こんにちは、理学療法士の内川です。
「手指がうまく曲がらないけど、原因はどの筋?」
「前腕の屈筋群って多すぎて、どこからアプローチすればいいの?」
「握力の低下に深指屈筋ってどれくらい関与してるの?」
このような疑問を感じたことはありませんか?
この記事を読めば、深指屈筋(FDP)に関するあなたの疑問が解決し、臨床での評価やアプローチにさらに自信が持てるようになるはずです。
深指屈筋(flexor digitorum profundus, FDP)は、手指の第2〜5指のDIP関節を屈曲させる唯一の筋肉です。
また、前腕の屈筋群の中でも深層にあり、握力や把持動作に直結する重要な筋肉です。臨床では、手指の巧緻性低下や握りづらさ、前腕の張り感、末梢神経障害の影響などで注目される筋の一つです。
今回は、深指屈筋の解剖・評価・リハビリでのアプローチ・臨床的視点まで詳しく解説します。
まずは解剖から確認していきましょう!
1. 深指屈筋の解剖と作用

起始:
- 尺骨上部の前面
- 前腕骨間膜
停止:
- 第2〜5指の末節骨底(DIP関節に停止)
支配神経:
- 正中神経(第2・3指)
- 尺骨神経(第4・5指)
※この2神経支配が臨床的にも非常に重要です!
主な作用:
- 第2〜5指のDIP関節屈曲
- PIP・MP関節屈曲(補助)
- 手関節屈曲(補助)
深指屈筋は、浅指屈筋(PIP屈曲)よりも深層に位置し、DIP関節を曲げる唯一の筋です。このため、手指全体の精密な把持機能においても大きな役割を担っています。
2. 深指屈筋の評価
深指屈筋の機能を正確に評価することは、適切なリハビリテーション計画の立案に不可欠です。
触診方法:
(基本的に深層筋のため、他の屈筋群との完全な個別触診は難しい筋肉です)

- 前腕中間部周囲にて橈骨と尺骨の前面を深部に向かって把持します。
- 患者にDIP関節の屈曲を意識して繰り返し行ってもらい、筋の収縮を確認します。
MMT(徒手筋力テスト):DIP関節屈曲
段階5、4、3の手順:


測定肢位:前腕回外位、手関節中間位、PIP関節伸展位
- 測定する指の中節骨を両側面からつまみ、伸展位にしっかりと固定します。
- 患者に測定する指のDIP関節の屈曲を促し、セラピストは末節骨に対して伸展方向へ抵抗を加えます。
判断基準:
- 5 (Normal): 最大レベルの抵抗に対して全可動域を保持できる
- 4 (Good): ある程度の抵抗(中等度~最大未満)に対して全可動域を保持できる
- 3 (Fair): 抵抗がなければ全可動域を動かせる
段階2、1、0の手順:

測定肢位:前腕中間位(重力の影響を最小限にするため)、手関節中間位、PIP関節伸展位
- 測定する指の中節骨を両側面からつまみ、伸展位に固定します。
- 患者に測定する指のDIP関節の屈曲を促します。
判断基準:
- 2 (Poor): 重力の影響を除けば全可動域を動かせる
- 1 (Trace): 筋収縮を触知できる、またはわずかに動きが見られる
- 0 (Zero): 筋収縮も動きも全くない
※臨床メモ:深指屈筋のMMTでは、抵抗のコントロールが難しいため、セラピストは指1本か2本を使用して慎重に抵抗を加えるようにしましょう。また、手指の筋力測定において重力の影響は比較的小さいとされていますが、特に筋力低下が著しい場合は考慮が必要です。
3. 深指屈筋のアプローチ
深指屈筋の機能改善や症状緩和のための具体的なアプローチ方法を紹介します。
リリース(筋膜リリース・マッサージ)


方法①:触診で行った前腕中間部を、深指屈筋を捉えるように把持し、患者にゆっくりと深呼吸を行ってもらいます。呼吸に合わせて圧を調整し、筋の緊張緩和を促します。
方法②:同様に前腕中間部を把持し、筋線維に対して垂直または平行に、優しく揺らすように動かします。これにより、筋の柔軟性改善や血流促進が期待できます。
ストレッチ

- 手関節を十分に伸展させ、MP関節、PIP関節、そして特にDIP関節までしっかりと伸展させた状態を保持します。
- 反対の手で、伸ばしている指の末節骨(DIP関節より先)を把持し、さらにゆっくりと伸展方向にストレッチします。痛みが出ない範囲で、30秒程度保持することを数回繰り返します。
4. 機能低下と影響
深指屈筋の機能が低下すると、日常生活や特定の作業において様々な問題が生じる可能性があります。
- DIP関節の屈曲不全:DIP関節が曲げられない、または曲げにくくなり、ピンチ動作(つまむ動作)やボタンかけ、書字などの細かい手指の巧緻動作が困難になります。
- グリップ力の低下:物を強く握る際、特に指先での保持が弱くなります。浅指屈筋だけでは補えない深層からの力強さが失われ、全体的な握力が低下します。
- 前腕の易疲労感・症状:反復作業や長時間の握力使用(例:工具の使用、スポーツ)により、前腕が張りやすく、重だるい感覚や痛みが出やすくなることがあります。
- 神経障害の鑑別点:尺骨神経麻痺や正中神経麻痺(特に前骨間神経麻痺)の鑑別診断において、深指屈筋の筋力低下のパターン(どの指に影響が出ているか)が重要な手がかりとなります。
5. 臨床ちょこっとメモ
臨床で役立つ深指屈筋に関する豆知識や着眼点です。
- DIP関節単独の屈曲障害:もし患者さんがPIP関節は曲げられるのにDIP関節だけが屈曲できない場合、深指屈筋の機能障害を強く疑います。
- 神経障害の評価ポイント:前述の通り、深指屈筋は正中神経(第2・3指)と尺骨神経(第4・5指)の二重神経支配を受けています。このため、特に肘部管症候群(尺骨神経障害)や手根管症候群(正中神経障害)、前骨間神経麻痺などの評価において、指ごとの筋力差を詳細に調べることで、障害部位の特定に非常に役立ちます。
- オーバーユースに注意:縫製作業、長時間のパソコン作業(タイピング)、楽器演奏、工具を使用する職業など、指先を細かく、または繰り返し多用する人に深指屈筋のオーバーユースによる症状(腱鞘炎や前腕の痛みなど)が多く見られます。これらの背景も問診で確認しましょう。
6. まとめ
最後に、深指屈筋に関する重要なポイントをまとめます。
1. 解剖学的特徴と作用
- 起始:尺骨上部の前面、前腕骨間膜
- 停止:第2〜5指の末節骨底(DIP関節に停止)
- 支配神経:正中神経(第2・3指)、尺骨神経(第4・5指) ※二重神経支配が臨床的に極めて重要
- 主な作用:第2〜5指のDIP関節屈曲(この関節を屈曲させる唯一の筋)
- 補助作用:PIP・MP関節屈曲、手関節屈曲
- 浅指屈筋よりも深層に位置し、DIP関節を曲げる唯一の筋として機能的に不可欠であり、手指全体の巧緻な把持機能において重要な役割を担います。
2. 評価方法と機能低下の影響
- 触診:前腕中間部で橈骨と尺骨前面を深く把持し、DIP関節屈曲時の収縮を確認(個別触知は難易度高)。
- MMT:PIP関節伸展位で中節骨を固定し、DIP関節屈曲に対して抵抗を加える。段階評価を行う。
- 評価のポイント:個別判断が困難な筋であること、抵抗は指1〜2本で慎重に行うこと。
- 機能低下の影響:DIP関節屈曲不全によるピンチ動作や細かい把持動作の困難、グリップ力の低下、反復作業や長時間握力使用時の前腕の張り・重だるさ、神経障害の鑑別診断における重要な指標。
3. 臨床的意義とアプローチ
- DIP関節のみが屈曲できない場合は深指屈筋機能障害を強く疑います。
- 二重神経支配のため、指ごとの筋力差が神経障害(例:肘部管症候群、前骨間神経麻痺)の評価に極めて有用です。
- アプローチ:
- リリース:前腕中間部把持での深呼吸、揺らし。
- ストレッチ:手首・指全体を伸展位にし、特に末節骨までしっかりと伸ばす。
- 縫製作業・パソコン・工具使用など指先を多用する職業や活動でオーバーユースを起こしやすい筋です。
今回記載した内容は、主に深指屈筋単体についてです。しかし、実際の臨床場面や人間の身体は、多くの筋肉や組織が複雑に関わり合って機能しています。治療においては、深指屈筋だけでなく、その周囲にどのような筋肉が存在し、どの程度の深さにあるのかを立体的にイメージすることが重要です。もし、そのような解剖学的イメージングに不安がある方、より深く学びたい方は、ぜひ一緒に勉強してみませんか?
より詳しい解剖学的イメージはこちらで学べます
>>>【解剖が苦手な方限定】 実践!! 身体で学ぶ解剖学と検査測定(筋肉編)
7. 参考文献