なぜ「2時間」なのか?褥瘡発生の生理学的メカニズム|虚血再灌流障害と4つの段階

なぜ「2時間」なのか?褥瘡発生の生理学的メカニズム|虚血再灌流障害と4つの段階

以前の記事では、70mmHgの謎や30度側臥位といった「ポジショニングの実践」について解説しました。まだお読みでない方は、まずはこちらから基礎知識をご確認ください。

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今回はさらに一歩踏み込んで、「なぜ除圧が必要なのか?」という身体の内側のドラマにスポットを当てます。

実は、細胞の破壊が決定的になるのは、圧迫されている最中だけでなく、「除圧して血流が再開した瞬間」にもリスクが潜んでいます。これを「虚血再灌流障害」と呼びます。

本記事では、目に見えない細胞の中で起きている現象を「4幕構成」の劇に例え、なぜ2時間の体位変換が目安とされているのか、なぜ高齢者はリスクが高いのかを、生理学的メカニズム(教育的モデル)を用いて解説します。

【本日の疑問】除圧時のリスクと生理学的背景

Q.なぜ「除圧(血流再開)」したのに、組織が傷つくことがあるのですか?
→血流再開時に、大量の酸素が流入することで「活性酸素」が発生し、それが細胞膜や組織への追加ダメージ(酸化ストレス)となるためです。これを虚血再灌流障害といいます。

 

Q.なぜ「2時間」が体位変換の目安と言われるのですか?
→古典的な研究において、約2時間の持続圧迫で組織変化が生じやすいと報告されているためです。生理学的には、細胞内に活性酸素の元となる物質(ヒポキサンチン)が蓄積する時間経過とも関連しています。
※許容時間は個人の組織耐久性や圧の強さにより大きく異なります。

 

Q.栄養状態が悪いとなぜ褥瘡ができやすいのですか?
→活性酸素を無毒化するスカベンジャー(アルブミンやビタミンなど)が不足し、酸化ストレスに対する防御力が低下するためです。

【褥瘡発生の流れ】細胞内で起きる4幕のドラマ

ここでは虚血再灌流障害のメカニズムを、わかりやすく「火薬と爆発」に例えて解説します。

〈第1幕:準備フェーズ(圧迫・虚血)〉

  1. 血管が圧迫され、血流が止まる。
  2. アデノシン三リン酸の枯渇→ポンプ停止→カルシウムイオンの流入。
  3. 代謝産物ヒポキサンチンが蓄積。
  4. 嫌気性代謝で乳酸蓄積→酸性化→タンパク質変性(キサンチン脱水素酵素キサンチン酸化酵素へ変身)。

用語解説(比喩):

  • アデノシン三リン酸(ATP):細胞のエネルギー源。虚血で枯渇する。
  • ヒポキサンチン:ATPの燃えカス。虚血中に溜まる「火薬」のようなもの。
  • キサンチン脱水素酵素(XDH):平常時に働く無害なゴミ処理係。
  • キサンチン酸化酵素(XO):虚血時の酸性化によりXDHが変性した姿。酸素に触れると活性酸素を作る「起爆装置」。

〈第2幕:爆発フェーズ(再灌流・除圧)〉

  1. 体位変換などで血流が再開し、酸素が一気に流入。再灌流の瞬間に、酸素だけでなくカルシウムも流入する。
  2. キサンチン酸化酵素が酸素とヒポキサンチンを反応させ、スーパーオキシド(活性酵素)が産生される。
  3. 同時に一酸化窒素と反応し、強力なペルオキシナイトライトも発生。

スーパーオキシド:電子を余分に持つ不安定な酸素。
ペルオキシナイトライト:再灌流時に発生した「スーパーオキシド」と「一酸化窒素」が反応して生じる、強い酸化力を持つ物質。

〈第3幕:破壊フェーズ(細胞死・崩壊)〉

  1. 脂質過酸化: 細胞膜が酸化され、脆弱化する。
  2. カルシウムイオンの過負荷: 細胞内のカルシウム濃度が上昇し、細胞骨格の分解が進む(カルシウム・パラドックス)。
  3. 細胞壊死: 膜の破綻などにより細胞死に至る。

〈第4幕:慢性化フェーズ(拡大・難治化)〉

  1. 壊死物質に反応して白血球が集まり、さらに活性酸素を放出(炎症反応)。
  2. 過剰なマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)が活性化し、周囲の正常な組織(コラーゲン)まで分解して傷を深める。
  3. 深い褥瘡(潰瘍)の形成へ。

白血球:炎症に反応して集まる兵隊。活性酸素を出して細菌などを攻撃するが、過剰になると周囲組織も傷つける。
マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs):コラーゲン分解酵素。正常な創傷治癒に不可欠だが、慢性化して過剰になると肉芽組織を破壊し、治癒を遅らせる要因となる。

【酸性化と酸化】何が壊れているのか?

◎酸性化(ターゲットは「タンパク質」)

:変性(Denaturation)=形が変わる

〈なぜタンパク質なのか?〉
人間の体を構成する酵素などは「タンパク質」でできており、その立体構造が機能を決定しています。

〈酸性化するとどうなる?〉
pHが低下(酸性化)すると、タンパク質の結合が影響を受け、形が歪んでしまいます(変性)。

〈酸性化した結果は?〉
「キサンチン脱水素酵素」のように、形が変わることで性質が変化し、活性酸素を産生するタイプへ移行してしまう現象が起きやすくなります。

◎酸化(ターゲットは「脂質」)

:過酸化(Peroxidation)=物理的な破壊

〈なぜ脂質なのか?〉
細胞膜は脂質(リン脂質)で構成されています。特に不飽和脂肪酸は酸化を受けやすい性質があります。

〈酸化するとどうなる?〉
活性酸素により電子を奪われ、連鎖的に酸化(サビ)が広がります。

〈酸化した結果は?〉
細胞膜の機能が低下し、細胞の保護壁としての役割を果たせなくなります。

【カルシウム・パラドックス】もう一つの要因

虚血再灌流障害において、活性酸素と並んで細胞死に関与するのが「細胞内カルシウム」です。

〈何が起きる?〉
通常、細胞内のカルシウム濃度は低く保たれています。しかし、ATP(エネルギー)不足でポンプが止まると、細胞内にカルシウムが流入します。

〈カルシウムが過剰になった結果は?〉
カルシウム依存性の分解酵素(カルパインなど)が活性化し、細胞の骨組みを分解してしまう一因となります。

【褥瘡発生を予防する物質】身体を守る防波堤

栄養管理は、単にエネルギーを補給するだけでなく、「抗酸化力」を高める意味でも重要です。

  • スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)
    体内に備わっている酵素で、スーパーオキシドを分解・無毒化します。
  • カタラーゼ & グルタチオンペルオキシダーゼ
    SODが分解した後の過酸化水素を、さらに無害な水へと変える酵素群です。
  • アルブミン
    栄養状態の指標として知られますが、ラジカルスカベンジャー(活性酸素の掃除屋)としての機能も持っています。低栄養でアルブミンが減少すると、この防御能も低下します。※アルブミンは炎症などの影響も受けるため、単独で栄養状態を評価する指標ではありません
  • ヒートショックプロテイン(HSP)
    ストレス環境下で作られ、変性したタンパク質の修復を助ける「シャペロン(介助役)」として働きます。
  • ビタミンE & C
    ビタミンEは細胞膜で酸化の連鎖を食い止め、ビタミンCは酸化したビタミンEを再生させるなど、相互に協力して身体を守ります。

【2時間ルールの背景】生理学的な視点

「2時間ごとの体位変換」は、Kosiakらによる古典的な研究(圧力と時間の関係)に由来する一つの目安です。これを生理学的物質の変化(教育的解釈)と照らし合わせると、以下のようなリスクの高まりとして理解できます。

◎圧迫 30分〜1時間未満(防御可能な範囲)

ATPの減少は始まりますが、活性酸素の元となる物質(ヒポキサンチン)の蓄積はまだ軽度です。除圧時に活性酸素が発生しても、生体の防御システム(SODなど)で対応可能な範囲であることが多いと考えられます(反応性充血による回復)。

◎圧迫 2時間前後(リスク上昇の分岐点)

虚血が持続すると、ATPの枯渇が進み、ヒポキサンチンが蓄積されます。また、組織の酸性化が進むことで、酵素の変性(XOへの変換)が起きやすい環境が整ってきます。
この状態で除圧を行うと、防御システムを超える量の活性酸素が発生し、組織障害(深部損傷)のリスクが高まります。

※ただし、「2時間」は絶対的なタイムリミットではなく、圧の強さ・せん断力・個人の栄養状態や骨突出の程度によって、障害が発生する時間は大きく変動します(1時間でも発生する場合もあれば、数時間耐えうる場合もあります)。

【まとめ】メカニズムを知り、予防へ繋げる

★再灌流時の「酸化ストレス」も考慮する
褥瘡発生には「圧迫」「せん断」「湿潤」など多くの因子が関与しますが、深部損傷においては、除圧時の血流再開に伴う酸化ストレス(虚血再灌流障害)も重要なダメージ要因の一つです。

★「2時間」は生理学的なリスク蓄積の目安
長時間圧迫は、細胞内で「火薬(ヒポキサンチン)」と「起爆装置(酸化酵素)」の準備を進めてしまいます。こまめな除圧・圧分散は、この準備をリセットするために不可欠です。

★予防の鍵は「多角的なアプローチ」
ポジショニングによる圧・せん断の管理に加え、十分な栄養(アルブミン・ビタミン)で身体の「防御能力(抗酸化力)」を高めておくことが、組織を守ることに繋がります。


※本記事は虚血再灌流障害のメカニズムを褥瘡予防に応用した教育的解説です。実際の褥瘡発生は多因子(機械的変形、循環不全など)によるものであり、臨床判断は各ガイドラインや医師・専門職の指示に従ってください。

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【参考文献】

1)McCord JM. Oxygen-derived free radicals in postischemic tissue injury. N Engl J Med. 1985;312(3):159-163.
2)辻 庄市 (Tsuji S), et al. 褥瘡発生機序における虚血再灌流障害の関与. 日本褥瘡学会誌. 2002;4(3):362-368.
3)Kosiak M. Etiology of decubitus ulcers. Arch Phys Med Rehabil. 1961;42:19-29.
4)Yager DR, et al. Wound fluids from human pressure ulcers contain elevated matrix metalloproteinase levels and suppressed metalloproteinase inhibitor levels. Wound Repair Regen. 1996;4(4):483-490.
5)Lansdown AB, et al. Zinc in wound healing: theoretical, experimental, and clinical aspects. Wound Repair Regen. 2007;15(1):2-16.

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