聴覚でリハビリの質が変わる! 臨床で使える聴覚の解剖生理・評価・介入

こんにちは、理学療法士の大塚です。

「最近、患者さんの指示が通りにくい…」
「リハビリに集中できていない気がする…」

もしかしたら、その原因は「聴覚」にあるかもしれません。

今回は、私たち理学療法士・作業療法士の臨床に不可欠な「聴覚」をテーマに、評価と介入の質を高める知識を、基礎から臨床応用まで分かりやすく解説します。

この記事を最後まで読めば、聴覚アプローチの視点が加わり、あなたの臨床の引き出しが格段に増えるはずです。

【臨床生理学】聴覚の解剖と情報処理をPT・OT向けに徹底解説

理学療法士・作業療法士のための“押さえておきたい”臨床生理学ポイント+INCET視点


5.1 耳の解剖と役割:外耳・中耳・内耳のポイント

まずは基本となる耳の構造です。それぞれの役割と、臨床で注意すべきポイントを表にまとめました。

領域主な構造役割 臨床メモ
外耳耳介・外耳道音波(空気振動)を集め鼓膜へ導く。外耳道の共鳴周波数は約$2–4\,\text{kHz}$で、ヒトの会話域を自然にブーストイヤホン長時間使用は外耳道の湿度上昇→外耳炎・耳垢栓塞リスク。
中耳鼓膜・耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)・耳管① 鼓膜振動を約20倍の音圧に変換し卵円窓へ。
② 耳管が鼓膜内外の圧を調整。
耳小骨硬化症=伝音難聴。耳管機能低下は平衡感覚にも影響。
内耳蝸牛、前庭器(卵形嚢・球形嚢)、半規管① 蝸牛:基底膜→コルチ器の有毛細胞で機械的振動→電気信号へ。
② 前庭・半規管:加速度・頭位変化を検知(※詳細は前庭覚で扱う)。
有毛細胞は再生しない=音響外傷や薬剤性障害は不可逆的。

コルチ器と基底膜の“トノトピー”配置

内耳の蝸牛では、音の高さ(周波数)に応じて感知する場所が決まっています。これはリハビリで非常に重要な概念です。

  • 基底膜基部(入口側):硬く狭い → 高音(~$20\,\text{kHz}$)を検出
  • 基底膜頂部(奥側):柔らかく広い → 低音(~$20\,\text{Hz}$)を検出

リハビリへの応用
聴覚リハではこの“周波数特性”を意識して、ターゲットとしたい周波数域の音刺激プログラムをデザインすることが重要になります。


5.2 聴覚伝導路:音の情報は脳でどう処理されるか?

耳で変換された電気信号が、大脳皮質で「音」として認識されるまでの道のりです。各中継点の役割を理解することで、介入のヒントが見えてきます。

  1. 蝸牛神経(第 VIII 脳神経・蝸牛枝)
    • 有毛細胞→螺旋神経節細胞(I次ニューロン)→蝸牛核(延髄)。
  2. 上オリーブ複合体(SOC)
    • 左右の耳からの情報を初めて統合する場所。
    • 到達時間差(ITD)と強度差(ILD)から音源の位置を特定します。
    • 聴覚トレーニング(例:INCETの「サウンド・ローカライゼーション課題」)は、このSOCの可塑性を促すことを目的の一つとします。
  3. 上行束 – 外側毛帯 → 下丘(中脳)
    • 音に対する反射(驚愕反射など)や、聴覚への注意を向ける際の中継点です。
  4. 内側膝状体(MGN, 視床)
    • 音の様々な情報(時間・周波数パターン)を統合し、大脳皮質が理解しやすい形に“再パッケージ”します。
  5. 一次聴覚野(A1;側頭葉Heschl回)
    • 音の高さに応じてマッピング(トノトピー表示)されています。
    • ここから二次・連合聴覚野へと情報が送られ、言語の理解(ウェルニッケ領域)や音楽の知覚といった高次な処理が行われます。
  6. 皮質下~皮質間フィードバック網
    • 脳(皮質)から耳(有毛細胞)へ指令を送る遠心性の神経系
    • カクテルパーティ効果(騒がしい中でも特定の会話を聞き取る能力)のように、雑音下で聞きたい音に集中するために必須の機能です。

5.3 臨床につながる重要トピック4選

聴覚生理学の知識を、具体的な臨床場面と結びつけてみましょう。

トピック生理学的ポイントリハビリ応用(PT・OT)
伝音 vs 感音難聴伝音=外・中耳障害。感音=内耳~神経路障害。Rinne/Weber検査で鑑別。伝音難聴:人工中耳・補聴器適応。感音難聴:人工内耳(Cochlear implant), AVT※。
騒音性難聴高音域から障害されやすい。基底膜基部の有毛細胞が損傷。職場環境への指導・音量制御。INCETの「サブオーディブル振動刺激」で残存周波数域を活性化。
中央聴覚処理障害 (CAPD)聴力は正常でも「聞こえにくい」。皮質〜皮質間ネットワークの機能不全。音源定位ゲーム、リズム模倣課題などで時間処理能力を向上。
耳鳴(Tinnitus)蝸牛損傷→皮質マップの再編による“ファントム音”。辺縁系が情動ストレスを増幅させる認知行動療法+サウンドセラピー。PTの呼吸・自律神経アプローチで随伴するストレスの緩和も重要

※AVT(Auditory-Verbal Therapy):言語聴覚士だけでなく、OTも家庭環境調整などで関与できる領域です。


5.4 リハ専門職が知っておきたい反射・随伴機構

  • 音響性耳小骨筋反射(鼓膜張筋反射 / アブミ骨筋反射)
    • 85dB以上の強大音で耳小骨筋が収縮し、内耳を保護する仕組み。
    • 聴力測定にも応用され、脳幹機能のスクリーニング指標にもなります。
  • 前庭–蝸牛相関
    • 前庭への刺激(加速度)で、蝸牛の血流が変化します。
    • 臨床的には、姿勢制御訓練で視聴覚情報を組み合わせる際、前庭への負荷が過剰になると聴覚過敏などを誘発する可能性を示唆しています。

5.5 INCET®の視点:聴覚リハビリを統合的にデザインする

聴覚系へのアプローチを、より効果的かつ全人的に行うためのINCET®の5つの柱と応用例です。

INCET聴覚系への応用例期待される効果
① 目的志向課題 (GOAL)音源方向を指差し+同時に歩行する(デュアルタスク)。聴覚への注意と運動制御の統合。
② 感覚インテンシティ漸増 (RAMP)快適な音量での課題から始め、徐々に聞き取りにくい閾下高周波などをミックスする。有毛細胞・聴覚皮質の可塑性を促進。
③ 認知フィードバック (FEED)音源定位の誤差をリアルタイムでモニターに表示し、視覚的に確認させる。脳の予測誤差を修正し、皮質下―皮質ループの再学習を促す。
④ 多感覚統合 (MERGE)視覚的なターゲットの出現と、音のキューを同期させる。視聴覚の連携を強化し、日常行動での反応時間を短縮。
⑤ 自律神経モデュレーション (BALANCE)α波を誘導するBGMを聴きながら、呼吸トレーニングを行う。耳鳴や難聴に随伴する不安やストレスを抑制し、リハビリ効果を高める。

まとめ:明日から“聴覚を診る”ための思考ポイント

最後に、今回の内容で最も重要なポイントをまとめます。

  1. 外耳・中耳・内耳の“変換プロセス”を分けて考える
    物理的な振動が、いかにして機械エネルギーへ、そして電気信号へと変換され、最終的に私たちの意識にのぼるのかを理解することが、評価の第一歩です。
  2. 脳の”フィードバック機能”に注目する
    音は耳から脳へ一方通行に伝わるだけではありません。脳から耳へ戻るフィードバック(遠心性)こそが、聴覚の精度や選択的聴取のカギを握っています。
  3. PT/OTは“聴覚+姿勢・注意”へ同時アプローチする
    INCETの多感覚・課題志向プログラムは、聴覚機能のみに偏らない、より実践的で全脳的な介入を実現します。
  4. 検査結果と臨床症状を結びつける
    Rinne, Weber, ABR, OAEなどの検査所見と、患者さんの訴えや行動観察を結びつけ、個別性の高い目標設定と訓練プログラムを立案することが最も重要です。
 

あなたの臨床をアップデートする「INCET®コンセプト」とは?

最後に、本稿でも度々触れたINCETコンセプトについて、改めてその概要をご紹介します。

統合的神経認知運動療法® (INCET)は、ICFとBPSモデルを基盤に、「身体・脳・環境」の相互作用を統合的に捉えるための臨床思考フレームワークです。

患者様の「したい生活(HOPE)」から逆算し、構造・神経・環境・発達・心理認知の5つの視点で多角的に分析。徒手療法から認知行動学的アプローチまでを体系的に組み合わせ、神経の可塑性と行動変容を最大化します。

このフレームワークは、新人からベテランまで、誰もが明日からの臨床をアップグレードできる実践的なツールです。聴覚アプローチの引き出しを増やし、他のセラピストと差をつけたい先生は、ぜひ詳細をご確認ください。

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