片麻痺のズボン上げ下げ|片手で自立する4つのコツと段階的訓練法【OTが解説!!】

この記事のポイント(結論)

  • 訓練は安全な「座位」から開始し、動作習得後に立位へ移行する
  • 健側の手で「ズボンの両側を同時に持つ」技術が片手操作の鍵
  • 麻痺側の足や壁・手すり等の環境を「補助手」としてフル活用する

こんにちは、作業療法士の内山です。

今回は、脳卒中後の片麻痺の方に対する「片手でのズボン上げ下げ訓練法」について解説します。

トイレ動作の自立において、最大の難関となるこの動作。臨床で役立つ具体的なアプローチを共有しましょう。

片麻痺でズボン上げ下げが難しい4つの理由

健常者が無意識に行う動作も、片麻痺の方には高いハードルとなります。まずは阻害因子を整理します。

  • 両手協調の困難さ:左右でバランスよく引き上げる動作が片手ではできない。
  • 立位バランスの低下:片足立ちや前後の重心移動時に転倒リスクが高まる。
  • 麻痺側の干渉:麻痺手が引っかかる、麻痺足が抜けにくい等の物理的障害。
  • 視覚確認の難しさ:立位では足元が見えにくく、状況把握が困難。

これらを踏まえ、単に「片手で頑張る」のではなく、動作方法自体の再構築が必要です。

1. 座位での訓練から始める(安全第一)

訓練はいきなり立位で行わず、必ず座位から始めましょう。

座位訓練の3つのメリット

  1. 転倒リスクがなく、安心して反復練習ができる
  2. 両下肢が自由になり、麻痺側の操作がしやすい
  3. 視線が届きやすく、視覚的なフィードバックが得やすい

具体的な手順(下ろす動作)

まずは以下の手順で「感覚」を掴んでもらいます。

  1. 両側把持:健側の手で、ズボンの「両サイド」を一度に掴む練習をする。
  2. 座位で下ろす:体を前傾させてお尻を浮かせ、膝まで一気に下ろす。
  3. 脱衣:健側の足を使って、麻痺側の足からズボンを脱がせる。

【事例:70代男性・右片麻痺】
当初は全介助でしたが、1週間「健手で両側を掴む」練習を徹底。2週目から前傾姿勢での操作を導入し、3週目には健足を使った脱衣が可能になりました。

私の施設では、通常2〜4週間かけて座位動作を習得してから立位へ移行します。

2. 重力を味方につける「上げる動作」の工夫

上げる動作は重力に逆らうため、難易度が上がります。ここでは「道具選び」と「分割操作」が鍵です。

ズボン選びと基本手順

ウエストゴムで伸縮性があり、裾が広めのジャージ等が最適です。

  1. 足通し:座位で、健足を使って麻痺足を誘導し、両足を通す。
  2. 引き上げ(座位):健手で両側を持ち、膝まで引き上げる。
  3. 立ち上がり連動:手すりを持ち、前傾して立ち上がる動きを利用してズボンを自然に上げる。
  4. 引き上げ(立位):立位安定後、ウエストまで引き上げる。
重要ポイント:一度に上げようとしない
膝まで→太ももまで→お尻まで、と5cm刻みで上げるよう指導しましょう。
一度に上げようとするとバランスを崩します。

3. 麻痺側の足を「補助手」として使う

片麻痺リハビリの要は、麻痺側の活用です。足も立派な「手」の代わりになります。

  • 下ろす時:健足で麻痺足首を押さえ、固定点を作る。
  • 履く時:床に置いたズボンに麻痺足を入れ、健足で裾を押し上げる。

Br.stageⅢ程度でも、わずかな随意性や摩擦を利用すれば、動作の強力なアシストになります。「できない」と決めつけず、「どこまで使えるか」を評価してください。

4. 環境設定と補助具で自立を支える

物理的な環境調整は、利用者の負担を劇的に減らします。

  • 手すり:健側の手が届きやすい位置(便座横)に縦手すりを設置。
  • 便座の高さ:膝が90度になる高さへ調整(補高便座の活用)。
  • 滑り止め:足元のマットでグリップ力を確保。
  • リーチャー:麻痺足への引っかかりを修正するために活用(要練習)。

実践!段階的訓練プログラム

私が実際にデイサービスで運用しているステップアップ方式です。焦らず進めましょう。

第1段階:座位での基本動作(1〜2週間)

  • 目標:座位でズボンの両側を健側の手で掴める。
  • 内容:両側把持の練習、前傾での下ろし動作、健足での脱衣補助。

第2段階:座位から立位への移行(2〜3週間)

  • 目標:立ち上がり動作と連動してズボンを上げられる。
  • 内容:手すりを使った立ち上がり、お尻が浮いた瞬間の引き上げ感覚の習得。

第3段階:立位での完成動作(3〜4週間)

  • 目標:立位でウエストまで上げられる。
  • 内容:壁を背にした立位保持、手すり片手持ちでの操作練習。

第4段階:実地訓練(継続)

  • 目標:実際のトイレで一人で完遂できる。
  • 内容:見守り距離を徐々に広げ、完全自立を目指す。

トラブルシューティング(Q&A)

臨床でよくある課題への対処法です。

Q. 麻痺側の足がズボンから抜けない
A. 座位で健足を使って麻痺足首を押さえ、裾を引っ張りましょう。裾が広いズボンへの変更も検討します。

Q. 立位でバランスを崩してしまう
A. 「壁」を背にして立つ練習が有効です。背中を預けることで、健手を操作に集中させられます。

Q. ズボンが片側だけ上がってしまう
A. 「両側を均等に持つ」練習に戻ります。鏡を使って視覚的にフィードバックするのも効果的です。

まとめ

片麻痺の方のズボン上げ下げ訓練のポイントは以下の通りです。

  1. 座位から開始し、段階的に難易度を上げる。
  2. 健手での「両側把持」麻痺足の補助活用を徹底する。
  3. 手すりや壁などの環境設定で安全を確保する。

「今日は5センチ高く上げられた」といった小さな成功体験を共有し、モチベーションを高めながら自立を目指していきましょう。

 

 

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