なぜ、その「しびれ」は改善しない? L5神経根症+末梢神経障害の症例から学ぶ臨床推論とアプローチ

なぜ、その「しびれ」は改善しない? L5神経根症+末梢神経障害の症例から学ぶ臨床推論とアプローチ

はじめに:その「しびれ」、原因は一つではないかもしれません

先生の臨床現場でも、「しびれや痛み」の訴えは最もよく出会う症状の一つではないでしょうか。しかし、その原因は教科書通りにはいかず、単純な神経だけの問題で片付けられないケースが非常に多いのが現実です。

実は、しびれの背景には、姿勢、動作パターン、組織の滑走不全、さらには感覚と運動の再教育といった問題まで、いくつもの要因が複雑に絡み合っています。

この記事では、ある症例を基に、私がどのように多角的な視点から「しびれと痛み」の原因を推論し、治療戦略を立てたのか、その思考プロセスを具体的に紹介します。日々の臨床でしびれの原因特定に悩んでいる先生方にとって、臨床推論の一助となれば幸いです。

【症例概要】坐骨神経領域に広がるしびれ

症例情報
  • 年齢・性別: 50代男性
  • 主訴: 右殿部から大腿後面、下腿外側にかけてのしびれと締め付けられるような痛み
  • 発症経緯: 2週間前、重い荷物をかがんで持ち上げた際に右下肢に電気が走るようなしびれが出現。その後、長時間の座位や500m程度の歩行で症状が悪化する。

【初期仮説の構築】症状の部位と誘発因子から考える

まず注目したのは、「どの神経が」「どのような状況で」症状を引き起こしているのか、という点です。

  • 症状の部位: 坐骨神経の走行と一致します。特に下腿外側に症状が強いことから、坐骨神経から分岐する腓骨神経領域の関与が強く疑われます。
  • 誘発因子: 長時間の座位や歩行で症状が悪化することから、神経が動く際の滑走障害や、特定の姿勢で神経の通り道が狭くなる(絞扼)可能性が浮上します。

この時点で、私は以下の2つの可能性を初期仮説として立てました。

初期仮説

仮説1:腰椎レベルでの「椎間孔狭窄による神経根の出口での障害」
仮説2:末梢レベルでの「神経(特に腓骨神経)の滑走不全」

【身体評価からの情報収集】仮説を検証する

次に、立てた仮説を検証するために、以下の身体評価を行いました。

神経テンションテスト

  • SLR+内旋+内転:陽性
    → この結果は、坐骨神経から腓骨神経にかけての神経メカニカルストレスが増大していること、つまり神経の滑走障害の存在を強く示唆します。

圧痛所見

  • 坐骨神経および腓骨神経の走行上に圧痛を認めました。特に腓骨頭周囲の圧痛が顕著でした。

感覚検査

  • 足背から第1・2趾間にかけての表在感覚が低下していました。これは総腓骨神経(特に深腓骨神経)の支配領域と一致します。

筋力評価

  • 前脛骨筋と長趾伸筋にMMT 4レベルの軽度筋力低下が認められました。腓骨筋群にも若干の出力低下が見られました。

姿勢・動作観察

  • 座位:無意識に体を右に傾け、腰を少し丸める(腰椎軽度屈曲)ことで症状を緩和しようとする代償パターンが見られました。
  • 歩行:右足で体重を支える際(立脚期)、体幹が右へ側屈し、骨盤が十分に左へ下がらない(むしろ挙上傾向)特徴的な動きが観察されました。

画像所見

  • MRIにて、L4/5高位の右椎間孔狭窄と、それに伴うL5神経根への圧迫所見が確認されました。

【臨床推論の確定】点と点をつなぎ、病態の全体像を捉える

ここまでの情報を統合すると、この患者様の病態は以下のようにまとめられます。

最終的な病態仮説
  1. ベースとして「L5神経根障害(椎間孔狭窄)」という解剖学的な圧迫が存在する。
  2. それに伴い、神経の遠位(坐骨神経〜腓骨神経)で「神経生理学的な滑走不全」が発生している。
  3. さらに、痛みを回避するための代償動作(右側屈+右への荷重不良)が「運動学的な負荷」となり、神経への機械的ストレスを増大させている。

つまり、「解剖学的圧迫 + 運動学的負荷 + 神経生理学的滑走不全」という3つの要因が重なり合った、複雑な病態であると結論付けました。

【治療戦略の組み立て】多角的な視点からのアプローチ

上記の臨床推論に基づき、単に圧迫部位だけでなく、機能的な問題にも目を向けた包括的な治療戦略を立案しました。

1. 動作・姿勢の再教育

目的:神経根が圧迫される椎間孔の狭窄を助長する動きを止め、回避するポジションを学習させる。
介入:まず、無意識に行っている右側屈パターンを本人に認識させ、体幹の中心軸を保ったまま動く練習を行いました。

2. 神経滑走性の改善

目的:神経自体の動き(滑り)を良くし、機械的ストレスを軽減する。
介入:SLR肢位での股関節内外転運動(ニューラルスライダー)や、腓骨神経周囲の皮膚・筋膜を優しく動かすスキンロールなどを、負荷が強すぎない範囲で慎重に行いました。

3. 感覚の再教育

目的:感覚入力が低下している領域の脳のマップを再活性化させる。
介入:感覚低下が著しい足背〜第1・2趾間に対し、綿球やブラシでの軽擦、温冷刺激、二点識別など多様な刺激を入力。また、片脚立位などの荷重課題を通じて、足底からの固有感覚入力も促しました。

4. 荷重とスタビリティの再構築

目的:代償動作を根本から改善し、右下肢への適切な荷重を可能にする。
介入:鏡を用いて左右の荷重バランスを視覚的にフィードバックしながら、右股関節の伸展・外転筋を促通。片脚立位やスモールステップ課題で、右下肢の支持性を段階的に強化しました。

【まとめ】この症例から学ぶ、しびれ改善の鍵

このケースから学べる最も重要なことは、しびれという症状が、神経自体の圧迫や滑走不全といった器質的な問題だけでなく、そこに加わる「姿勢・動作パターン」「荷重バランス」「感覚のエラー」といった機能的な問題に強く影響されるという事実です。

しびれや痛みに対するアプローチは、「圧迫を物理的に解除する」だけでは不十分なことが多く、「動きと感覚を最適化し、再構築する」という包括的な視点が、根本的な改善のためには不可欠です。

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