僧帽筋の解剖と評価・アプローチ法 – 理学療法士が解説する完全ガイド
こんにちは、理学療法士の内川です。
「僧帽筋が肩甲骨の動きに関与しているのはわかるけど、どの部分がどの動作に関わっているのか整理が難しい…」
「僧帽筋の各部位の触診や評価が苦手…」
「肩甲骨や頸部の安定性における僧帽筋の役割を患者さんにうまく説明できない…」
こんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか?
僧帽筋は、上部・中部・下部の三つの領域に分かれ、それぞれ異なる役割を果たしています。この筋肉は肩甲骨の動きだけでなく、頸部の安定性や姿勢制御にも深く関わっており、臨床でとても大事な筋肉です。
僧帽筋の解剖学的特徴から評価・アプローチ方法までを、部位別の視点を交えながら解説していきます。
それでは、一緒に確認していきましょう!
1. 僧帽筋の解剖と作用
僧帽筋上部
- 起始:外後頭隆起、項靱帯、C7棘突起
- 停止:鎖骨外側1/3
- 神経:副神経、C3-4の頚神経枝
- 作用:
- 肩甲骨の挙上、上方回旋(下部僧帽筋、大菱形筋との協調による)
- 頭部の側屈(同側)および回旋(反対側)
僧帽筋中部
- 起始:T1-T5の棘突起
- 停止:肩甲棘
- 神経:副神経、C3-4の頚神経枝
- 作用:肩甲骨の内転、姿勢安定(特に肩甲骨の中央位置の維持に重要)
僧帽筋下部
- 起始:T6-T12の棘突起
- 停止:肩甲骨の肩甲棘の内側縁
- 神経:副神経、C3-4の頚神経枝
- 作用:
- 肩甲骨の下制、上方回旋(上部僧帽筋との協調)
- 背部全体の安定性(体幹から肩甲骨への力伝達)
2. 僧帽筋の評価
触診
- 上部:鎖骨の上外側部から頸部にかけて触れ、肩甲帯を挙上させ収縮を確認する。
- 中部:脊柱と肩甲骨の間を肩甲棘のレベルで触れ、肩甲骨を内転させ収縮を確認する。
- 下部:肩甲骨下角付近に手を当て、肩甲骨を下制内転させ収縮を確認する。
ここで緊張の高い部分や、圧痛を確認しましょう。
MMT(徒手筋力テスト)
僧帽筋上部(肩甲帯挙上)
段階5、4、3の手順:
- 被検者は座位で両腕は体側に自然に下ろしておく
- 検者は被験者の後方に立ち、肩を耳に向かってすくめるよう指示する
- 最大可動範囲で肩を挙上した状態で保持させ、両肩を押し下げる方向に抵抗をかける
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:中等度の抵抗に対して保持できる
- 3:抵抗がなければ可動域を動かせる
段階2、1、0の手順:
- 被検者は仰臥位または腹臥位になる(腹臥位の場合は頭を楽な方向に向けてもらう)
- 検者は検査側の肩に触れ、もう一方の手で鎖骨の上部外側を触れる(僧帽筋上部繊維)
- 肩を耳に向かってすくめてもらうよう指示する(検者に肩を支持されながら)
判断基準:
- 2:重力を除いた状態で可動域を完全に動かせる
- 1:僧帽筋上部の収縮を鎖骨部、または頸椎部で確認できる
- 0:動きも収縮もない
僧帽筋中部(肩甲帯内転)
段階5、4、3の手順:
- 腹臥位で肩90°外転位 頭部は楽な方向に向けてもらう
- 前腕と手を検査台の外にぶら下げ、天井に向かいあげてもらう
- 一方の手で対側の肩甲帯を支え、もう一方で肩に抵抗をかける
判断基準:
- 5:最大の抵抗に対して保持できる
- 4:中等度の抵抗に対して保持できる
- 3:抵抗がなければ可動域を動かせる
段階2、1、0の手順:
- 段階543と同じ肢位で行う
- 一方の手で肩と腕を支持し腕の重さを除去、もう一方では肩甲骨の内側を触知する
判断基準:
- 2:腕の重さがなければ可動域を完全に動かせる
- 1:わずかな動きがある、または収縮を肩甲骨内側で感じられる
- 0:動きも収縮もない
僧帽筋下部(下制内転)
段階5、4、3の手順:
- 腹臥位で検査側の肩関節145°挙上外転位、前腕中間位、母指を天井にむける
- 腕をできるだけ高く持ち上げてもらう
- 抵抗の位置は前腕遠位部、手関節のすぐ近くで下方(床)に向かってかける
判断基準:
- 5:前腕への強い抵抗に対して保持できる
- 4:上腕遠位の抵抗、前腕への軽い負荷に対して保持できる
- 3:抵抗がなければ腕を台から持ち上げられる
段階2、1、0の手順:
- 543と同じ肢位で行う</li
- 肘を下方から支持し、上肢の重さを取った状態であげてもらう
判断基準:
- 2:上肢の重さがなければ可動域を完全に動かせる
- 1:筋収縮を僧帽筋下部で触知できる
- 0:動きも収縮もない
3. 僧帽筋のアプローチ
僧帽筋の付着は背面であり、筋の収縮が想像しにくい部分です。そのためアプローチする際には筋の位置を解剖書を利用しイメージをさせる、また収縮入れる部分に触れつつ可動させることでより収縮が入りやすくなります。
上部僧帽筋
肩甲帯を挙上を反復しましょう。鎖骨の遠位端を耳に向かい挙上するイメージで行います。
中部・下部僧帽筋
肩甲帯の内転下制を行い、収縮を入れます。このときセラピストは肩甲骨の内側下縁に軽く抵抗をかけます。三角筋の収縮代償が入らないように留意しましょう。
4. 機能低下と影響
僧帽筋のどの部分が弱化しても、肩甲骨や頸部の動きに影響を及ぼします。
- 上部の弱化: 肩甲骨の挙上不全、頭部の安定性低下、頸部の過剰なストレス(頭痛や肩こりの要因)。
- 中部の弱化: 肩甲骨の内転不全による肩甲骨の外転位
- 下部の弱化: 肩甲骨の下制と上方回旋が不十分になり、肩関節の可動域制限や動作時の痛みを誘発。
5. 臨床ちょこっとメモ
- 僧肩甲骨の上方回旋や安定性には、上部・下部僧帽筋と前鋸筋の協調性が欠かせません。
- 上部繊維は長時間の頭部前方位や伸展位による過緊張が見られやすいです。
- デスクワークやものづくり等を行う方には、定期的に肩甲帯を動かすことを生活指導として行いましょう。
- 中部・下部繊維は弱化しやすいといわれています。(ヤンダの筋分類より)
- 中部・下部繊維を収縮させることで肩甲骨が安定し、僧帽筋上部繊維を含めた頸部周囲筋の過度な負担を減らすことにも繋がります。
6. まとめ
僧帽筋の基本的特徴と部位別機能
- 上部・中部・下部の3つの部位で構成される重要な筋肉
- 上部は肩甲骨の挙上と上方回旋、頭部の安定性に関与
- 中部は肩甲骨の内転と姿勢安定に重要
- 下部は肩甲骨の下制と上方回旋、背部全体の安定性に寄与
- 全体として副神経とC3-4の頚神経枝の支配を受ける
評価・検査のポイント
- 各部位の触診は収縮時に確認(上部は鎖骨上外側、中部は脊柱と肩甲骨間、下部は肩甲骨下角付近)
- MMTは部位ごとに異なる肢位と手順で実施
- 上部は座位での肩甲帯挙上、中部は腹臥位での内転、下部は145°挙上外転位での評価
- 圧痛や緊張の程度も合わせて確認することが重要
臨床的意義と機能低下の影響
- 上部の弱化は頸部ストレスと頭痛の原因となる
- 中部の弱化は肩甲骨の外転位を引き起こす
- 下部の弱化は肩関節可動域制限や動作時痛を誘発
- デスクワーク従事者は上部の過緊張に注意が必要
- 中部・下部は弱化しやすく、積極的な機能改善が重要
今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか?不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?
7. 参考文献
- 新・徒手筋力検査法 原著第10版
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション
- 機能解剖学的触診技術 上肢
- マッスルインバランスの理学療法