らげ、精神的な安定を図ります。
- 環境調整による意欲・集中サポート: 注意が散漫になりやすい患者さんには、静かで集中しやすい環境を提供します。また、興味関心を引くような活動(作業)を取り入れ、内発的動機づけを促します。
- 多職種連携の強化: 必要に応じて、心理士、精神科医、ソーシャルワーカーなど、他の専門職と情報共有し、連携して支援体制を構築します。精神的な問題が複雑な場合は、専門家の介入が不可欠です。
今回のまとめ:精神的体力へのアプローチでリハビリ効果を高めよう
- 「体力」は身体だけでなく精神も含む: 意欲や集中力などの「行動体力」と、ストレス耐性などの「防衛体力」の両面がある。
- 心と体は連動している: 身体的な状態は精神面に、精神的な状態は身体面に影響を与えるため、両方からのアプローチが重要。
- 多角的なアプローチを: 目標設定、成功体験、環境調整、リラクゼーション、多職種連携など、患者さんの状態に合わせた支援策を組み合わせる。
この記事を通して、「体力」の精神的な側面への理解が深まり、明日からの臨床で患者さんの意欲や集中力を引き出すためのヒントが見つかれば幸いです。
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