なぜ「触れても分からない」? PT・OTが知るべき体性感覚の評価とリハビリ戦略

なぜ「触れても分からない」? PT・OTが知るべき体性感覚の評価とリハビリ戦略

こんにちは、理学療法士の大塚です。

今回は、理学療法士・作業療法士の臨床に不可欠な「感覚」をテーマに、評価と介入の質を劇的に高める知識を、基礎から臨床応用まで分かりやすく解説します。

“感じる”仕組みが分かればリハビリは変わる|PT・OTが体性感覚を学ぶべき理由

「患者さんの“痛い”“触れた感じがしない”という訴えを、どう解釈し、介入に繋げるか?」

これは、私たち理学療法士(PT)・作業療法士(OT)にとって、運動機能の回復と並ぶ最重要テーマです。体性感覚の評価と介入は、リハビリの成果を大きく左右します。

この記事では、教科書レベルの体系的な知識をベースに、すぐに臨床アイデアが湧く「INCET※」の視点と最新の知見を交えて、あなたの臨床力を一段階引き上げる情報をお届けします。


1.【早見表】体性感覚とは?4つの種類と伝導路、臨床評価を1分で整理

まずは、体性感覚の全体像を掴みましょう。感覚の種類によって、受容器や脳へ情報を伝えるルートが異なります。

感覚の種類主な受容器主な伝導路主な臨床検査
表在感覚(触覚・圧覚・振動覚)布の触り心地、鍵盤のクリック感、音叉の振動マイスナー小体、メルケル盤、パチニ小体、ルフィニ終末後索‐内側毛帯路モノフィラメント、チューニングフォーク
表在感覚(温覚・冷覚)お湯/氷に触れたときの温度感温度受容器(TRPチャネル系)外側脊髄視床路試験管テスト
深部感覚(固有受容覚)関節の位置覚、筋の長さ・張力筋紡錘、ゴルジ腱器官、関節包受容器後索‐内側毛帯路関節位置テスト、ロムベルグ徴候
痛覚体に害を及ぼす刺激(鋭い痛み、鈍い痛み)Aδ線維・C線維侵害受容器外側脊髄視床路ピンプリック、VAS/NRS
臨床のヒント

触覚が低下していても振動覚が残存するなど、受容器の種類ごとに障害パターンは異なります。多角的に評価することで、障害されている部位をより正確に推論できます!


2. 感覚の入り口「受容器」を徹底解剖|触れる、熱い、動かすをコードする仕組み

効果的なリハビリを行うには、どの刺激がどの受容器を興奮させるのかを知ることが重要です。ここでは代表的な受容器の役割と、それを応用したアプローチのヒントを紹介します。

2-1. 機械受容器 ―「触る」「押す」「揺れる」をコードする

  • マイスナー小体:皮膚の浅い層に存在。素早い順応性。低周波の振動(2~50Hz)や軽いタッチを検出します。
    → デジタルデバイス(タッチパッド等)の操作訓練に応用可能。
  • メルケル盤:皮膚の浅い層に存在。順応が遅く、「ジワッ」とした持続的な圧を検知。点字の識別などを支えます。
  • パチニ小体:皮下組織など深い層に存在。高周波振動(60~400Hz)に鋭敏で、電動歯ブラシの微細な振動なども察知します。
  • ルフィニ終末:真皮の深い層や関節包に存在。皮膚の伸展や持続的な圧に反応し、関節角度の微妙な変化を知らせ、巧みな運動制御に関与します。

2-2. 温度受容器 ― TRPチャネルという名の“温度スイッチ”

  • 冷受容器(TRPM8など):約15℃~35℃で活性化。
  • 温受容器(TRPV3/4など):約30℃~45℃で活性化。
  • 45℃以上/15℃以下では侵害受容器が活動し、「熱い!」「冷たすぎる!」という痛覚に切り替わります。
INCET視点

冷温交互浴は、このTRPチャネルを交互に刺激することで、自律神経系を介した血管運動のトレーニングや、痛みの抑制効果が期待できるアプローチです。

2-3. 固有受容器 ― “身体のGPS”がリアルタイムで位置情報を配信

受容器何を検出?臨床での意義・アプローチ
筋紡錘 (Ia, II線維)筋の長さ・伸張速度伸張反射の理解に不可欠。ストレッチングによる筋緊張コントロールの基盤。
ゴルジ腱器官 (Ib線維)筋が発揮する張力過剰な筋収縮を抑制する自己抑制に関与。重りを使ったトレーニングなどで筋張力のフィードバックを再学習させる。
関節包受容器関節の角度・加速度関節位置覚トレーニングやバランストレーニングの神経学的な背景となる。

3. 脳へのルートマップ「感覚伝導路」を理解する|2つの主要経路の違い

受容器からの情報は、2つの主要な高速道路を通って脳に届けられます。このルートの違いを知ることが、症状の解釈に繋がります。

3-1. 後索‐内側毛帯路(DC-ML系)

「精密な触覚 & 身体の位置情報」を伝える専用レーンです。識別性の高い情報を高速で伝えます。

  1. 後索を上行(下半身は薄束、上半身は楔状束)
  2. 延髄でニューロンを乗り換え、反対側へ交叉
  3. 内側毛帯を通り視床(VPL核)
  4. 最終目的地である一次体性感覚野(S1)へ到達

3.2 外側脊髄視床路

「温冷覚 & 痛み」を伝えるバイパスルートです。生命の危険に関わる情報を迅速に伝えます。

  1. 脊髄に入ってすぐにニューロンを乗り換え
  2. すぐ反対側へ交叉し、脊髄の外側を上行
  3. 視床(VPL核など)を経由
  4. 一次体性感覚野(S1)や島皮質など、より広範な領域へ到達
触覚と痛みの”時間差”の謎

なぜ「手をぶつけた時、『触れた』感覚の少し後に『ジンジンとした痛み』が来る」のでしょうか?

これは、触覚を伝えるAβ線維(有髄で高速: 30-70m/s)と、鈍い痛みを伝えるC線維(無髄で低速: 0.5-2m/s)の伝導速度の違いによるものです。伝導路の知識は、こうした日常の現象も説明してくれます。


4. 脳は情報をどう処理する?|体性感覚野(S1/S2)と神経の再配線(可塑性)

感覚情報が最終的に処理され、「認識」が生まれる場所が、大脳皮質の体性感覚野です。

4-1. 一次体性感覚野(S1)― 身体の地図“ホムンクルス”

  • 頭頂葉の中心後回に位置し、身体各部からの情報を受け取るマップ(体部位局在)があります。
  • 感覚の解像度が高い部位(手、口唇など)ほど、このマップで占める面積は大きくなります。これが有名な「ホムンクルス」です。
  • 臨床での応用:二点識別閾の評価
    • 指先:2~5mm
    • 背中:40~50mm
    • この閾値の拡大は、皮質機能の低下や末梢神経障害の重要なサインです。

4-2. 二次体性感覚野(S2)・頭頂連合野 ― 統合と認知

  • S1からの情報をもとに、形・質感・重さなどを統合し、物体の立体認知(ステレオグノーシス)を生み出します。
  • さらに高次の頭頂連合野と連携し、視覚情報と統合して、巧みな運動計画の立案に貢献します。
INCET活用術

リハビリ中に、対象物(例:タオル→ザラザラしたスポンジ→重いペットボトル)を頻繁に変えてみましょう。多様な感覚入力を与えることで、S2や頭頂連合野を活性化させ、多感覚統合を促し、運動出力のパターンを豊かにすることができます。


5.【明日から使える】病態別・感覚リハビリの臨床アイデア3選

では、これらの知識をどのように臨床に活かせばよいのでしょうか?代表的な3つの病態に対するアプローチ例を紹介します。

代表的な病態感覚障害のパターン例介入アプローチのヒント(INCET視点)
脳卒中(S1損傷など)触覚・位置覚の低下は著明だが、粗大触覚や痛覚は残りやすい。マルチモーダル刺激:音叉(振動覚)→様々な素材の布(触覚)→重さの違う物品(圧覚・固有覚)へと段階的に刺激を多様化させる。
ミラーセラピー+閉眼でのリーチ:視覚代償を制限し、固有受容感覚の再学習を促す。
糖尿病性ニューロパチー手袋靴下型の感覚障害。特に足底の触覚・振動覚が低下し、転倒リスクが増大。振動刺激インソールの活用検討。パチニ小体へ持続的に刺激を入力し、存在しない感覚入力を補う。
様々な足場の課題:クッションやマットの上でバランスをとるなど、視覚依存から脱却し、足裏からの情報を意識させる。
CRPS / 慢性痛アロディニア(異痛症)や痛覚過敏など、中枢神経系の感作が関与。GMI(段階的運動イメージ療法):左右の認識課題→運動のイメージ→ミラーセラピーへと、脳のマッピングを安全に再構築していく。
有酸素運動と呼吸法:痛みで身体を動かさない悪循環を断ち切り、内因性の鎮痛システムを活性化させる。

まとめ|感覚リハビリで成果を出すための5つの重要ポイント

今回の内容を、臨床で実践するための5つのキーポイントにまとめました。

  1. 受容器の特性を知れば、刺激の選択が的確になる。
    (例:マイスナー小体には軽いタッチ、パチニ小体には振動など)
  2. 伝導路のルートを理解すれば、障害部位の推論力が上がる。
    (例:後索路と脊髄視床路のどちらの障害かを鑑別する)
  3. 脳には可塑性があり、トレーニングで“書き換え”が可能である。
    (例:感覚入力×認知課題×運動実践の組み合わせで皮質の再編を促す)
  4. 二点識別閾は、簡便ながら脳機能まで評価できる優れた指標。
    (例:巧緻動作障害の背景にある感覚の問題を定量的に追跡できる)
  5. 感覚介入とは「刺激の時間的・空間的な解像度」を上げること。
    (例:刺激の頻度、強度、種類を調整し、脳の“解像度スイッチ”を使いこなす)

INCET concept (統合的神経認知運動療法®︎)とは?

最後に、本稿でも触れたINCETコンセプトについて、改めてその概要をご紹介します。

統合的神経認知運動療法®は、ICFとBPSモデルを基盤に、「身体・脳・環境」の相互作用を統合的に捉える臨床思考フレームワークです。

患者様の「したい生活(HOPE)」から逆算し、構造・神経・環境・発達・心理認知の5つの視点で多角的に分析。徒手療法から認知行動学的アプローチまでを体系的に組み合わせ、神経の可塑性と行動変容を最大化します。

このフレームワークは、新人からベテランまで、誰もが明日からの臨床をアップグレードできる実践的なツールです。ご自身の臨床の幅を広げ、患者様により良い結果を提供するために、ぜひ詳細をご確認ください。

※INCET®はLTSの登録商標です。

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