3.5.4 自律神経系 疾患別の注意点と対応 〜理学療法士・作業療法士のための生理学の教科書〜

3.5.4 自律神経系 疾患別の注意点と対応

こんにちは、理学療法士の大塚です。前回は自律神経のリハビリへの応用についてお伝えしました。今回は疾患別の特徴についてお伝えしていきます。

4-1. 脳血管障害(脳卒中)

4-1-1. 中枢性の自律神経障害

脳血管障害(脳卒中)は脳の一部に血流障害が起きる病態で、損傷部位によってさまざまな機能障害が生じます。脳幹や視床下部周辺が損傷された場合、中枢性の自律神経機能障害が生じる可能性が高く、循環調節や体温調節に異常が生じることがあります。

  • 脳幹部病変:延髄や橋が障害されると、循環・呼吸中枢への影響が大きく、起立性低血圧や異常呼吸パターンが顕著になる場合がある。
  • 視床下部周辺病変:体温調節やホルモン分泌など、全身の恒常性維持機能に影響を及ぼす。

4-1-2. 起立性低血圧や循環調節機能の低下

脳卒中後の患者は、急性期に長期間臥床となるケースが多く、自律神経機能低下だけでなく、筋ポンプ機能の低下や循環血液量の減少も起立性低血圧の原因になります。

  • 評価のポイント
    1. 起立負荷試験を実施し、血圧低下の程度や時間経過を観察
    2. バイタルサインモニタリングのほか、めまい・ふらつきの自覚症状チェック
  • 介入の工夫
    • 第3章で述べた段階的な離床を実施(端座位→立位保持→歩行)
    • 弾性ストッキング腹帯を活用し、静脈還流をサポート
    • 水分・塩分の適切な補給と、医師・看護師・栄養士との連携

4-1-3. 発汗異常や体温調節異常

  • 発汗の左右差:片麻痺側と健側で発汗が異なることがあり、温熱療法や運動負荷時の発汗量を評価する際に注意が必要。
  • 体温調節障害:脳卒中の病巣や重症度により、発熱や低体温が見られることがある。
  • 対応策
    • 室温・水分補給の管理と併用し、過度な温度刺激に配慮
    • 汗をかきにくい場合はオーバーヒートに注意し、運動強度を調整

4-2. 脊髄損傷

4-2-1. 自律神経支配の節位レベル

脊髄損傷では、損傷高位に応じて交感神経支配が遮断される範囲が異なり、さまざまな自律神経障害が生じます。特にT6 以上の高位損傷では、**自律神経過反射(Autonomic Dysreflexia)**が大きな問題となります。

  • 頸髄損傷(C1〜C8):呼吸補助筋麻痺に加え、循環調節障害が高頻度に出現
  • 胸髄損傷(T1〜T12):高位の場合は心臓への交感神経支配が障害されやすい
  • 腰髄損傷(L1〜L5):膀胱直腸障害や性機能障害が顕著

4-2-2. 自律神経過反射(Autonomic Dysreflexia)

Autonomic Dysreflexia とは、T6 以上の損傷者に多くみられる病態で、下部身体に生じた刺激(膀胱・直腸過伸展、皮膚トラブルなど)が過剰な交感神経反射を引き起こし、重篤な高血圧、頭痛、発汗などを呈する状態です。

  • 主な誘因
    • 膀胱の充満(尿閉)やカテーテル閉塞
    • 便秘や直腸の過伸展
    • 褥瘡などの皮膚刺激
  • 対処法
    1. 誘発因子の除去:尿排泄を促し、便通や皮膚状態を確認
    2. 緊急時の姿勢:上体を起こし、血圧の上昇を軽減
    3. バイタルチェック:血圧が極端に上昇した場合は、医師と連携して薬物投与も検討

4-2-3. 起立性低血圧と血圧調節障害

脊髄損傷では、交感神経節前線維が損傷レベル以下に伝わらないため、血管収縮反応が弱くなり、起立性低血圧が生じやすくなります。

  • 対応策
    • Tilt Table(起立台)を用いて段階的に立位訓練
    • 弾性ストッキングやバンテージで下肢を圧迫し、静脈還流を促進
    • 頻回な血圧測定と自覚症状(めまい・ふらつき)の把握

4-2-4. 膀胱直腸障害

  • 支配神経の途絶により、排尿・排便コントロールが難しくなる。
  • 膀胱刺激が過反射を誘発する可能性があるため、定期的な導尿や適切な排便コントロールが重要。
  • 理学療法・作業療法の介入時にも、排泄前後の状態を把握し、過反射発症リスクを減らす工夫をする。

4-3. 糖尿病

4-3-1. 糖尿病性自律神経障害の特徴

長期にわたる糖代謝異常は、末梢神経だけでなく自律神経にも障害をもたらします。

  • 心拍変動(HRV)の低下:交感神経と副交感神経のバランスが乱れ、特に副交感神経活動が低下しやすい。
  • 起立性低血圧:血圧調節不良によるめまいや失神。
  • 無自覚性低血糖:交感神経反応(動悸・発汗)が低下し、低血糖症状に気づきにくい。
  • 胃腸機能障害:胃排出遅延(胃不全麻痺)など。

4-3-2. リハビリテーションの注意点

  1. 運動強度の設定
    • 心拍数を指標にしにくい場合は、RPE(主観的運動強度)血糖値の定期測定を併用。
    • 無自覚性低血糖のリスクを考慮し、運動前後には血糖値の測定症状確認を行う。
  2. 起立性低血圧対策
    • ベッド上エクササイズや筋力強化で循環調節をサポート
    • 急激な姿勢変換は避け、段階的に離床
  3. フットケアの指導
    • 血流障害・末梢神経障害による足部潰瘍や変形予防のため、足の観察や靴選び指導などを徹底。

4-3-3. 多職種連携の重要性

  • 医師・看護師:薬物調整(インスリンや血糖降下薬の種類・タイミング)
  • 栄養士:食事療法の継続管理、低血糖防止のための食事計画
  • 薬剤師:他の合併症薬との併用や副作用リスクの確認
  • 理学療法士・作業療法士:運動プログラムを通じて血糖コントロールと自律神経機能改善を図る

4-4. その他の代表的な病態・疾患

4-4-1. パーキンソン病

  • 自律神経症状:起立性低血圧、便秘、発汗障害などの非運動症状が顕著
  • 注意点
    • 薬の服薬時間によって ON・OFF の症状が変化し、自律神経機能も変動する
    • リハではタイミングを見極めて離床や運動を行い、転倒リスクを軽減

4-4-2. CRPS(複合性局所疼痛症候群)

  • 特徴:外傷や手術後などに、疼痛や腫脹、発汗異常、皮膚温度変化など交感神経機能の乱れがみられる
  • 対応
    • 疼痛管理:侵害刺激を最小限にしつつ、関節可動域や筋力維持を図る
    • 交感神経ブロックなどの医療的介入とリハビリを並行して行う

4-4-3. 自律神経失調症(機能性障害)

  • 症状:倦怠感、めまい、動悸、胃腸不調など多彩
  • 背景:心理社会的ストレスが関与し、身体所見では大きな器質的異常が見られないケースも多い
  • リハ介入のポイント
    • 心身相関を考慮し、呼吸法やリラクゼーション法を取り入れる
    • 有酸素運動をゆっくりと導入し、徐々に体力と自律神経バランスの改善を図る
    • 必要に応じて精神科や臨床心理士との連携も検討

4-5. まとめと臨床上のヒント

  1. 疾患ごとの自律神経障害のパターンを把握することは、リハビリの安全性と効果を高めるうえで不可欠。
  2. 脳卒中や脊髄損傷では、起立性低血圧と自律神経過反射が重要な臨床的課題となる。糖尿病では、血糖コントロールと自律神経障害が密接に関わり、無自覚低血糖などのリスク管理が欠かせない。
  3. 多職種連携による総合的なアプローチが、有効なリハビリテーションの鍵となる。医師・看護師・栄養士・薬剤師などと情報を共有し、オーダーメイドのプログラムを組むことで、より良い患者の転帰が期待できる。
  4. 自律神経機能障害は、筋力や関節可動域の問題と違って目に見えにくい部分も多い。バイタルサインモニタリング簡易機能検査を積極的に活用し、客観的なデータをもとに評価・介入を行うことが重要。

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