侵害受容性疼痛に対するリハビリ戦略 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

侵害受容性疼痛に対するリハビリ戦略 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

疼痛について解説するシリーズの第10回目です。前回は時間的痛みの分類から「慢性疼痛」について解説しました。前回の内容はこちら>>>慢性疼痛患者へのリハビリテーション戦略

今回は、神経メカニズム的分類から「侵害受容性疼痛」について解説していきます。

侵害受容性疼痛

侵害受容性疼痛は「組織の損傷、あるいは損傷の危険性がある場合に生じる痛みであり、侵害受容器の活性化により生じる疼痛」と定義されます。炎症による痛みや特定の運動・姿勢で誘発される痛みがこれに該当します。

考えられる疾患の一例として、変形性関節症、関節リウマチ、靭帯損傷、骨折などがあります。

注意すべき点として、慢性疼痛においても末梢組織に持続的な損傷と炎症が起こっていることがあり、慢性炎症の可能性も考慮する必要があります。例えば、変形性関節症で組織に炎症が生じ、物理的ストレスが継続することで治癒が妨げられ、炎症が持続するケースなどがあります。

炎症を伴い感作が生じると、痛覚過敏やアロディニア(非侵害刺激を痛み刺激として知覚する現象)が生じる場合があります。

また、疼痛が生じている部位の侵害受容器が必ずしも反応しているとは限りません。神経は2-3分節の広がりを持って投射する場合があり、複数の範囲から刺激が入ることで、疼痛の局在が不明瞭になることもあります。

侵害受容性疼痛のリハビリテーションアプローチ

侵害受容性疼痛へのアプローチとしては、侵害受容器の活動を減らすことが考えられます。侵害受容器には以下の2種類があります:

  • 高閾値侵害受容器
    この受容器は強い機械的刺激にのみ反応します。例えば、強い圧迫や引っ張りなどの刺激が加わった場合に活性化されます。
  • ポリモーダル受容器
    この受容器は様々な刺激に反応する多機能型の受容器です。機械的刺激、熱刺激、冷刺激、化学的刺激のいずれにも反応します。ポリモーダル受容器は筋C線維中の機械感受性受容器の約5割を占めており、痛みの感知に重要な役割を果たしています。

侵害受容性疼痛に対するアプローチは、これらの受容器の活動を減少させることを目的としています。

身体的アプローチ

物理療法
温熱療法や寒冷療法は、ポリモーダル受容器の熱刺激や冷刺激に対する反応を利用して疼痛を軽減します。また、電気刺激療法は高閾値侵害受容器の活動を抑制する効果があります。

運動療法
適切な強度の運動は、高閾値侵害受容器への過度な機械的刺激を避けつつ、筋力強化や関節可動域の改善を図ります。

マニピュレーション
関節や軟部組織への適切な手技療法は、ポリモーダル受容器への刺激を調整し、疼痛軽減と機能改善を目指します。

薬物療法
消炎鎮痛剤は、ポリモーダル受容器の化学的刺激に対する反応を抑制します。特に、プロスタグランジンの産生を抑制することで、炎症と疼痛を軽減します。

心理社会的アプローチ

侵害受容性疼痛の管理には、心理社会的要因も考慮する必要があります。

教育・指導
慢性疼痛管理プログラムなどを通じて、患者に疼痛のメカニズムや対処法を教育します。

心理療法
認知行動療法などを用いて、疼痛に対する患者の認知や行動パターンの改善を図ります。

個別化されたアプローチ

各患者の疼痛の原因を的確に診断し、その原因に見合った治療手段を選択することが重要です。例えば、変形性股関節症の場合、ADLやQOLの低下に注目し、日常生活指導や適切な評価に基づいたリハビリテーションを行います。以上のように、侵害受容性疼痛に対するリハビリテーションアプローチは、多面的かつ個別化されたものとなります。理学療法士として、これらのアプローチを適切に組み合わせ、患者の状態に応じた最適な治療計画を立てることが求められます。

まとめ

今回は、侵害受容性疼痛について解説しました。ポイントを3つにまとめると:

  1. 侵害受容性疼痛は「組織の損傷、あるいは損傷の危険性がある場合に生じる痛みであり、侵害受容器の活性化により生じる疼痛」とされている
  2. 炎症は急性期だけでなく慢性疼痛として慢性的な炎症が生じている場合がある
  3. 高閾値侵害受容器やポリモーダル受容器の反応を減らすことが侵害受容性疼痛の疼痛管理につながる可能性がある

慢性疼痛に関する理解をさらに深めたい方は、痛みの多面性に関する記事もぜひご覧ください。

痛みに対する科学的根拠をベースにした徒手アプローチについて学びたい方は、DNM(Dermo Neuro Modulating)BASICコースもおすすめです。

確認問題

  1. 侵害受容性疼痛の定義を説明してください。
  2. 侵害受容器の2種類とそれぞれの特徴を挙げてください。
  3. 侵害受容性疼痛のリハビリテーションアプローチとして考えられるものを3つ挙げてください。
回答を表示
  1. 侵害受容性疼痛の定義: 「組織の損傷、あるいは損傷の危険性がある場合に生じる痛みであり、侵害受容器の活性化により生じる疼痛」
  2. 侵害受容器の2種類とその特徴:
    高閾値侵害受容器:強い機械的刺激にのみ反応
    ポリモーダル受容器:機械的刺激、熱刺激、冷刺激、化学的刺激に反応
  3. 侵害受容性疼痛のリハビリテーションアプローチ:
    薬物療法
    物理療法
    運動療法

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