広背筋について、以下のような疑問や悩みをお持ちではありませんか?
- 肩甲骨や腕の動きに広背筋がどう関わるのか知りたい
- 広背筋の柔軟性不足が肩や背中の不調に関係しているかも?
- 広背筋を効率よく鍛えたり、リリースしたいけど方法が分からない
広背筋は、体幹から上腕骨に付着する背部最大の筋肉です。引っ張る動作や腕を動かす際に重要な役割を果たし、日常動作からスポーツまで幅広く活躍しています。
しかし、その大きさゆえに、機能低下や柔軟性不足が肩甲骨周囲の問題や姿勢の崩れにつながることもあります。
今回は、広背筋について解剖学的特徴、評価方法、トレーニングやストレッチの実践的な内容をお届けします。これを機に、広背筋の重要性を再認識し、日常生活や臨床での応用に活かしてください!
1. 広背筋の解剖と作用
起始
- 胸椎下部(T7~T12)棘突起
- 肋骨(第9~12肋骨)
- 腰椎・仙椎(胸腰筋膜を介して)
- 腸骨稜
停止
- 上腕骨の小結節稜(上腕骨内側)
支配神経
- 胸背神経(C6~C8)
作用
- 肩関節の内転
- 肩関節の伸展
- 肩関節の内旋
- 引っ張る動作(懸垂、ボート漕ぎなど)や体幹の回旋・安定にも寄与
- 呼吸補助(胸郭の拡張に関与)
2. 広背筋の評価
伸張性評価
手順:
- 背臥位をとる
- 片方の肩関節を完全屈曲してもらう
- 屈曲時に腰椎の前弯が生じるかを確認する
判定:最大屈曲までに腰椎の前弯が生じる場合は広背筋の短縮がある
徒手筋力テスト(MMT)
※広背筋は解剖学的に複雑な構造であり、単体の評価は困難です。MMTに関しても肩甲骨下制にて評価しますが、段階5、4の方法のみとなっています。
方法1
段階5、4の手順:
- 上肢は手掌が天井を向くように体側におき、腹臥位で顔を検査側へ向ける
- 検者は両手で患者の手首の上を掴む
- 患者は上肢を尾側へ下制しつつ、肋骨を骨盤へ近づけるように意識する
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:中等度の抵抗に対して保持できる
別法
手順:
- 座位をとり両手掌を股関節の近くでベッドにおく
- 検者は腰の上、第12肋骨の外側にて広背筋を触知する
- 両手でベッドを押し殿部をベッドから持ち上げる
判断基準:
- 5:殿部を持ち上げられる
機能的評価
- 肩関節可動域検査(特に屈曲、外転時の制限確認)
- 肩甲骨の可動性検査
- 姿勢評価(特に肩甲骨位置、脊柱アライメント)
3. 広背筋のトレーニングとストレッチ
トレーニング
1. プッシュアップ
座位にて座面を両手で押すようにしてお尻を持ち上げる(体幹の屈曲が起こらないように注意して行う)
2. ブリッジ
ブリッジ動作にて両上肢を使い床面を押すようにして身体を持ち上げる
3. プル動作
セラバンドなどを使用し、動かない固定物にセラバンドを巻き、上肢でバンドを伸展方向に引く
ストレッチ
1. 体側伸ばしストレッチ
四つ這いで伸ばしたい方を反対の手の上に置き、正座をするように身体を伸ばす
2. チャイルドポーズ
両手を前方に伸ばし、体幹を引き伸ばす。肩甲骨の位置を意識する。
3. 背臥位での両上肢屈曲
腰椎の伸展が起きないように両上肢を可能な範囲で屈曲しストレッチを行う。
4. 機能低下と影響
広背筋の機能低下や柔軟性の欠如は、以下のような問題を引き起こします:
- 肩関節可動域の制限 – 特に屈曲や外転動作に影響
- 肩甲骨周囲の筋バランスの崩れ – 上肢の運動連鎖に支障
- 姿勢不良 – 猫背や側弯の助長
- 肩や背中の痛み – 慢性的な不快感や機能障害
- 呼吸機能への影響 – 胸郭の可動性制限による呼吸効率の低下
5. 臨床ちょこっとメモ
- 臨床において:広背筋は不良姿勢により過緊張や短縮を生じている場合が多いため、筋力向上より柔軟性の向上や筋の抑制が必要な場合が多いです。
- 肩甲骨の動きと連動:広背筋は肩甲骨の安定性に関与するため、肩甲骨周囲の筋群との連携を考慮することが重要です。
- 腰部への影響:胸腰筋膜と連続しているため、腰痛患者へのアプローチで広背筋の緊張緩和が有効な場合があります。
- 対角線的動きの重要性:広背筋は体幹と上肢をつなぐ筋肉であり、歩行やスポーツ動作における対角線の動きを補助します。
- 筋膜リリースの活用:フォームローラーを使って広背筋のリリースを行うと、肩や腰の可動域が改善されることもあります。
- デスクワーク対策:長時間の前傾姿勢による緊張に対し、定期的なストレッチと姿勢指導が効果的です。
- 呼吸との関連:起始の関係から胸郭の拡張に関与するため、呼吸パターンの改善にも注目が必要です。
6. まとめ
広背筋の基本的特徴と重要性
- 背部最大の筋肉で、体幹から上腕骨まで広範囲に存在
- 肩関節の内転・伸展・内旋を主に担う重要な筋肉
- 胸郭の拡張に関与し、呼吸補助筋としても機能
- 引っ張る動作や体幹の回旋・安定性に重要な役割
- スポーツ動作から日常生活まで幅広く活用される筋肉
評価・訓練のアプローチ
- 伸張性評価は背臥位での肩関節屈曲時の腰椎前弯を確認
- MMTは腹臥位での肩関節下制や座位でのプッシュアップで評価
- 肩甲骨の可動性や姿勢アライメントの確認が重要
- トレーニングはプッシュアップ、ブリッジ、プル動作が基本
- ストレッチは体側伸ばし、チャイルドポーズなどが効果的
臨床的な意義と連携性
- 肩甲骨周囲の筋バランスに大きく影響
- 胸腰筋膜を介して腰部との関連が強い
- 不良姿勢により過緊張や短縮を生じやすい
- 呼吸パターンの改善に重要な役割
- 機能低下は肩関節可動域制限や姿勢不良、呼吸機能低下を引き起こす可能性がある
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
7. 参考文献
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション
- マッスルインバランスの理学療法
- 機能解剖学的触診技術 上肢