【症例解説】「局所の評価」だけで止まっていませんか? 〜7つの段階で見る症状の原因〜

【症例解説】「局所の評価」だけで止まっていませんか? 〜7つの段階で見る症状の原因〜

こんにちは、理学療法士の大塚です。

先日、セミナー中に受講生の方と一緒に行った「症例検討」。
僕たち療法士が臨床で悩みやすい「局所の問題(痛み・硬さ)」を、どうやって「その人の生活(HOPE)」と結びつけて解決するか? というヒントが詰まっています。

今回は、セミナーでの質問をもとに作成した「模擬症例」を使って、以下の一連の評価・推論の流れを解説していきます。

HOPE → 工程分析 → 目的動作(ADL) → 基本動作 → 複合運動 → 局所 → 介入

対象は、腰背部のダルさを訴えるトラックドライバーのAさんです。


1. HOPEと背景の把握(スタート地点)

リハビリのスタートは、痛みそのものではなく「患者さんがどうなりたいか(HOPE)」と「背景」の理解からです。

  • HOPE / 主訴:
    「運転時のダルさをなんとかしたい」
  • 社会的背景(Role):
    • 職場で「すごい働く人」として頼られている。
    • 睡眠時間は2〜3時間という激務。
    • 「仕事は減らせない」「その場にいてくれるだけで助かる」と言われている。

この時点で、「仕事を休んで安静にする」という選択肢は現実的ではないこと、そして「役割(Role)」による身体的・精神的な拘束が非常に強いことが読み取れます。

2. 工程分析・目的動作(なぜダルくなるのか?)

次に、Aさんのダルさの原因となっている動作を細かく分解していきます。ご指定いただいた定義に沿って整理します。

  • 工程分析: トラックの運転
  • 目的動作(ADL)の特性:
    • 長時間の同一姿勢(動きが制限される)
    • 常に注意を向ける必要がある(精神的緊張・交感神経優位)
    • 振動刺激(持続的な筋緊張の誘発)

「トラックの運転」という工程の中に、これだけの身体的・精神的ストレス要因が含まれていることがわかります。

3. 基本動作・複合運動の評価

では、そのストレス下でAさんはどのような姿勢をとっているのでしょうか。

  • 基本動作・姿勢(坐位):
    • 猫背(円背)
    • 頭部前方突出
    • 肩甲骨外転
  • 複合運動の特徴:
    • 「肘を開いて」ハンドルを持っている(脇が開いている)。
    • 体幹が潰れないように、あるいは背中を丸めてシートに預けるために、末梢(腕)で支えている状態です。

4. 局所の評価(Bio-Local)

ここで初めて、体に触れて「局所」を評価します。

  • 所見: 僧帽筋上部の緊張が著しく強い。
  • 機能評価: 本来、坐位で背骨を支えるべきインナーマッスルである「多裂筋」が働いていない(機能不全)。

ここで多くの療法士は、「僧帽筋が硬いからほぐそう」「多裂筋が弱いから鍛えよう」と考えてしまいがちです。
しかし、ここで「なぜ?」と矢印を伸ばすのが、このホワイトボードの肝です。


5. 根本原因への深掘り(局所 → 神経 → 環境)

板書の右下に書かれた「赤字の矢印」の流れを見てください。これが臨床推論の核心です。

① 局所の問題:多裂筋・僧帽筋

多裂筋がサボり、安定性を欠いたため、代わりに僧帽筋が過剰に頑張って体を支えている状態です。

② 神経系の問題:体の使い方のエラー(運動学習)

なぜ多裂筋が働かないのか?
それは筋力がないからではなく、脳が「多裂筋を使って体を支える」という運動プログラム(体の使い方)を忘れてしまっている、あるいはエラーを起こしているからです。

Aさんの脳は、「肘を開いて背中を丸め、僧帽筋で固める」というパターンを「運転中の正解」として学習してしまっています。

③ 環境要因:シートと役割

では、なぜそんな誤った学習をしてしまったのか? それは「環境」「役割」に原因があります。

  • 環境(シート): トラックのシートがへたっており、座るだけで骨盤が後傾し、物理的に多裂筋が入りにくい環境だった。
  • 役割(仕事): 「休めない」「精神的緊張」という過酷な役割の中で、ダルさを凌ぐために最も楽な(しかし負担のかかる)姿勢をとり続けた結果、その姿勢が定着した。

6. 介入のアプローチ

この流れが見えると、介入は単なるマッサージではなくなります。

  1. 環境への介入(Environment):
    まず、多裂筋が働きやすい環境を作ります。シートにクッションやランバーサポートを入れる提案をし、物理的に骨盤を起こせるようにします。
  2. 神経系への介入(Nerve / Motor Learning):
    環境を整えた上で、「肘を開いて固める」のではなく「多裂筋(インナー)で支える」感覚を入力し、体の使い方を再学習させます。
  3. 局所への介入(Local):
    その結果として、過剰に頑張る必要のなくなった僧帽筋の緊張は自然と落ちていきます。

まとめ

ホワイトボードの板書が示しているのは、 「局所の評価(多裂筋・僧帽筋)」はゴールではなく、原因探しの入り口に過ぎないということです。

局所(筋肉) → 神経(体の使い方) → 環境(シート・役割)

この矢印を逆にたどることで初めて、「仕事は減らせないけれど、ダルさを取って働き続けたい」 というAさんの切実なHOPEを叶えるための、本当のリハビリテーションが見えてきます。

明日からの臨床で、局所の問題点を見つけたら、その奥にある神経系や環境要因を探ってみてください。

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