こんにちは、理学療法士の嵩里です。今回はトイレ動作に必要な体幹機能、特に便座に座った際に必要な活動と身体機能についてお伝えします。
座位における体幹機能の重要性
静的な座位保持姿勢では、軟部組織の働きにより体幹の筋活動はそれほど必要とせず、最長筋、多裂筋、腹直筋の筋活動は低下します。しかし、重心位置が支持面を越える際には筋活動による姿勢保持が必要となります。
ADL動作では、靴下を履く、シャツを着る、便座に座った状態でお尻を拭く、椅子で食事をするなど、重心位置が支持面から外れる場面が数多くあります。動作を行うためには、体幹が安定したうえで、四肢が自由に動かせる安定性と運動性の両立が重要となります。
トイレ動作に必要な体幹機能(座位場面)
トイレ動作において座位で考えられる活動は、以下の通りです:
- ズボン後ろを修正する
- 下衣操作
- 臀部をずらしてお尻を拭く動作
これらの活動を行うためには、体幹前傾、体幹回旋、側方重心移動が行える必要があります。
座位で必要な関節運動
座位での重心移動や上下の運動を行うためには、以下の関節運動が確保されている必要があります:
- 頸椎、胸椎、腰椎それぞれの椎間関節
- 仙腸関節
- 肩鎖関節
- 胸鎖骨関節
- 肋椎関節
- 肩甲胸郭関節
座位で必要な筋活動
体幹前傾
体幹前傾位を保持する際には、最長筋、多裂筋の筋活動が増加し、脊柱や胸郭の動きを制御します。また、骨盤が前傾する際には内腹斜筋が働き、仙腸関節に生じる剪断力に対して関節面を安定させます。
体幹回旋
端座位における体幹回旋時には、多裂筋、最長筋、腸肋筋の筋活動が増大します。これらの筋が腰椎を伸展させ、胸腰椎が回旋するための軸を保持することで脊柱が回旋できます。
側方重心移動
右への側方重心移動では、左の腰背筋群と内外腹斜筋、特に内腹斜筋の筋活動が必要となります。骨盤の傾斜とともに脊柱が同側側屈するため、骨盤と体幹を結合することで姿勢を安定させています。
麻痺等による機能不全がある場合に考えられること
ベッド上の端座位で骨盤傾斜の練習をしても、トイレ場面になると上手く重心移動や下衣操作が行えないことがあります。ベッドと便座の環境を比較すると、便座上では重心移動を行える範囲が狭くなるという特徴があります。
環境としての難易度が上がると、筋による制御は行えず代償動作により骨盤の後傾と麻痺側後退が生じます。便座上で下衣操作を行ったり臀部を拭くと姿勢が崩れ、より介助が必要となったり転倒のリスクにも繋がります。
活動を行うための身体機能の評価だけではなく、環境の違いにより動作が変化するかを確認する必要があります。またその点を病棟や家族にも伝えることで、転倒のリスクを減らし、より安全に生活できる可能性があります。
臨床での実践例
後輩の患者さんで実際にあった例を紹介します。前述した動作獲得に必要な身体機能を伝え、その点に着目して評価、介入してもらいました。
1. 獲得したい動作
- ズボンの後ろが上げられない
- お尻が拭けない
2. 評価
体幹回旋と側方重心移動が行えず、脊柱起立筋、腹斜筋群の機能不全と椎間関節の制限がみられました。
3. 介入
- 椎間関節のモビライゼーション
- 脊柱起立筋のリラクゼーション
- 腹斜筋群の強化
これらの介入を行いベッド座位の側方移動や回旋可動域は増えました。しかしトイレ動作場面ではあまり変化がなく、どうしたらいいかと相談がありました。
4. 動作練習
そこで身体の使い方を学習するために、実際にトイレ内や便座での動作練習を取り入れてもらいました。繰り返しの動作練習により自身でズボンの後ろを上げ、お尻が拭けるようになりました。
まとめ
- 座位でのADL動作を行うためには体幹の安定性と四肢の運動性の両立が必要
- 筋の制御としては多裂筋、最長筋、内外腹斜筋、腰背筋が座位でのトイレ動作に必要
- トイレ動作はベッド上の練習だけでは不十分。環境の変化に伴い動作が変化し代償動作や転倒リスクに繋がる可能性がある
参考文献
- 佐藤房郎: 片麻痺の体幹運動と筋活動
- 鈴木俊明: 体幹機能の謎を探る