【38.0℃の壁】なぜ発熱時はリハビリ中止?生理学的負担を解説|PT・OTのリスク管理

以前のコラム(全身状態に合わせた「攻め」と「守り」のポジショニング)では、ポジショニングの基本について解説しました。

しかし、臨床現場では以下のような判断に迷う場面が少なくありません。

「37.8℃だけどリハビリをしていいのか?」
「なぜ38.0℃で中止なのか?」

実は、発熱している患者さんの体は、ベッドで寝ているだけでも「フルマラソン」並みのエネルギーを消費していることをご存知でしょうか。

今回は、発熱時の生理学的負担を具体的なシミュレーションで可視化し、リハビリ中止基準の根拠と、迷った時のフィジカルアセスメントについて深掘りします。

本日の疑問:なぜ熱があるとリハビリをしてはいけないのか?

Q. なぜ「38.0℃」以上で積極的なリハビリをしてはいけないのですか?
A. 安静にしていても、身体がすでに「運動中」と同じ負荷状態にあるからです。
Q. 熱がある時に動くと、体の中で何が起きるのですか?
A. 「皮膚」と「筋肉」の間で血液の奪い合いが起き、脳や心臓が虚血になります。
Q. 「ただの熱(こもり熱)」と「危険な発熱」を、体温計以外で見分ける方法は?
A. 「手足の冷たさ」と「体幹の熱さ」のギャップを確認します。

改めて確認する「発熱」の基礎知識

発熱とは、「脳の視床下部にある“体温調節中枢”の設定温度(セットポイント)が、通常よりも高い温度に切り替わった状態」のことです。

これは「生体防御反応」です。体温を上げることで、白血球などの免疫細胞を活性化させ、侵入したウイルスや細菌の増殖を抑えようとしています。一般的に37.5℃以上を「発熱」38.0℃以上を「高熱」として扱います。

主な発熱の原因と特徴

  • 感染性発熱(細菌・ウイルス):もっとも一般的です。
    原因:肺炎、尿路感染症、インフルエンザ、コロナ、褥瘡感染など。
    特徴:悪寒、震え、CRP(炎症数値)の上昇を伴う。
    対策:抗生剤治療と安静。
  • 吸収熱(組織の破壊):手術後や外傷後に見られます。
    原因:術後の傷、骨折による血腫、大きな内出血などが体内で吸収・分解される時に熱が出る。
    特徴:術後数日で自然に下がる(術後熱)。
    対策:生理的な反応なので過度な心配は不要だが、消耗はするので負荷は調整する。
  • 脱水熱(うつ熱):高齢者に非常に多いです。
    原因:水分不足や、室温が高すぎて熱が放散できない(セットポイントは正常だが、体温だけ上がってしまった状態)。
    特徴:脇の下は乾燥していることが多い。水分補給とクーリングで下がる。
    対策:「熱の放散」を助ける(布団を掛けすぎない、腋窩を開くなど)。
  • 中枢性発熱:脳卒中患者特有の熱です。
    原因:脳出血や脳梗塞で、視床下部の体温調節中枢そのものがダメージを受けた場合。
    特徴:解熱剤が効きにくい。高熱が長く続く。
    対策:薬よりも物理的なクーリング(氷枕など)がメインになる。

【重要】発熱に伴う身体への負担シミュレーション

ここが今回の最重要ポイントです。
体温が1℃上がると、生理学的に以下の変化が起こります。

  • 酸素消費量・基礎代謝量:約13%増加
  • 心拍数:約10〜18bpm増加

以下は、高齢者や小柄な成人を想定した身体負担のシミュレーションです。
(※平熱:36.5℃、普段の心拍数:70bpm、基準代謝量:1,500kcal/日と想定)

この表から、体温を上げるために酸素消費量・基礎代謝量が急激に上がり、ただ寝ているだけでも普段よりエネルギーを消費していることが分かります。また、心臓だけは運動時と同じような負担がかかっていることも読み取れます。

表1:発熱に伴う身体負担シミュレーション

体温酸素消費
(身体負担)
心拍数
(安静時)
身体の状態・負担イメージ
36.5℃
(基準)
100%70bpm車のアイドリング状態。
燃費は正常。
37.5℃
(軽度発熱)
113%85bpm体内では軽いウォーミングアップ中。
おにぎり1個分を勝手に消費。
38.0℃
(中止基準)
120%93bpm約1時間ウォーキングしたのと同じ消耗度。
チーズバーガー1個分を寝ているだけで消費。
38.5℃
(危険域)
128%100bpm常に小走りをしているような心負荷。
カップ焼きそば1個分を浪費。
39.0℃
(消耗著明)
136%108bpm栄養補給が追いつかず、筋肉が分解されるレベル。
牛丼1杯分が何もしなくても消える。

表2:心臓への負担(1日の総心拍数)

これを「運動」に換算すると、心臓への負担がより鮮明になります。

体温余分に打つ回数身体負担のイメージ(運動換算)
37.0℃+11,520回【10kmランニング】
毎日10km走った時と同じ負担。
37.5℃+21,600回【ハーフマラソン】
寝ているだけなのに、心臓は毎日20km完走している。
38.0℃+33,120回【フルマラソン確実】
フルマラソン時の心拍数増加量(約3万回)を超えている。
38.5℃+43,200回【ウルトラマラソン級】
心臓は24時間、一度も休まず走り続けている。

シミュレーションから分かる通り、38.0℃の発熱がある患者さんは、ベッドに寝ているだけでもフルマラソンを走っている最中なのです。

発熱時に積極的な運動療法をしてはいけない理由

1. 血液の奪い合い(ショックのリスク)

発熱時、体は熱を放散するために皮膚表面へ大量の血液を送ります。ここで運動をさせると、筋肉も酸素を欲しがって血液を要求します。
その結果、「皮膚」vs「筋肉」で血液の奪い合いになり、最も重要な「脳」や「心臓」への血流が維持できなくなります(血圧低下、脈拍増加、SpO2低下など)。

2. 異化の加速(筋肉が溶ける)

発熱時は、炎症と戦うエネルギーを作るためにタンパク質を分解(異化)しています。無理に運動をすると、筋肉の合成どころか分解をさらに促進させ、逆に痩せ細ってしまいます(廃用の進行)。

3. 脱水の加速(血液濃縮)

発熱による不感蒸泄の増加に加え、運動による発汗が加わると、急速に脱水が進みます。

発熱しているのか迷う時の観察ポイント

「体温計は36.8℃などの微熱レベルでも、なんだか様子がおかしい…」
平熱が低い人にとって、一般的な36.8℃でも緊急事態かもしれません。そんな時は以下のポイントを観察してください。

観察ポイント:手足と体幹のギャップ

危険なサイン(これから熱が上がる)

  • 脳の命令:「ウイルスを殺すために熱を上げろ!逃がすな!」
  • 所見手足が冷たい(体幹は熱い)。網状皮斑が出ている。筋緊張が高い(震えの準備)。
  • 判断:セットポイントが上がっています。これから高熱が出る予兆のため、クーリングではなく保温が必要です。

熱の放散期(うつ熱や解熱過程)

  • 脳の命令:「暑すぎる!熱を逃がせ!」
  • 所見手足まで温かい・熱い。全身が均一に赤く湿っている。筋緊張は弛緩している。
  • 判断:熱を逃がそうとしています。布団を減らす、腋窩を開くなどの対応が有効です。

発熱時のリハビリテーション介入方法

『リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン(第2版)』では、以下のように記載されています。

臥位での可動域訓練やポジショニング、座位での摂食機能療法等は運動負荷を伴わず、患者の全身状態に与える影響はわずかであると考えられる。このような訓練は当基準に該当する場合においても安全に実施できる可能性があるため、個別に判断することが必要である。

つまり、38.0℃あるからといって「何もしない」わけではありません。
この時期は、積極的な運動の代わりに「守りのリハビリ」に徹するべきです。

  • 関節可動域訓練(他動)
  • 守りのポジショニング詳細はこちら
  • 誤嚥に注意した摂食機能療法

これらを医師・看護師と相談しながら実施することが、この時期の最大の支援となります。

まとめ

今回のポイントを整理します。

★発熱は「見えないマラソン」である
38.0℃の発熱は、安静にしていても酸素消費量が約20%増加し、心臓は毎日フルマラソンを走るのと同じ負荷を受けています。

★無理な介入は「血液の奪い合い」を招く
発熱時に運動を行うと、ショックや脱水、廃用の進行を助長します。38.0℃は厳守すべき「安全の壁」です。

★「守りのポジショニング」は最大のエネルギー支援
迷った時は手足の冷たさを確認しましょう。徹底したポジショニングでエネルギー消費を抑えることこそが、回復を促すための「積極的なリハビリ」となります。

 


『医療情報の免責事項』
本コラムは教育的目的の解説であり、医学的事実の一部をわかりやすく伝えるために比喩表現を用いています。具体的な診断・治療・リハビリテーションの判断は、必ず医療専門職による評価と指示に従ってください。また、内容は医学的根拠に基づいていますが、患者様ごとに適切な対応は異なります。実際のリハビリテーションの実施にあたっては、必ず主治医および担当医療スタッフの指示を確認してください。

【参考・引用文献】
1)MSDマニュアル プロフェッショナル版:発熱
2)日本リハビリテーション医学会編集:リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン(第2版)、2018年、診断と治療社

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