こんにちは、理学療法士の大塚です。
最近、ニュースで「リハビリ職の賃上げ」や「診療報酬の底上げ」という話題を耳にすることが増えましたよね。
現場で働く僕たちにとっては、「やっと給料が上がるのか!」と期待したくなるニュースですが、政府の議論を深く読み解いていくと、単に「全員一律でハッピーになれる話」ではないことが見えてきます。
今日は、現在進んでいる政府の議論の裏側にある「本当のメッセージ」と、それを受けて僕たち療法士がどうあるべきかについて、僕自身の経験も交えて少し真面目に書いてみたいと思います。
政府が求めているのは「時間」だけでなく「結果」
これまでリハビリ業界は、極端に言えば「20分(1単位)リハビリをすれば、一定の点数が入る」という世界でした。
しかし、近年の診療報酬・介護報酬改定の議論、そしてこれからの2026年改定に向けた動きを見ていると、国の方針は明確にシフトしています。
それは、「量(時間)」から「質(成果)」への転換です。
政府内では「メリハリのある評価」という言葉が使われていますが、これはつまり、以下のような方向性を示しています。
「成果(アウトカム)を出し、患者さんを地域や生活に戻せる施設・療法士をより手厚く評価していく」
これまでは実施した「時間」に対して対価が支払われていましたが、これからはリハビリによる「改善」や「自立支援」といった結果が、報酬算定の大きなウェイトを占めるようになってきています。
世界的に見ても「Value-Based Healthcare(価値に基づく医療)」という、コストに対する治療成果を重視する考え方が主流になりつつあり、日本の制度も少しずつ、しかし確実にその潮流を取り入れ始めています。
「機能が良くなれば、ADLも良くなる」と信じていた
では、そんな時代に僕たちには何が求められているのか。
ここで少し、僕の失敗談をお話しさせてください。
僕は今年で臨床23年目になりますが、臨床に出て最初の3年くらいまでは、ある「方程式」を信じ切っていました。
「機能障害(ROMや筋力)を改善すれば、自動的にADLは向上する」
可動域を広げれば、筋力をつければ、患者さんは生活できるようになるはずだ。
そう信じて、目の前の関節や筋肉にアプローチして、可動域の改善や痛みの改善をすることだけに必死になっていました。
でも、ある時気づいてしまったんです。
リハビリ室ではあんなに綺麗に歩けていた患者さんが、病棟や自宅に戻ると、元の動作に戻ってしまっていることに。
「機能改善だけでは、僕(療法士)に依存させるだけで、患者さんのADLまでは変わらない」
この事実はショックでした。
そこから僕は、筋肉や関節だけでなく、その人が置かれている「環境」や、どう認識して動いているかという「脳(認知)」に目を向けるようになりました。
そうすることで初めて、結果が変わってきたんです。
僕たちの仕事は”対象者の日常生活”という「絵を描くこと」
今、現場ではLIFE(科学的介護情報システム)へのデータ提出が求められ、「評価項目が多くて大変だ」という声も聞きます。
Barthel Index、意欲の評価、興味関心チェックリスト、ICFコード……。
確かに、これらをただの「作業」として見ると大変です。
でも、これらはバラバラの「パズルのピース」のようなものです。
- これまでの仕事
このピース(点数)を一つひとつ集めて提出することでした。「可動域は良くなった」「筋力はついた」。それぞれのピースは綺麗になっても、それらが噛み合わず、「木を見て森を見ず」の状態になり、結局再発させてしまうこともありました。 - これからの僕たちの仕事
このピースを組み合わせて、「対象者の日常生活」という一枚の絵(ストーリー)を描くことです。
「なぜ膝が痛いのか?」
その背景には、身体機能というピースだけでなく、脳の認知エラーや、生活環境の問題というピースが必ず隠れています。
それらを組み合わせて「その人らしい生活の全体像(絵)」を描き出し、介入する。
そうしない限り、本当の意味での改善=卒業は訪れません。
僕たちが伝えてきたことは、間違いじゃなかった
こうして国の方向性を整理してみると、あることに気づきます。
僕たち療法士活性化委員会が、研修会を通じてずっとお伝えしてきたことと、国が目指している方向性が大きく重なっているのです。
- HOPE(患者様の望み)の実現
これはまさに、国が重視し始めている「真のアウトカム」です。数値上の改善だけでなく、その人が望む生活を取り戻すこと。 - 徹底した評価(Assessment)と工程分析
ストーリーを描くためには、精度の高い評価が不可欠です。これが最短距離で結果を出す「効率化」につながります。 - 身体・脳・環境の統合
身体機能だけでなく、認知機能や環境要因まで含めてアプローチする。これは「地域完結型ケア」や「活動・参加」へのアプローチそのものです。
僕たちが「患者さんのために」と追求してきたメソッドは、結果として「これからの厳しい時代に、組織からも社会からも求められる療法士のあり方」と合致していたのです。
「足踏み」している暇はない
「制度が変わるのが怖い」「書類が増えて大変だ」
そう感じることもあるかもしれません。
ですが、見方を変えれば、「ちゃんと結果を出せる療法士が、正当に評価される時代」がようやく来たとも言えます。
ただ時間を売る働き方から、「患者さんの人生を変える(行動変容を起こす)」というプロフェッショナルの働き方へ。
療活では、この時代の変化を先取りし、小手先のテクニックではない「臨床の基礎」となる考え方と技術をお伝えしています。
時代の波に飲まれるのではなく、波を乗りこなして、患者さんと一緒に笑い合える療法士を目指しませんか?






