ポジショニングに迷わない! PTのための「聴診」8点法とフィジカルアセスメント

ポジショニングに迷わない! PTのための「聴診」8点法とフィジカルアセスメント

この記事の要点(30秒で読めます)

  • ポジショニング決定の鍵は、視診・触診・打診・聴診を統合したフィジカルアセスメントにある。
  • 効率的な聴診には「8点法」を用い、特にトラブルの多いS6(肩甲骨間)とS10(肺底)を重点的に評価する。
  • リハビリ用聴診器は、ノイズが少ない「シングルチューブ」と、高低音を使い分けられる「サスペンデッド・ダイアフラム」推奨。

以前の記事(呼吸のメカニズムとポジショニング)では、呼吸のメカニズムや「3の法則」、そしてポジショニングの重要性について解説しました。

しかし、臨床現場では「目の前の患者さんに、どのポジショニングを選択すべきか?」と迷うことも多いのではないでしょうか。その判断の鍵となるのが、「フィジカルアセスメント」です。

本記事では、教科書的な知識だけでなく、臨床ですぐに使える「8点法」を用いた聴診ルーティンや、異常音の聞き分け、プロが選ぶ聴診器のポイントまでを徹底解説します。アセスメントを武器に、ポジショニングの効果を最大限に引き出しましょう。

 

臨床の悩みを解決!Q&A

Q.「フィジカルアセスメントの基本手順」はありますか?

A.患者さんへの侵襲が少ない順に「視診(見る)→触診(触れる)→打診(叩く)→聴診(聴く)」の4つのステップで行い、多角的な情報を統合して病態を評価することが重要です。

Q.忙しい臨床現場で、効率よく聴診を行うコツはありますか?

A.前面・背面あわせて「8点法」を基本とし、特に寝たきりでトラブルが起きやすい「S6(肩甲骨間)」と「S10(背部下部)」を重点的に確認することで、効率よく異常を発見できます 。

Q.聴診で聞こえる「異常音」は、どう聞き分ければ良いですか?

A.以下の3つに分類し、対応を判断します。

  • 痰による「ゴロゴロ(水泡音)」:排痰ケアへ
  • 間質性肺炎などの「パチパチ(捻髪音)」:負荷調整へ
  • 気道狭窄による「ヒューヒュー(笛音)」:リラックス、薬剤対応など

フィジカルアセスメントとは?

フィジカルアセスメントとは「問診で得られた情報と、フィジカルイグザミネーション(身体診察)によって得られた客観的な情報を統合し、身体の状態を評価・判断するプロセス全体のこと」です。

フィジカルアセスメントの3本柱

  • 問診:患者さんの訴え(主観的情報)。「息が苦しい」「足が痛い」など。
  • バイタルサイン:数値データ。血圧、脈拍、呼吸数、体温、SpO2など。
  • 身体診察:直接触れて確認する情報。ここが狭義のフィジカルアセスメントの技術です。

基本の4つの手技(身体診察)

手技臨床での視点
視診(目で見る)呼吸様式(努力呼吸か)、チアノーゼ、浮腫、胸郭の動き、皮膚の色、姿勢など。
触診(手で触れる)皮膚温、圧痛の有無、浮腫の圧痕、筋肉の緊張、胸郭の拡張差(動きの左右差)。
打診(指で叩く)肺や腹部にガスが溜まっているか(鼓音)、水や実質化があるか(濁音)。
※聴診より頻度は低いですが、胸水や無気肺の評価に使います。
聴診(耳で聴く)呼吸音、心音、腸雑音。体の中の動きを音で捉える。

呼吸器(胸部)の評価手順は?

〈原則〉
外側から内側へ、侵襲の少ないものから順に行います。視診→触診→打診→聴診の順に行うのが一般的です。

1. 視診

まず患者さんに触れる前に、観察だけで情報を集めます。

  • 呼吸様式:肩で息をしていないか?(努力呼吸ではないか?)、呼吸数は速くないか?
  • 胸郭の動き:左右均等に動いているか?
  • 皮膚・外観:チアノーゼはないか?、ばち指はないか?、樽状胸郭ではないか?
  • 呼吸補助筋:胸鎖乳突筋などが浮き出ていないか?

2. 触診

異常がありそうな場所や、胸郭の動きを実際に手で確認します。

  • 胸郭拡張差:背中や胸に手を当て、深呼吸時の手の広がり方で左右差はどうか?
  • 音声振盪:「あー」と言ってもらい、手に伝わるビリビリ感はどうか?(肺炎などで増強、胸水などで減弱)。
  • 気管の位置:頸部の真ん中に気管があるか?(偏位していないか?)

3. 打診

指で胸壁を叩き、その響き方で肺の中の状態(空気・水・個体)を推測します。

  • 清音:肺に空気が入っている音
  • 濁音:鈍い音、肺炎や胸水がある場合
  • 鼓音:ポンポンと響く音、気胸など、空気が多すぎる場合

4. 聴診

「8点法(前面4点・背面4点)」を基本とし、追加でこれまでの手順で「怪しい」と思った場所を重点的に聴くと効率的です。

【保存版】代表的な呼吸障害のフィジカルアセスメント一覧表

病態視診触診打診聴診副雑音
肺炎患側の動き低下増強濁音気管支呼吸音化Coarse Crackles
無気肺患側の動き低下減弱〜消失濁音減弱〜消失なし
またはCrackles
気胸患側の動き低下消失鼓音消失なし
胸水患側の動き低下減弱〜消失濁音減弱〜消失なし
COPD・喘息樽状胸郭正常〜減弱過共鳴音呼気延長Wheezes

聴診のやり方は?

正常な状態でも、聴診する部位によって聞こえる音の性質(大きさ・高さ)が異なります。「そこでその音が聞こえて良いのか」を判断するために必要です。

聴診のポイント

  • 常に「左右対称」に聴き比べましょう。
  • 患者さんには「普段より少し深く」呼吸してもらいましょう(浅い呼吸では音が拾いにくい)。
  • 衣服の上からではなく、直接肌に当てましょう(衣服の摩擦音を雑音と誤認しないため)。

聴診部位の目安

◎前胸部(上葉・中葉)

鎖骨の上 (S1)結核の好発部位。あまり聴診器を強く押し当てないよう注意。
鎖骨の下〜第2肋間 (S3)背臥位で最も上になる部位。過膨張などの評価で見ることが多い。
乳頭周辺 (S4/S5)右中葉や左舌区は肺炎や無気肺になりやすい。心臓の横(右側)や心尖部付近(左側)を意識して聴く。

◎背部(下葉中心)

肩甲骨の上部 (S2)円背の患者さんなどで意外と痰が溜まりやすい。
肩甲骨の間 (S6)【重要】誤嚥性肺炎の好発部位。背臥位で重力側になるため、分泌物が貯留しやすい。必ず聴取する。
肩甲骨の下角より下 (S10)【重要】肺の底。胸水が溜まると音が消失しやすい。深呼吸をしっかりしてもらい聴取する。

図:聴診部位(生成AIを用いて作成)
図:聴診部位(生成AI(Gemini)を用いて作成)※S10は「肩甲骨の下角から指3〜4本分下」を目安に。

臨床で使える「聴診のルーティン」の提案

忙しい臨床現場では、すべての区域を毎回詳細に聞くのは難しい場合があります。まずは以下の「8点法(前面4点・背面4点)」を基本とし、怪しい場所を追加で探るのが効率的です。

【効率化】聴診8点法

  • 前面・上部(鎖骨下): 上葉のエア入り確認(S3)
  • 前面・下部(乳頭外側): 中葉・舌区のチェック(S4/5)
  • 背面・上部(肩甲骨間): S6(誤嚥・痰貯留)の徹底確認
  • 背面・下部(肺底): 胸水・無気肺の確認(S10)

特に赤字の「S6」と「S10」は、寝たきりの患者さんでトラブルが起きやすい攻めるべきポイントです。ここを中心に、体位変換前後の変化を追ってみてください。


図:聴診部位(8点法、生成AI(Gemini)を用いて作成)

呼吸音と副雑音(ラ音)の聞き分け

音が「途切れる」か「続く」か、そして「高い」か「低い」かで分類します。

断続性ラ音(Crackles:クラックル)

「ブツブツ」「バリバリ」といった、音が途切れる雑音です。

  • Fine Crackles(捻髪音):「パチパチ」。硬くなった肺胞が開く音(間質性肺炎など)。
  • Coarse Crackles(水泡音):「ゴロゴロ」。痰が絡む音(肺炎など)。→排痰ケアの対象!

連続性ラ音(Continuous sounds)

「ヒューヒュー」「グーグー」といった、音が持続する雑音です。

  • Wheezes(笛音):「ヒューヒュー」。気道が狭くなっている音(喘息・COPD)。
  • Rhonchi(いびき音):「グーグー」。太い気道に痰がある音。咳払いで消えることも。

プロが選ぶ!リハビリ用聴診器の3条件

「どれを買えばいいか分からない」という方へ。リハビリ現場で戦うための条件は以下の3つです。

1. サスペンデッド・ダイアフラム搭載

押し当てる強さだけで高音・低音を聞き分けられる機能です。リハビリ中は手が塞がりがちなので、いちいちベル面へひっくり返さなくて済むこの機能は必須の「時短・効率化」機能です。

2. シングルチューブ

管が1本のものを選びましょう。ダブルチューブ(2本管)は音質が良いですが、チューブ同士が擦れるノイズ(摩擦音)が出やすく、動作を伴うリハビリ場面には不向きです。

3. 適切な価格帯(医療用標準)

安価なもの(2,000円程度)はチューブが薄く、周囲の雑音を拾いすぎてしまいます。性能と耐久性のバランスが取れた10,000円台(例:リットマン クラシックIIIなど)が、長く使える相棒になります。

参考リンク

3M ™ リットマン ® クラシックⅢ ™ ステソスコープ 聴診器 5809 シングルチューブ バイノーラル/成人・小児両用型チェストピース(銅色加工)約69cm/チョコレート

【動画で確認】実際の音を聞いてみよう

文字だけではイメージしにくい実際の音は、以下の動画が非常に参考になります。

シムラボ

https://www.youtube.com/channel/UC6OXZpYxyXu3-K01aXDIpyQ/featured

まとめ

  • フィジカルアセスメントは「視診→触診→打診→聴診」の手順で行い、客観的情報と問診を統合して評価する。
  • 聴診ではS6(誤嚥・痰貯留)S10(胸水・無気肺)を見逃さないよう「8点法」を活用し、ポジショニング決定の判断材料とする。
  • 聴診器は「シングルチューブ・サスペンデッドダイアフラム」を選び、正確な評価と効率化を図る。

【ご注意】
掲載している情報は一般的な事例に基づく解説です。実際の介入にあたっては、必ず医師の指示や患者様の状態に合わせて、ご自身の責任において判断・実施してください。

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【参考文献】
1)山内豊明:フィジカルアセスメントガイドブック、医学書院、2011年
2)山内豊明:呼吸音聴診ガイドブック、医学書院、2018年
3)曷川元監修:フィジカルアセスメント完全攻略Book、慧文社、2014年

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