こんにちは、理学療法士の内川です。
「手関節の回内って、円回内筋だけじゃないの?」
「前腕遠位を安定させる筋肉って、意識して評価したことないかも…」
「どうも前腕の内側がうまく使えていない気がするけど、どの筋肉を見ればいいんだろう?」
もし、あなたがこのような疑問を抱えたまま、円回内筋ばかりにアプローチしているとしたら、臨床の幅を広げる大きなチャンスを逃しているかもしれません。
今回注目するのは「方形回内筋(pronator quadratus)」です。前腕の深層にあるこの小さな筋肉は、手関節の安定性、特に前腕の細かいコントロールや手指の巧緻性、そして回内運動の最終域において、極めて重要な役割を担っています。
この記事では、臨床で見過ごされがちな方形回内筋の全てを、明日から使える知識として徹底解説します。
この記事でわかること
1. 方形回内筋の解剖と作用

- 起始:尺骨遠位1/4前面(内側)
- 停止:橈骨遠位1/4前面(外側)
- 支配神経:正中神経(前骨間神経 C8〜T1)
- 主な作用:前腕の回内(特に終末域)
- 補助作用:橈尺関節(遠位)と橈骨の安定、回内中の滑走制御
ポイント円回内筋が主に近位での回内初動に関与するのに対し、方形回内筋は終末域の制御と安定性維持に重要です。
2. 方形回内筋の評価
方形回内筋の機能を正しく評価するためには、触診と徒手筋力テスト(MMT)が基本となります。
触診
- 尺骨遠位部の掌側面を深く触知します。
- 手指を握り込ませないように注意しながら前腕を回内してもらい、尺骨の深層にて筋収縮を確認します。
MMT(徒手筋力テスト)
段階5, 4, 3, 2 の手順


- 座位で上肢を体側に置き、肘関節を90°屈曲、前腕を回外位に保ちます。
- その位置から、患者に前腕を回内させます。
- (段階3)抵抗なしで全可動域を動かせれば、段階3です。
- (段階5, 4)肘を支持し、手関節近位の前腕掌側(橈骨上)に抵抗を加えます。
- 段階5:最大の抵抗に対して最終域を保持できる。
- 段階4:中等度の抵抗に対して最終域を保持できる。
- (段階2)重力を除いた肢位(または重力下で)で、可動域の一部でも動かせれば段階2です。
段階1, 0 の手順

- 段階5,4,3,2と同様の肢位をとります。検者は肘の遠位で前腕を支持します。
- もう一方の手で方形回内筋(または円回内筋)を触診します。円回内筋は上腕骨内側上顆から橈骨外側縁に引いた対角線上で触知できます。
- 患者に回内運動を指示します。
- 段階1:運動は起こりませんが、筋収縮が確認できます。
- 段階0:運動も筋収縮も確認できません。
3. 方形回内筋のアプローチ
筋力トレーニング
- セラバンドやチューブを手関節レベルに巻き、抵抗に抗して回内運動を反復させます。
- 特に回内の最終可動域までしっかりと動かすことを意識させることが重要です。
4. 機能低下がもたらす影響
方形回内筋の機能が低下すると、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 前腕回内、特に最終域での不安定感
- 遠位橈尺関節(DRUJ)の不安定性
- ピンチ(つまみ)動作時の把持不安定性(※前骨間神経が支配する他の筋、長母指屈筋や深指屈筋と合わせて評価が必要)
- DRUJ不安定性は、手関節痛やグリップ力(握力)の低下に直結する可能性があります。
5.【明日から使える】臨床ちょこっとメモ
臨床のヒント
- 橈骨遠位端骨折の手術では、プレート固定のために方形回内筋が切開されることがあります。術後、この方形回内筋でプレートを覆うことで、プレートと屈筋腱との摩擦を防ぐ重要な役目を担います。
- 方形回内筋は、前骨間神経麻痺のスクリーニングに使える重要な評価筋の一つです。母指や示指の屈筋群(FPL、FDP)の筋力とあわせて評価しましょう。
- 遠位橈尺関節(DRUJ)の不安定症例では、方形回内筋の的を絞った再教育が治療の鍵となります。
- 臨床では、円回内筋が過緊張・短縮し、方形回内筋が弱化しているというアンバランスなパターンが多く見られます。回内運動を評価する際は、この2つの筋のバランスに着目すると良いでしょう。
6. 総まとめ:方形回内筋アプローチの要点
この記事では、前腕の安定性と回内運動の鍵となる方形回内筋について解説しました。臨床での重要なポイントを最後におさらいしましょう。
1. 解剖学的な特徴と機能
- 尺骨と橈骨の遠位1/4を結ぶ深層筋。
- 支配神経は正中神経(前骨間神経)。
- 円回内筋が回内初動を担うのに対し、方形回内筋は回内終末域の制御とDRUJの安定化に特化している。
- 橈骨遠位端骨折の手術では、屈筋腱を保護する役割も持つ。
2. 評価のポイント
- 触診は尺骨遠位の深層で、回内時の収縮を確認する。
- MMTは肘90°屈曲・前腕回外位から開始し、最終域での保持能力を見る。
- 前骨間神経麻痺を疑う際は、長母指屈筋(FPL)や深指屈筋(FDP)と合わせて評価する。
3. 臨床応用とアプローチ
- 機能低下は、回内最終域やDRUJの不安定、ピンチ力の低下につながる。
- DRUJ不安定症では、方形回内筋の再教育が治療の中核となる。
- トレーニングは、セラバンドなどを用いて回内最終域を意識した反復運動が効果的。
- 円回内筋との筋バランスを整える視点が、質の高い回内運動の再獲得に繋がる。
今回解説したのは、あくまで方形回内筋単体の話です。実際の臨床では、周囲の筋群との関係性や、組織の深さを三次元的にイメージすることが不可欠です。
「周囲の解剖学的構造に、まだ不安がある…」
そう感じた方は、私たちと一緒に学びを深めてみませんか?