デイサービスの重度者対応が変わる! QOLを向上させる個別プログラムの作り方【事例3選】

中重度者のレクリエーションが変わる!  PT・OTが知るべき意義、課題、明日から使えるアプローチ

こんにちは、作業療法士の内山です。

デイサービスの利用者さんのなかには、ADL(日常生活動作)が大きく低下した方や、重度の認知症を抱える方もいらっしゃいます。「こうした方々に、どうすれば質の高いリハビリを提供できるだろう…」と悩んでいませんか?

今回は、重度の利用者さまに特化した個別対応プログラムに焦点を当て、その必要性から具体的な実践方法、そしてQOL(生活の質)をいかに向上させるかについて、実際の取り組み事例を交えながら深く掘り下げていきます。重度者支援の新たな可能性を、一緒に探っていきましょう。

 
前回は「感染症対策とリハビリの両立」について考えました。そちらもぜひご覧ください!

なぜ重度者向けの個別プログラムが必要なのか?

デイサービスにおける重度者とは、一般的に要介護3以上で、日常生活の多くの場面で介助を必要とする方々を指します。具体的には、移乗や移動に全介助が必要な方、認知症が進行し意思疎通が困難な方などが含まれます。

従来のデイサービスでは、こうした重度者の方々は「見守り中心」「安全確保が最優先」という位置づけになりがちでした。しかし、私は重度者であっても、適切な個別プログラムを提供することで、残存機能の維持・向上、そして何より「その人らしさ」を発揮していただくことができると確信しています。

重度者向けプログラムの目的は、単なる機能回復だけではありません。むしろ、現在の状態を維持し、少しでも快適に過ごしていただくこと、ご家族の介護負担を軽減すること、そして最期まで尊厳を持って生活していただくことが重要な目標となります。

【実践】重度者の状態をどう評価する?観察中心のアプローチ

重度者の評価では、既存の評価バッテリーをそのまま適用することが難しいケースが多くあります。そのため、観察評価を中心とした多角的なアプローチが不可欠です。

① 残存機能の詳細な評価

  • 感覚機能:視覚、聴覚、触覚への反応(例:音に振り向くか、触れたものに気づくか)
  • 運動機能:わずかな随意運動の有無、関節可動域の状態
  • 認知機能:表情の変化、視線の動き、声色やしぐさによる感情表出
  • コミュニケーション:言語以外の反応(例:うなずき、身振り、表情)による意思表示

② 生活背景のヒアリング(ご家族から)

ご本人からの聴取が困難なため、ご家族からの詳細な情報がプログラム立案の鍵となります。

  • これまでの生活歴:仕事、熱中していた趣味、大切にしていた価値観など
  • 嗜好:好きだった音楽、食べ物、活動、場所
  • 介護上の注意点:ご家族が特に配慮していること、介助のコツ
  • ご家族が感じている変化:最近気づいたこと、嬉しかった反応など

③ 日常生活での観察評価

  • 表情の変化や感情の起伏はどのような時に見られるか
  • 特定の音楽や匂い、人に対して特別な反応を示すか
  • 時間帯による心身の状態の変化(覚醒レベルなど)
  • 他者との関わりの中でどのような反応が見られるか

QOL向上に繋がる!重度者向け個別プログラムの具体例

評価で得られた情報をもとに、その方の状態や残存機能に応じて、以下のようなアプローチを組み合わせて個別プログラムを立案・実施します。

① 感覚刺激プログラム

  • 音楽療法:馴染みのある楽曲を聴く、楽器の音で聴覚を刺激する
  • 触覚刺激:様々な質感の素材(タオル、毛糸、ビーズなど)に触れる
  • 視覚刺激:色鮮やかな写真や絵画、思い出の品を見せる
  • 嗅覚刺激:好きだった花の香りやアロマオイルで嗅覚を刺激する

② 関節可動域維持プログラム

  • 拘縮予防のための他動的関節可動域訓練
  • 温熱療法(ホットパックなど)の併用によるリラクゼーション効果
  • ご家族にも指導し、自宅でも継続できる簡単な内容の提案

③ コミュニケーション促進プログラム

  • 表情や視線、わずかな動きから意思を読み取る練習
  • 「はい・いいえ」で答えられるような簡単な選択肢による意思決定支援
  • 昔の話や思い出話を傾聴し、共感的な姿勢で関わる

④ 生活リズム調整プログラム

  • 日中の覚醒レベルを高めるための活動導入
  • 食事や休息の時間を調整し、体内リズムを整える
  • 季節感のある活動(例:季節の飾りつけ、旬の食材に触れる)の提供

【事例で学ぶ】重度者支援の成功アプローチ3選

当デイサービスでの実際の取り組み事例を3つご紹介します。

状況:発語はほとんどなく、車椅子での生活。表情の変化も乏しい状態でした。

アプローチ:ご家族から「昔は裁縫が得意だった」という情報を得て、布の感触を活用した感覚刺激プログラムを実施。

具体的内容:綿、シルク、ウールなど、様々な質感の布を手に触れていただき、その反応を注意深く観察しました。

結果:滑らかなシルクの布に触れた際に、ふっと表情が和らぎ、手でゆっくりと布を撫でるような動作が見られました。ご家族からも「久しぶりに穏やかな表情を見ることができて嬉しい」と大変喜ばれました。

状況:左片麻痺と失語症があり、移乗は全介助。意思疎通が困難な状態でした。

アプローチ:元教師だったという生活歴から、馴染み深いであろう童謡や唱歌を用いた音楽療法を導入。

具体的内容:「故郷」や「仰げば尊し」などを流しながら、麻痺のない右手で簡単な打楽器(鈴やタンバリン)の演奏を促しました。

結果:「故郷」のメロディに合わせて、右手が自然にリズムを刻む様子が観察され、時には静かに涙を流されることも。音楽が、言葉にできない感情を表現する貴重な手段となりました。

状況:歩行困難、嚥下機能低下があり、全体的に活動意欲が低下していました。

アプローチ:「昔は庭いじりが大好きだった」という情報を基に、座位のままでできる植物の世話をプログラムに組み込みました。

具体的内容:車椅子でも安全に手の届く高さの花壇を用意し、水やりや枯れた葉の手入れなどをお願いしました。

結果:植物の成長を日々の楽しみにされるようになり、「今日は新しい芽が出ているかな」といった発語が増加。ご家族からも「デイサービスに行く日の朝は表情が明るい」との報告をいただきました。

チームで支える!家族・多職種連携のポイント

重度者向けプログラムの成功は、セラピスト一人の力だけでは成り立ちません。ご家族や多職種との密な連携が不可欠です。

① 家族との連携

  • 情報共有:定期的な面談で、ご自宅での様子とデイでの変化を共有する。
  • 理解促進:プログラムの目的と内容を丁寧に説明し、同意と協力を得る。
  • 指導・提案:自宅でも継続できる簡単なケアや関わり方をアドバイスする。

② 多職種連携

  • 看護師:バイタルサイン、服薬状況、医療的ケアとの調整。
  • 介護福祉士:食事、排泄、入浴など日常ケアの中での気づきや変化を共有。
  • 管理栄養士:嚥下状態に応じた食事形態や栄養面の検討。
  • ケアマネジャー:ケアプラン全体との整合性を図り、サービス調整を行う。

当デイサービスでは、重度者の方について月1回のカンファレンスを開催し、多職種で情報を集約・分析しています。これにより、一貫性のある質の高いケアの提供を目指しています。

最優先事項!安全管理とリスク対策

新たなプログラムに挑戦する上で、安全性の確保は絶対条件です。

  • 医療的配慮:バイタルサインの活動前後での確認、既往歴の再確認、緊急時対応マニュアルの整備と周知。
  • 誤嚥・窒息の予防:活動内容に応じた嚥下機能の評価、口腔内への配慮、小さな物品の管理徹底。
  • 転倒・転落の予防:移乗時の介助方法の標準化、車椅子ブレーキの確実な実施、活動環境の整備。
  • 感染症予防:手指衛生の徹底、使用物品の消毒、体調不良者の早期発見と対応。

プログラムの効果測定と継続的な改善

効果測定は、数値的な機能回復だけでなく、質的な変化を捉える視点が重要です。

① 質的な変化の観察

  • 表情の変化(笑顔が増えた、穏やかになった等)
  • 感情表出の頻度や種類
  • 活動への参加意欲や集中時間の変化

② 生活の質(QOL)の評価

  • 日中の覚醒レベルの改善
  • 睡眠パターンの安定
  • 食事摂取量の変化
  • ご家族が感じる介護負担感の変化

これらの変化を記録し、月1回の評価会議でプログラム内容を常に見直し、利用者さまの状態に合わせて柔軟に改善していくことが質の維持・向上に繋がります。

まとめ:重度者支援は「その人」と向き合うことから始まる

最後に、本日の重要なポイントを3つにまとめます。

  1. 重度者であっても、適切な個別プログラムによって残存機能の維持やQOL向上、「その人らしさ」の発揮は可能である。
  2. 感覚刺激、関節可動域維持、コミュニケーション促進など多角的なアプローチと、それを支える観察中心の丁寧な評価が鍵となる。
  3. 安全確保を最優先し、家族や多職種と密に連携しながら、常にプログラムを評価・改善していく姿勢が重要である。

重度者へのリハビリテーションは、挑戦と発見の連続です。この記事が、皆さんの臨床における新たな一歩のきっかけとなれば幸いです。


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