こんにちは、理学療法士の内川です。
「三角筋って大きな筋肉だけど、具体的にどの動きに関与しているの?」
「MMTのとき、どの部分を評価しているのか自信がない…」
「肩の痛みがある患者さん、三角筋の問題なのか、腱板なのかどう評価すればいい?」
新人の頃は、三角筋が肩の大きな筋肉であることは知っていても、各部位の機能や、臨床での評価・アプローチ方法が曖昧なことが多いですよね。しかし、三角筋は肩関節の安定性や上肢の動きに深く関与し、リハビリの現場で頻繁に関わる筋肉の一つです。
特に、腱板とのバランスや肩甲骨の動きとの関連を考えながら評価・アプローチすることが大切です。本コラムでは、三角筋の解剖から評価、機能訓練、そして臨床の視点までを詳しく解説していきます。
目次
1. 三角筋の解剖と作用

起始
- 前部線維:鎖骨外側1/3
- 中部線維:肩峰
- 後部線維:肩甲棘
停止
- 上腕骨三角筋粗面
支配神経
- 腋窩神経(C5, C6)
作用
- 前部線維:肩関節の屈曲、内旋、水平内転
- 中部線維:肩関節の外転
- 後部線維:肩関節の伸展、外旋、水平外転
三角筋は、前部・中部・後部の3つの線維に分かれ、それぞれが異なる動作を担っています。日常生活では、荷物を持ち上げる、腕を伸ばして物を取る、後ろに手を回す動作などで働きます。
2. 三角筋の評価
触診
- 前部線維
- 鎖骨外側1/3と肩鎖関節の間を触る
- 肩関節の屈曲を行い、筋の収縮を確認する
- 前部線維
- 中部線維
- 肩峰を探し、その直下を触知する
- 肩関節の外転を行い、筋の収縮を確認する
- 中部線維
- 後部線維
- 肩甲棘と肩峰角を触知し、その下を触る
- 肩関節の伸展を行い、収縮を確認する
MMT(徒手筋力テスト)
前部線維の評価(肩関節屈曲)
段階5、4、3の手順:

- 座位で肘を伸ばしたまま、前腕回内位で肩関節90°屈曲位とする(段階3の手順)
- 検査者は肘の直上で上腕骨に抵抗をかける。もう一方の手は肩に手を置き肩関節の安定に用いる
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:中等度の抵抗に対して保持できる
- 3:抵抗がなければ可動域を動かせる
段階2、1、0の手順:

- 側臥位を取り、テストする腕を肘のところで支える
- 肩関節の屈曲を行ってもらう
判断基準:
- 2:全可動域を動かせる
- 1:三角筋前部に筋収縮を感じられるが運動は起こらない
- 0:動きも収縮もない
中部線維の評価(肩関節外転)
段階5,4,3の手順

- 座位で両上肢を対側に置き、肘を軽い屈曲位
- セラピストは患者の後ろに立つ
- 前腕は回内外中間位で90°まで肩関節を外転させる
- 肘の直上で下方に向かい抵抗をかける
判定基準:
- 5:最大抵抗に対しポジションを保てる
- 4:強い抵抗に対しポジションを保てる
- 3:抵抗がなければ全可動域動かせる
段階2の手順

- 背臥位で上肢を対側に置き軽く肘を屈曲させる
- セラピストは検査側に立ち、触診の手は三角筋の外側を腕の近位1/3のところで触る
- 肩回旋中間位でベッドを滑らせるように外転させる
判定基準:
- 2:背臥位のポジションで全可動域動かすことができる
段階1,0の手順

- 背臥位をとる
- セラピストは検査側に立ち、触診の手は三角筋中部(肩峰より外側)におく
- 外転させようとする
判定基準:
- 1:運動は起こらないが三角筋の収縮を触知、または目視できる
- 0:筋活動なし
後部線維の評価(肩関節伸展・水平外転)
段階5,4の手順

- 患者を腹臥位にし、肩関節90°外転、肘関節伸展位で検査台から前腕を出す
- 肩関節の水平外転を行ってもらい、肘の直上に対して抵抗をかける
判定基準:
- 5:最大抵抗に対しポジションを保てる
- 4:強い抵抗に対しポジションを保てる
段階3の手順

- 患者を腹臥位にし、肩関節90°外転、肘関節屈曲位で検査台から前腕を出す
- 肩関節の水平外転を行ってもらう
判断基準:
- 3:抵抗がなければ可動域全体を動かせる
段階2,1,0の手順

- 座位をとってもらい、肩関節90°外転位とする
- 前腕を遠位から支え、腋窩のすぐ上、肩甲骨側を触知する
- 水平外転を行ってもらう
判断基準:
- 2:全可動域を動かせる
- 1:三角筋後部に筋収縮を感じられるが運動は起こらない
- 0:動きも収縮もない
3. 三角筋のアプローチ
- リリース方法
- 方法①:各三角筋の触知を行い、そのまま深呼吸を行う
- 方法②:三角筋を把持し揺らす様にしてリリースを行う。
4. 三角筋の特徴
- 三角筋は肩関節の主要な動作に関与しますが、腱板(特に棘上筋)とのバランスが非常に重要です。腱板が十分に機能しない場合、肩峰下インピンジメント症候群のリスクが高まります。
- 三角筋は大胸筋や上腕筋、上腕三頭筋、僧帽筋、棘下筋、広頚筋に筋肉の連結を持っています。
- 腋窩神経麻痺を生じると三角筋の萎縮が生じます。
5. 臨床ちょこっとメモ
- 肩関節屈曲時に肩の外側に疼痛を訴える方は多いですが、三角筋自体の問題よりは腋窩神経の関連痛であることが多いです。(肩関節包の伸張ストレス)
- 三角筋が単独で収縮すると上腕骨頭の上方変位を起こします。肩関節外転時の動きは、棘上筋が上腕骨頭を関節窩へ押し付け、棘下筋と肩甲下筋が上腕骨頭を下方変位させ、棘下筋と小円筋が上腕骨頭を外旋させることでスムーズに上がる様になっています。(フォースカップルと言います)
6. まとめ
- 三角筋の解剖学的特徴と機能
- 前部線維:鎖骨外側1/3に起始、肩関節の屈曲・内旋・水平内転に作用
- 中部線維:肩峰に起始、肩関節の外転に作用
- 後部線維:肩甲棘に起始、肩関節の伸展・外旋・水平外転に作用
- 全ての線維は上腕骨三角筋粗面に停止
- 支配神経は腋窩神経(C5, C6)
- 日常生活の上肢動作に広く関与する
- 三角筋の評価方法
- 触診:各部位の起始に沿って触知し、対応する動作時の収縮を確認
- 前部線維MMT:肩関節90°屈曲位での保持力を評価、段階に応じて座位または側臥位で実施
- 中部線維MMT:肩関節90°外転位での保持力を評価、段階に応じて座位または背臥位で実施
- 後部線維MMT:肩関節90°外転位からの水平外転を評価、段階に応じて腹臥位または座位で実施
- 各部位ごとに段階0〜5の基準で判定
- 臨床的特徴と留意点
- 腱板(特に棘上筋)とのバランスが重要で、不均衡がインピンジメント症候群のリスクとなる
- 大胸筋や上腕筋、上腕三頭筋、僧帽筋などの周囲筋と筋連結を持つ
- 腋窩神経麻痺で萎縮が生じる
- 肩外側の疼痛は三角筋自体より腋窩神経の関連痛が多い
- 単独収縮で上腕骨頭の上方変位を起こす
- 正常な肩関節外転にはフォースカップル(棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・小円筋との協調)が必要
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
7. 参考文献
- 基礎運動学 第6版補訂
- 骨格筋の形と触察法 改訂第2版
- 機能解剖学的触診技術 上肢
- 筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版[Web動画付]