腰痛の症例紹介:不安定性と可動性低下への評価と介入 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

腰痛の症例紹介:不安定性と可動性低下への評価と介入 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

こんにちは、理学療法士の赤羽です。疼痛について解説するシリーズ第19回目となります。

今回は、症例検討形式で臨床での考え方を勉強してみましょう。

腰痛は整形外科領域で最も多くみられる症状の一つであり、その原因は多岐にわたります。特に、長時間の同一姿勢や繰り返しの動作が関与するケースでは、体幹の安定性や可動性のバランスが崩れ、結果として疼痛が発生することが多くあります。今回は、長時間の運転や荷物の積み降ろし作業によって腰痛を訴える患者を想定し、評価から治療アプローチまでを解説します。

【症例の概要】

患者情報

  • 年齢・性別:40代男性
  • 職業:配送業(長時間の運転+荷物の積み降ろし)
  • 主訴:長時間運転後に右腰部(L4/5・L5/S1)の痛みが増す。仕事をしているうちに疼痛が強くなり、特に夕方には悪化。
  • 誘因:荷物を持ち上げる際や座位から立ち上がる際に痛みが増悪

【評価と解釈】

① 不安定性のチェック

  • Prone Instability Test:陽性(体幹支持時に圧痛軽減 → 不安定性あり)
  • ASLR(腹横筋徒手介助あり・なしの比較):徒手介助で改善(コアの機能低下を示唆)
  • 前屈時の手つき動作:あり(腰部への負担を回避するための代償動作)

体幹の安定性が低下し、動作時の椎間関節への負荷が増大していることが示唆される。

② 椎間関節と筋の影響

  • ケンプテスト:右L4/5・L5/S1椎間関節部に疼痛出現(椎間関節性疼痛の可能性)
  • 多裂筋の圧痛:右L4/5・L5/S1付近で圧痛あり(多裂筋の過緊張)
  • PSIS周囲の圧痛:なし(仙腸関節の関与は低い)

→ 長時間の運転による筋の緊張と椎間関節ストレスの蓄積が疼痛の一因と考えられる。

③ 可動性と股関節の影響

  • 股関節内旋可動域:右35°、左20°(左股関節の内旋制限あり)
  • 体幹回旋動作時の股関節の使い方:左股関節で回旋できず、右腰部で代償的に回旋している
  • 荷物持ち上げ時の代償動作:左股関節がうまく使えず、腰部への負担が増している

左股関節の可動性低下が、右腰部へのストレス増大につながっている可能性が高い。

【最終的な病態の考察】

痛みの主な原因

  • 長時間の運転での姿勢保持により、多裂筋へのストレスが増大
  • 体幹の不安定性(腹横筋の機能低下)により、椎間関節へのメカニカルストレスが増加
  • 左股関節の可動性低下により、荷物を持ち上げる際に股関節でストレスを逃がせず、右腰部の椎間関節に負荷が集中

夕方に疼痛が強くなる理由

朝は筋・関節の負荷が少なく、痛みは軽度 → 仕事が進むにつれ、ストレスが蓄積し、疼痛が増悪

この考察から、治療方針としては「体幹の安定性向上」「股関節の可動性改善」「動作パターンの修正」が必要であると考えられます。

【アプローチ】

  1. 体幹の安定性向上
    • ドローイン+四つ這い安定化エクササイズ(腹横筋・多裂筋の活性化)
    • ASLRトレーニング(徒手介助→自動安定化)(コアの安定性強化)
    • デッドバック(コアの安定性と四肢の協調性向上)
    • Prone plank(負荷調整しながら進める)
  2. 左股関節の可動性改善
    • 股関節のモビライゼーション
    • 股関節回旋の促通(骨盤を固定し、股関節主導の動作を練習)
  3. 多裂筋リリース
    • 手技による筋のリリース+ストレッチ
    • 運動療法と組み合わせて再発予防(リリース後にコアトレーニングを実施)
  4. 股関節-脊柱の協調性トレーニング
    • 荷物の持ち上げ動作の再教育(股関節主導の動作へ修正)
    • 股関節回旋を使った体幹トレーニング
  5. 坐位姿勢の調整
    • 運転時のシートポジション調整等ポジショニング
    • 長時間座位後の軽いストレッチやエクササイズを導入

【まとめ】

この症例では、多裂筋の過緊張と体幹の不安定性により、椎間関節へのストレスが増大し、腰痛が引き起こされていた。さらに、左股関節の可動性低下が腰部への負担を助長し、長時間の仕事によって疼痛が悪化するパターンが見られました。

そのため、治療では体幹の安定性向上・股関節の可動性改善・動作パターンの修正を組み合わせることが重要となる。これにより、腰部へのストレスを軽減し、長時間の仕事でも痛みが出にくい身体の使い方を習得することができます。

腰痛の治療では、局所だけでなく、全身の連鎖や日常生活の動作を評価し、包括的にアプローチすることが重要です。本症例のように、不安定性と可動性のバランスを考えながらアプローチすることが、効果的な腰痛管理につながる可能性があると考えます。

今回は、身体機能面を中心に考えてきましたが、心理社会的要因も関与するためさまざまな側面を考慮する必要がありますので注意してください。

ポイント3つ

  1. 腰痛の原因長時間の運転と股関節の可動性低下が腰部に負担をかける。
  2. 治療法体幹の安定化、股関節の柔軟性向上、正しい動作の習得が重要
  3. 重要ポイント腰痛改善には全身のバランスを考えた包括的アプローチが必要

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