こんにちは、作業療法士の内山です。
今回は、痛みの管理と機能維持のバランスが特に重要な「関節リウマチ患者さんのトイレ動作支援」に焦点を当て、関節保護の原則を軸とした評価とアプローチを体系的に解説します。
関節リウマチの基礎知識|トイレ動作に影響する特徴的な症状
関節リウマチは、自己免疫の異常により関節に慢性的な炎症が起こり、痛みや変形を引き起こす疾患です。トイレ動作を考える上で、特に理解しておくべき症状は以下の通りです。
- 関節痛と腫脹
炎症による痛みと腫れ。特に手指、手首、足趾などの小関節から始まります。 - 朝のこわばり
起床時に1時間以上続く関節の動かしにくさ。関節リウマチの最も特徴的な症状の一つです。 - 関節変形
進行すると骨・軟骨が破壊され、スワンネック変形など機能的な問題を引き起こします。 - 全身症状と日内変動
倦怠感や微熱に加え、症状が朝に強く日中に和らぐ「日内変動」が見られます。
【工程別】関節リウマチがトイレ動作を困難にする5つの場面
関節の痛みや変形は、トイレ動作の様々な工程で課題となります。
1. トイレまでの移動
股関節や膝関節の痛みにより、歩行自体が困難になります。特に「朝のこわばり」がある時間帯は、第一歩を踏み出すのも一苦労です。
2. ドアの開閉
手指や手首の変形・痛みにより、ドアノブを「ひねる」動作が困難になります。特に球状のドアノブは激痛を伴うこともあります。
3. 衣服の着脱
手指の巧緻性低下により、ボタンやファスナーなどの細かい操作が非常に困難になります。肩関節の痛みで上着の袖に腕を通すのも一苦労です。
4. 便座への移乗(着座・立ち上がり)
膝や股関節の痛み・可動域制限により、「深くしゃがむ」「立ち上がる」という動作が困難になります。
5. 清拭動作
手首や手指の可動域制限、握力低下により、トイレットペーパーをうまく扱えず、十分な清拭が困難になる場合があります。
臨床で必須!関節リウマチのトイレ動作評価のポイント
炎症の活動性と関節機能を分けて評価し、現在の状態に最適なアプローチを選択することが重要です。
- 炎症活動性の評価:DAS28やCDAIで疾患活動性を評価。活動期は「関節保護」を最優先します。
- 関節機能評価:トイレ動作に関連する各関節のROM(関節可動域)、MMT(筋力)を評価します。
- 疼痛評価:VASやNRSで痛みのレベルを定量化。「いつ、どんな動作で痛むか」を詳細に聴取します。
- ADL評価:HAQやJHAQで、患者さんが日常生活で感じている困難さを客観的に評価します。
- 実際のトイレ動作観察:疼痛の出現タイミングや代償動作、関節保護原則が守られているかなどを観察します。
明日から使える!関節保護に基づいたアプローチ法
関節リウマチのリハビリでは、全ての基本となる「関節保護の原則」を患者さんと共有することが最も重要です。
最重要!関節保護の4大原則
- 大きな関節を使う:指先ではなく、手のひら全体や前腕、肩など、より大きく強い関節で力を伝える。
- 両手を使う:片手に集中する負荷を、両手で分散させる。
- 適切な姿勢を保つ:関節がねじれたり、不安定になったりする姿勢を避ける。
- こまめに休む:痛みや疲労を感じる前に、意識的に休息をとる。
身体機能・動作へのアプローチ
- 可動域・筋力訓練:炎症期は他動運動や等尺性運動を中心に、寛解期には自動運動を取り入れ、関節に負担をかけずに機能維持を図ります。
- 衣服着脱の工夫:ボタンの代わりにマジックテープを利用したり、ファスナーに大きなリングを付けたりするだけで、動作は格段に楽になります。
- 移乗動作の工夫:手すりを「押す」ように使い、膝への負担が少ない立ち上がり方を指導します。
環境設定と自助具の活用で「楽にできる」を実現する
少しの工夫と道具の活用で、痛みなく行える動作を増やします。
- 便座の高さ調整:補高便座や便座昇降機を使い、立ち座りの際の膝や股関節への負担を劇的に軽減します。
- 手すりの設置:立ち座りを支える縦手すりや、姿勢を安定させる横手すりを、握りやすい太さ・材質で設置します。
- ドアノブの変更:握る必要のないレバーハンドルタイプへの交換は非常に効果的です。
- 自助具の積極的な活用:衣服の着脱にはリーチャーやボタンエイド、ジッパープルなどを活用し、指先への負担を減らします。
- 温度管理:寒さは「こわばり」を増強させます。トイレ内を暖かく保つことも重要な環境設定です。
【まとめ】関節リウマチのトイレ動作支援で大切なこと
最後に、本記事のポイントをまとめます。
- 関節リウマチのトイレ支援は、「朝のこわばり」や「日内変動」を考慮したタイミング調整と、全ての基本となる「関節保護の原則」の徹底が鍵となる。
- アプローチでは、炎症活動性に応じた運動療法と、自助具や環境設定による関節負荷の軽減を両輪で進めることが極めて重要である。
- ドアノブのレバー化、衣服のマジックテープ化、補高便座の導入など、具体的な工夫の積み重ねが、患者さんのQOLとトイレ自立に直結する。
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