大胸筋の解剖と機能を徹底解説! 〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜

こんにちは、内川です。皆さんは大胸筋についてどのくらい知っていますか?

大胸筋は、肩関節の屈曲、内転、内旋、水平内転という重要な機能を担う筋肉です。日常生活やスポーツ活動において重要な役割を果たすだけでなく、その機能異常は様々な症状の原因となることがあります。

特に注目すべき点として:

  • 短縮が生じやすく、巻き肩の原因となる可能性
  • 内旋での拘縮により外旋制限を引き起こす可能性
  • 肩関節周囲炎や上腕骨外側顆炎の誘因となることがある

日常生活にもスポーツにおいても様々な役割を持つ大胸筋のことは知っていて損はありません。大胸筋の解剖や評価、アプローチの方法について詳しく見ていきましょう!

1. 大胸筋の解剖と作用

大胸筋の解剖図

起始

  • 鎖骨部:鎖骨の内側2/3
  • 胸肋部:胸骨と第1~6肋軟骨
  • 腹部:腹直筋鞘前葉

停止

  • 上腕骨大結節稜

支配神経

  • 外側・内側胸筋神経(C5~T1)

作用

  • 肩関節の屈曲(特に鎖骨部が関与)
  • 肩関節の内旋
  • 肩関節の内転
  • 肩関節の伸展(胸肋部および腹部)

大胸筋は、鎖骨部・胸肋部・腹部の3つの部分に分かれており、それぞれが肩関節の異なる動作に関与します。特に押す動作や引く動作、腕を上げる動作に大きく寄与しています。

2. 大胸筋の評価

MMT(徒手筋力テスト)水平内転

MMT評価姿勢1 MMT評価姿勢2

段階5、4、3の評価手順

肢位:背臥位

  1. 背臥位で肩関節90°外転、肘関節90°屈曲位をとる
  2. 水平内転方向へ動かしてもらう
  3. 肘関節すぐ近位で上腕部から水平外転方向に抵抗を加える

判断基準:

  • 5:最大の抵抗に対して保持できる
  • 4:中等度の抵抗に対して保持できる
  • 3:抵抗がなければ可動域をすべて動かせる

部位別評価の注意点:

  • 鎖肋頭のみを確認:肩関節60°外転位で対角線方向へ動作
  • 胸肋頭の確認:120°外転位で対角線方向へ動作
MMT評価姿勢3 MMT評価姿勢4

段階2、1、0の評価手順

肢位:背臥位か座位

  1. 検査者が上肢の重みを支える状態で、以下のいずれかの肢位をとる:
    • 背臥位:肩関節90°外転、肘関節90°屈曲位
    • 座位:検査台に肩関節外転90°、肘は軽度屈曲位で腕を乗せる
  2. 水平内転を行ってもらう

触知部位: 肩関節の内側、胸の前面で大胸筋を触知

判断基準:

  • 2:重力が最小化されれば全可動域を動かす
  • 1:筋の収縮が見られる
  • 0:動きも収縮もない

3. 大胸筋の機能訓練

プッシュアップ(腕立て伏せ)

  1. 手を肩幅に開き、体を一直線に保つ
  2. 肘を曲げて体を下ろし、再び肘を伸ばして体を持ち上げる

ストレッチ

方法①

ストレッチ方法1
  • 背臥位にて上肢を体側へ置き、肘関節90°屈曲位をとる
  • 外旋を行う

方法②

ストレッチ方法2-1 ストレッチ方法2-2
  • 背臥位にて軽度肩関節外転、外旋位を取りベッドに肘、手の甲をつける
  • 外転、内転を繰り返し行う

4. 機能低下と影響

  • 大胸筋の機能低下は、特に肩関節の屈曲や内旋動作に支障をきたし、腕を前に伸ばす動作が困難になることがあります。
  • 長期間の機能不全は、肩甲上腕リズムの崩れや肩関節の不安定性を引き起こす可能性があります。
  • 大胸筋は腹筋とのつながりもあり、機能低下が生じると腹筋群と上肢帯の連動が低下することもあります。

5. 臨床ちょこっとメモ

  • 大胸筋は、過度に肥大すると肩甲骨の動きを制限し、インピンジメント症候群を引き起こす可能性があります。
  • 大胸筋が短縮すると、肩甲骨の後傾や下方回旋を引き起こし、肩関節の可動域制限や上腕骨頭の前方脱臼に関与するとされています。
  • 大胸筋は短縮を引き起こしやすいため伸張させるエクササイズが重要になります。

6. まとめ

大胸筋の解剖学的特徴と機能

大胸筋は鎖骨部・胸肋部・腹部の3つの部分から構成され、肩関節の屈曲、内旋、内転、水平内転に関与する重要な筋肉です。各部位がそれぞれ異なる動作に関与し、特に押す動作や引く動作、腕を上げる動作において重要な役割を果たしています。支配神経は外側・内側胸筋神経(C5~T1)であり、上腕骨大結節稜に停止します。

評価方法と機能訓練

評価には主にMMT(徒手筋力テスト)が用いられ、水平内転の動作を通じて筋力を評価します。機能訓練としては、プッシュアップ(腕立て伏せ)による筋力強化と、背臥位での外旋や外転・内転を用いたストレッチが効果的です。特に大胸筋は短縮しやすい特徴があるため、適切なストレッチングが重要となります。

機能低下の影響と臨床的注意点

大胸筋の機能低下は肩関節の屈曲や内旋動作に影響を与え、日常生活動作に支障をきたす可能性があります。また、過度の肥大や短縮は肩甲骨の動きを制限し、インピンジメント症候群や肩関節周囲炎、さらには上腕骨外側顆炎の誘因となることがあります。そのため、適切な筋のバランスを保つためのケアが必要で、特に伸張エクササイズが重要になります。

今回記載したものはあくまでも筋単体のことです。実際の治療においては周囲にいくつもの筋肉が存在しており、深さも考えなければなりません。周囲に何があるかイメージできていますか? 不安な方はぜひ一緒に勉強しませんか?

【解剖が苦手な方限定】 実践!! 身体で学ぶ解剖学(筋肉編)

7. 参考文献

  • 新・徒手筋力検査法 原著第10版
  • プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論運動器系 第3版
  • 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション
  • 機能解剖学的触診技術 上肢 改訂第2版
  • マッスルインバランスの理学療法
  • マッスルインバランス改善の為の機能的運動療法ガイドブック

リハビリで悩む療法士のためのオンラインコミュニティ「リハコヤ」

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