前斜角筋の解剖と機能を徹底解説! 〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜

こんにちは、理学療法士の内川です。

「前斜角筋の役割って何だろう?」

「肩こりや胸郭出口症候群と関係があるの?」

「臨床で前斜角筋を評価・アプローチするにはどうすればいいの?」

このような疑問をお持ちの理学療法士・作業療法士の方もいるのではないでしょうか。

前斜角筋は、頸部の安定と呼吸を助ける重要な筋肉です。デスクワークやスマートフォンの使いすぎで姿勢が悪くなると、前斜角筋が過緊張を起こしやすく、肩こりや胸郭出口症候群(TOS)の原因となることがあります。

今回は、理学療法士・作業療法士向けに、前斜角筋の解剖から、臨床での評価、アプローチ方法、機能低下による影響まで、詳しく解説します。

前斜角筋の解剖と作用

前斜角筋の解剖図
前斜角筋

起始

  • 第3~第6頸椎の横突起

停止

  • 第1肋骨(前斜角筋結節)

支配神経

  • 頸神経叢(C4~C6)

作用

  • 頸部の側屈(同側)
  • 頸部の前屈(両側収縮時)
  • 第1肋骨の挙上(吸気補助)

前斜角筋は、主に頸部の安定と呼吸の補助に関わり、胸郭出口症候群とも密接な関係があります。中斜角筋・後斜角筋とともに斜角筋群を形成し、腕神経叢や鎖骨下動脈などの重要な神経や血管と近接しています。

前斜角筋の評価

触診

前斜角筋の触診
前斜角筋の触診
  • 胸鎖乳突筋の後縁、下顎角の高さで触診します。
  • 頸椎横突起に向かって指を押し込むように触れます。
  • 患者さんに息を最大限吐ききってもらい、前斜角筋の収縮を確認します。

注意点: C5レベルには頸動脈洞があり、低い位置で触診を行うと迷走神経反射を起こす可能性があります。

徒手筋力テスト(MMT)

頸部屈曲のMMT

  • 体位: 背臥位、膝関節屈曲位
頸部屈曲MMT
頸部屈曲MMT
  • 段階5, 4:
    1. 顎を引いた状態を保持し、天井を見たまま頭部を挙上してもらいます。
    2. 検者は指2本で顎に抵抗を加えます(軽度の抵抗)。
  • 段階3: 段階5, 4の手順で抵抗を加えません。
  • 判断基準
    • 5, 4: 抵抗に対して頭部を保持できる。
    • 3: 抵抗がなければ可動域全体を動かせる。
胸鎖乳突筋のMMT
胸鎖乳突筋MMT
  • 段階1, 0 (胸鎖乳突筋の収縮確認):
    1. 患者さんに左右に首を向けてもらいます。
    2. 検者は胸鎖乳突筋を触診します。
    3. 反対方向に顔を向けてもらいます。
  • 判断基準
    • 2: 可動域の一部を動かせる。
    • 1: 動きはないが、筋収縮が確認できる。
    • 0: 筋収縮が確認できない。

胸郭出口症候群(TOS)の評価

  • アドソンテスト
アドソンテスト1
アドソンテスト
アドソンテスト2
アドソンテスト
  1. 検者は、患者さんの橈骨動脈を触知し、もう一方の手を同側の肩上面に置きます。
  2. 患者さんに、検査する側へ頭部を回旋・伸展させ、深く息を吸ってもらいます。
  3. 検者は脈拍の変化を確認します。
  4. 変化がなければ、反対側へ頸部を回旋・伸展させ、同様に脈拍の変化を確認します。

陽性: 橈骨動脈の脈拍が減弱または消失する。

  • モーレイテスト
モーレーテスト1
モーレーテスト
モーレーテスト2
モーレーテスト
  1. 検者は、患者さんの鎖骨上窩を1分間圧迫します。
  2. 次に、斜角筋三角の上方を1分間圧迫します。

陽性: 前胸部や上肢に放散痛やしびれが生じる。

前斜角筋へのアプローチ

ストレッチ

  • 両手を胸骨(頸切痕)に当て、胸骨を引き下げるようにしながら頸部を伸展させます。

リリース

  • 触診と同様に前斜角筋を触知し、患者さんに深呼吸を行ってもらいます。

機能低下と影響

前斜角筋と中斜角筋の間を腕神経叢が通るため、前斜角筋の持続的な緊張は胸郭出口症候群の原因となることがあります。

臨床ちょこっとメモ

  • 前斜角筋は過緊張を起こしやすいため、筋力トレーニングはあまり行われません。
  • 前斜角筋は吸気の補助もしますが、呼吸が浅い人は過剰に働きやすいため、筋の状態だけでなく、呼吸の状態も確認しましょう。
  • ストレートネックでも過緊張などが生じやすく、頸部痛の原因の一つとなるため、肩こりの患者さんにもリリースが効果的なことがあります。

まとめ

1. 解剖学的特徴と機能

  • 前斜角筋は第3~第6頸椎横突起から第1肋骨(前斜角筋結節)に付着する。
  • 頸神経叢(C4~C6)に支配されている。
  • 主な作用は、頸部の側屈(同側)、頸部の前屈(両側収縮)、第1肋骨の挙上(吸気補助)であり、頸部の安定性と呼吸補助に重要な役割を果たす。

2. 評価と症状

  • 触診は、胸鎖乳突筋の後方から頸椎横突起へ向けて行い、最大呼気時に収縮を確認する。
  • MMTでは頸部屈曲を評価し、抵抗に対する保持能力を判断する。
  • 前斜角筋の過緊張は胸郭出口症候群(TOS)の原因となりうる。
  • TOSの評価にはアドソンテストやモーレイテストが有用である。

3. アプローチと臨床上の注意点

  • ストレッチでは、胸骨を引き下げながら頸部を伸展させる。
  • リリースは、筋を触知しながら深呼吸を促す方法が効果的である。
  • デスクワークやスマートフォンの使用による不良姿勢で過緊張しやすい。
  • 呼吸が浅い人は過剰に働きやすいため、筋の状態だけでなく呼吸状態も確認する。
  • ストレートネックや肩こりの症状がある人にリリースを行うと効果的な場合が多い。

今回お伝えした内容は、前斜角筋単独の機能です。実際の臨床では、周囲の多くの筋肉との関係や深さを考慮する必要があります。周囲の組織をイメージできていますか?もし不安な方は、ぜひ一緒に学びましょう。

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参考文献

  1. 新・徒手筋力検査法 原著第10版[Web動画付]
  2. プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
  3. 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)
  4. 機能解剖学的触診技術 上肢
  5. マッスルインバランスの理学療法
  6. 病態動画から学ぶ臨床整形外科的テスト~的確な検査法に基づく実践と応用 【Web動画付き】 (実践リハ評価マニュアルシリーズ)

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