こんにちは、理学療法士の嵩里です。前回のコラムでは、学生が実習で習得すべき臨床スキルが運動スキルと認知スキルに分けられることをお伝えしました。
前回の記事はこちら>>>学生の考察力を伸ばす 効果的な指導法 認知スキルの重要性 〜学生指導の悩みと乗り越え方〜
今回は、運動スキルの具体的な指導方法について、特に「見学・模倣・実施」の流れに焦点を当ててご紹介します。
運動スキルとは何か?
運動スキルとは、検査測定や治療技術のことを指します。この運動スキルは、実際に見て実践することで効果的に習得できます。診療参加型実習(CCS)では、「見学・模倣・実施」という段階を踏んで学習を進めていきます。
見学・模倣・実施の実際:ROM測定を例に
ROM(関節可動域)測定を例に、具体的な指導方法をご説明します。指導者は「学校で練習しているからある程度は出来るだろう」と思うかもしれませんが、実際の患者を目の前にすると緊張もあり上手くいかないものです。
1. 見学段階
見学といっても、ただ見ているだけの何となくの見学では意味がありません。学生が見学で学ぶためには指導者が説明しながら臨床を行う必要があります。
学生にはTKA、人工骨頭置換術後、拘縮などの様々な疾患のROMを見学してもらいます。その際に、疾患ごとのリスク管理や注意点、疼痛、代償動作、制限因子について説明します。制限があればMMT測定時やADL場面で想定されることも伝えます。痛みに我慢してしまう方や認知症で指示が入りにくいこともあります。その際の患者ごとの声掛けの仕方も説明して見学してもらいましょう。
2. 模倣段階
模倣では、見学の際に説明した内容をもとに、ROM測定の行い方を伝えます。学校の練習と異なる点は健常者ではなく疾患を持った患者であることです。リスク管理等を考慮した身体の持ち方や力加減を説明し、理解ができたら指導者が患者の身体を動かし、学生にROM測定を行ってもらいます。
補助でのROM測定が実施できたら、次に学生1人での測定を行ってもらいます。訂正があればその場面で指導しましょう。その際、患者と学生、指導者と学生の体格差を考慮します。指導者が行いやすい姿勢でも学生にとっては実施しづらい場合もありました。学生自身の身体の使い方の問題か、体格差の問題なのかを見て、学生にとって適切な方法を模索し練習していくことも大切です。
3. 実施段階
指導者が説明したリスク管理等が理解でき、模倣で行えるようになったら、指導を減らし徐々に見守りへと移行していきます。指導者の治療プログラム内容のうち、ROM測定は学生が行うことを伝えます。患者や疾患が異なればリスク管理も異なります。様々な患者を経験してもらい知識だけではなく臨床スキルとして学べるよう考慮します。
実際の指導場面での工夫
ROM測定は学校や実習前に学生同士で練習することもあり、検査方法の知識としては十分な学生が多いと感じます。ですが実際に患者を目の前にすると、緊張と健常者と異なる点から上手くROM測定が行えない学生がほとんどです。
そのため膝のROM測定が苦手であればTKA患者のROM測定を複数人行えるよう、見学スケジュールを組んでいました。そうすることで、患者ごとに防御性収縮の感じ方が異なることや、学生自身の身体の使い方がより身に付いていきました。何より「膝ROM測定のスキルが身についた」という自信がついていたように感じます。苦手なROM測定があれば、集中的に様々な患者を経験することも一つの方法です。
見学の段階で説明することは、指導者が臨床でどのように考えて行っているかを共有する機会になります。アウトプットの練習や足りない知識を再認識できる場でもあるため、ぜひ「見学・模倣・実施」の段階を踏んで指導にあたってみてください。
まとめ
- 検査測定や治療技術は「見学・模倣・実施」の段階を踏んで指導する
- 様々な疾患のROM測定を通じて、リスク管理や患者対応のスキルを育成
- 説明を通じて、指導者自身の臨床思考を整理し、アウトプットする機会にもなる
次回のコラムでは、認知スキルの指導方法について詳しくご紹介する予定です。お楽しみに!