その人らしさが輝く瞬間 〜趣味と特技で紡ぐ生きがいの物語〜

その人らしさが輝く瞬間 〜趣味と特技で紡ぐ生きがいの物語〜

「最近、提供している活動がマンネリ化しているかも…」
こんにちは、作業療法士の内山です。今回は、利用者さんの「趣味・特技」を活かした生きがい支援について、明日から臨床で使える具体的なヒントを交えて考えていきたいと思います。

高齢になっても、その人らしさの根源となるのは、長年培ってきた趣味や特技です。これらは単なる娯楽ではなく、その方のアイデンティティそのものであり、生きる喜びや誇りの源泉でもあります。

デイサービスにおいて、利用者さんの趣味や特技を再発見し、それを活かす「役割」と「出番」を提供することで、心からの生きがいを引き出すことができます。この記事では、3つの成功事例を元に、その具体的な方法を一緒に見ていきましょう。

なぜ「趣味・特技」が生きがい支援の鍵になるのか?

趣味や特技は、単なる時間つぶしではありません。それは、その人が人生をかけて磨き上げた才能であり、自己表現の手段であり、他者との関係を築く媒体です。高齢になり身体機能や認知機能に変化が生じても、これらの記憶や技能は比較的よく保たれることが多くあります。

普段は物静かな方が、将棋の話になった途端に表情が輝いたり、認知症で会話が難しい方でも、大好きだった歌を口ずさんだりする場面は、多くのセラピストが経験しているのではないでしょうか。

趣味・特技を活かすことで得られる3つの効果

  1. 自己効力感の向上:「まだできる」「人の役に立てる」という実感は、何よりの心の支えになります。
  2. 社会的つながりの深化:共通の趣味で友人ができたり、特技を教えることで尊敬される存在になったりします。
  3. 自然な機能訓練:楽しみながら、知らず知らずのうちに心身機能の維持・向上につながります。

埋もれた才能を発掘する4つの評価アプローチ

利用者さんご本人は謙遜して「特に趣味なんて…」とおっしゃることが多いため、多角的なアプローチでその人だけの「宝物」を見つけ出すことが重要です。

① 詳細な生活歴の聴取

幼少期や学生時代の部活動、仕事の専門分野、家庭での役割など、人生のあらゆる場面にヒントは隠されています。

② 家族からの情報収集

「昔、〇〇を作ってくれた」「休日はいつも〇〇をしていた」など、ご家族だけが知る得意なことや好きだったことを教えてもらいましょう。

③ 日常の観察評価

何気ない動作に現れる手先の器用さ、興味を示すテレビ番組、自然に口ずさむ歌など、普段の様子を注意深く観察します。

④ 試行的活動での反応確認

様々な活動を試しに提供し、その方の表情や発言、参加意欲の変化から、関心のありかを探ります。

私たちの施設では、これらの情報を「趣味・特技発掘シート」に記録し、その方の趣味への思い入れや関連する思い出まで含めてスタッフ間で共有しています。

【実践事例3選】趣味が「役割」と「生きがい」に変わった瞬間

ここでは、趣味や特技を活かして利用者さんが輝きを取り戻した3つの事例をご紹介します。

事例1:書道の達人、83歳男性「再び筆を持つ喜び」

  • 背景:師範代の腕前だったが、脳梗塞の後遺症で右手に軽度の麻痺。
  • プログラム:機能訓練を兼ねた書道練習から始め、3ヶ月後にはデイサービス内の「書道教室の講師」に。
  • 成果:「先生の字は美しい」と他の利用者から慕われる存在となり、「まだ人の役に立てる」と自信を回復。施設の掲示物の題字を担当するなど、具体的な役割がさらなる意欲に繋がった。

事例2:編み物名人、76歳女性「知識を伝える誇り」

  • 背景:長年の編み物経験を持つが、関節リウマチで指の変形があり細かい作業は困難。
  • プログラム:「編み物サークル」の技術指導者(アドバイザー)として活躍。
  • 成果:実際に編むことは難しくても、「ここはこうすると綺麗」「この色合わせが素敵」など豊富な知識を活かして初心者を指導。頼りにされる存在となり、技術を次世代に伝える喜びを感じている。

事例3:園芸愛好家、80歳男性「育てる責任感と喜び」

  • 背景:長年、自宅で野菜作りを楽しんでいたが、認知症の進行で複雑な作業は困難。
  • プログラム:デイサービスの菜園とプランターの「管理者」を担当。
  • 成果:新しいことを覚えるのは難しくても、長年の経験に基づく植物の世話は自然とできる。水やりや収穫といった日々の役割が生活にリズムを生み、「自分が育てた野菜が美味しい」という喜びが大きな生きがいとなっている。

趣味活動は、最高の機能訓練になる

趣味や特技を活かした活動は、楽しみながら自然に心身の機能を維持・向上させる、まさに一石二鳥のリハビリテーションです。

  • 手工芸(書道・編み物など):手指の巧緻性、集中力、構成能力を鍛える。
  • 音楽活動(歌唱・楽器演奏):呼吸機能、記憶力、協調性を向上させる。
  • 園芸活動:立位バランス、季節感の維持、責任感を養う。
  • 料理活動:段取り力、ADL動作、他者との協力を促す。

重要なのは、一人ひとりの現在の心身機能に合わせて、役割や参加方法(指導役、サポーター役、短時間参加、道具の工夫など)を柔軟に調整することです。

まとめ:その人らしさが輝く場所を創る

  1. 利用者の趣味・特技は、その人のアイデンティティと生きがいの源泉。これを活かすことで、自己効力感と社会的つながりを育むことができる。
  2. 書道、編み物、園芸などの特技を活かした「指導者」や「管理者」といった役割を提供することで、「人の役に立てる」という実感と誇りを引き出す。
  3. 個別性を重視し、本人の技能レベルや心身の状態に合わせてプログラムを調整すること。そして、世代間交流や家族との連携を通じて、その価値を広げていくことが重要である。

高齢者の趣味は、パソコンやスポーツなど時代と共に多様化しています。私たちセラピストも常にアンテナを張り、その人だけの「好き」や「得意」を最大限に活かせる支援を続けていくことが求められます。

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