こんにちは、理学療法士の赤羽です。
外来などリハビリテーションをするにあたって、膝痛を訴える症例に出会う機会は少なくありません。
膝痛に限らずですが、必ずしも膝痛を訴える患者さんの原因が「膝そのもの」にあるとは限りません。
今回は模擬症例を通して、機能とメカニカルストレスから紐解く臨床推論を考えてみたいと思います。
膝内側痛の症例概要と初期情報
- 60代女性
- 明確な外傷なし、数か月前から右膝内側痛
- 動き始め・立ち上がり・階段下りで増悪
- 夜間痛なし、安静で軽減
- 画像所見:医師からは「年齢相応」と説明されている
この時点で重要なのは、
診断名で介入方法を決めるのではなく、症状がなぜ出現しているのかを考える事です。
1. 動作観察|荷重回避戦略を見抜く
最初に行ったのは動作観察です。
- 立ち上がり:体幹前傾が強く、患側への荷重を避ける
- 歩行:患側立脚時間が短い
- 階段下り:恐怖感が強く、膝が内側に入りやすい(Knee-in)
ここで私は、
「患側荷重を避けた動作戦略をとっていそうだ」と考えました。
この時点で私が重要視するのは「どの組織が悪いか」ではなく、
「どの動作局面で、どんな負荷が集中しているか」です。
2. ROM評価|“ない”より“使えない”角度に注目する
膝関節のROM(可動域)自体は大きく制限されていませんでした。
しかし、以下の所見が得られました。
- 膝関節:他動で伸展可能だが、自動運動では終末域を避ける
- 股関節:伸展・内旋に制限あり
- 足関節:背屈の制限あり
ここで重要なのは、膝だけを見ないことです。
股関節と足関節の可動性低下は、立脚期や階段下りで膝が衝撃吸収や制御を肩代わりせざるを得ない状況を作ります。
3. 触診・筋力|「使われ方」を診る
筋力と触診では、次の特徴がありました。
- 大腿四頭筋
- 筋力低下というより収縮タイミングの遅れ
- 内側ハムストリングス
- 過緊張状態
- 大殿筋・中殿筋後部
- 収縮は弱く、代償動作が多い
- 下腿三頭筋
- 遠心性制御が弱い
ここから見えてくるのは、筋力不足ではなく運動制御の問題です。
膝は、「弱いから痛い」のではなく、
使いづらい状況の中で酷使されている可能性が高いと考えられます。
4. 構造的関与の確認|“壊れているか”ではなく“関与度”
半月板テストや靭帯ストレステストの結果は以下の通りです。
- 明確なロッキングや不安定性なし
- 圧縮や回旋で内側の不快感は再現される
これは構造破綻を示す所見というよりは、負荷に対して敏感になっている状態を示唆すると捉えました。
つまり、侵害受容は存在するが、それを引き起こしているのはメカニカルストレスである可能性が高いということです。
5. 介入テスト|仮説を“確かめる”ための手段
ここで、短時間・低負荷の介入テストを行いました。
- 股関節伸展・外転の促通
- 足関節背屈と遠心制御の改善
- 膝伸展終末域での内側広筋(VM)タイミング促通
【結果】
- 立ち上がり痛、階段下りの痛みが即時に軽減
- 動作に対する恐怖感が低下
この変化は、「膝が主因ではない」「負荷分散と運動再学習が鍵である」という仮説を支持する根拠となります。
最終的な臨床推論の整理
疼痛の性質
侵害受容性疼痛(機械的・負荷依存)
主因
股関節・足関節の制御不全により、膝内側コンパートメントへ負荷が集中している。
膝の立ち位置
痛みの原因ではなく、結果としての被害者。
この症例から学べること
- 疾患名は「ゴール」ではなく「背景情報」である
- 評価は、【動作 → ROM → 筋・制御 → 構造 → 介入テスト】という流れで組み立てると迷いにくい
- 介入テストは治療ではなく、仮説を確認する手段である
おわりに|膝を治す前に、動きを整える
膝痛に対して、膝だけを一生懸命治療しても改善しない症例は少なくありません。
その多くは、膝が働かされすぎている(被害を受けている)状況にある可能性があります。
「どこが悪いか」ではなく、「なぜそこに負荷がかかったのか」。
この視点を持つだけでも、介入の糸口がみえてくることがあります。
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