全身状態に合わせる時、どう見極める? ポジショニングのリスク管理と判断基準を徹底解説

全身状態に合わせる時、どう見極める? ポジショニングのリスク管理と判断基準を徹底解説

毎日のケアやリハビリにあたる中で「あの患者さん、そろそろ動かしても大丈夫かな?」「今日のリハビリで、急に病状が悪化しないかな?」と判断に迷うことはありませんか?

リハビリ職も看護師も目指すのは「安全」と「活動」の両立ですが、全身状態が不安定な患者さんを前にすると、そのバランスを取ることを難しく感じますよね。

今回は、「まだ安静にしておくべきか(=守り)」、それとも「積極的に動かして機能を伸ばすべきか(=攻め)」を判断するための具体的なコツを、一緒に学んでいきましょう。

この記事はこんな方におすすめ

  • 合併症予防に徹するあまり、機能改善のチャンスを逃していないか不安な方
  • 不安定な患者さんを前に、“攻め”と“守り”の境界線で悩んでいる方
  • 多職種間でポジショニングの目標が異なると感じている方

本日のギモン

Q. “攻め”と“守り”のポジショニング、どう使い分ける?
→ A. 全身状態を正しく評価し、「攻め時」か「守り時」かを判断します。

Q. 全身状態を評価する具体的な方法は?
→ A. 検査・画像データに加え、フィジカルアセスメントが重要です。

Q. 判断に役立つ客観的な基準はある?
→ A. 病期や環境に応じて、確立された複数の基準を使い分けます。

1.【守りのポジショニング】とは?

「守りのポジショニング」とは、全身状態が悪く治療が優先される時期に、呼吸・循環機能の悪化や合併症から患者さんを守ることを目的とします。30°側臥位や腹臥位などが中心です。

<具体的な状態の例>

  • 急性感染症や術後感染症による高熱
  • 敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、ショック状態
  • 急性期の脳血管障害で、頭蓋内圧亢進や神経症状の悪化が見られる場合

2.【攻めのポジショニング】とは?

「攻めのポジショニング」とは、全身状態が安定し、積極的な機能改善・活動範囲の拡大や社会参加の促進を目的に行います。車いすでの座位保持などが中心です。

<具体的な目標の例>

  • 摂食時のリーチ動作を改善したい
  • 食事中の姿勢崩れを減らし、食事介助量を軽減したい
  • 車いすでの離床時間を延長し、趣味活動に取り組めるようにしたい

3. 判断の要!全身状態を評価する方法

的確な判断には、多角的な情報収集と評価が不可欠です。

治療経過の確認

  • 使用薬剤の効果:降圧剤で血圧は安定しているか?抗生剤で炎症は改善傾向か?
  • 術後の経過:クリティカルパスから大きく逸脱していないか?

検査・画像データの確認

  • 炎症・感染:白血球数(WBC)、C反応性タンパク質(CRP)
  • 臓器機能:肝機能(AST/ALT)、腎機能(BUN/Cre)、電解質、血糖値
  • 画像所見:肺炎の影、骨折、腫瘍の大きさ、胸水・腹水の貯留などを経時的に比較

フィジカルアセスメント

  • バイタルサイン:呼吸、循環、体温の安定性
  • 主観的情報:疼痛、倦怠感、不安などの患者さんの訴えや表情
  • 客観的情報:皮膚の色調(チアノーゼ)、浮腫の有無、呼吸音や心音の異常

4. 臨床判断に役立つリハビリテーション基準

客観的な指標として、先人たちが確立した基準を知っておくことは非常に重要です。対象や目的に応じて使い分けましょう。

基準の名称主な対象・環境特徴
アンダーソンの基準心臓リハビリテーション運動負荷による心リスク回避の最も基礎的な基準。
アンダーソン・土肥の基準急性期リハビリ(脳卒中など)日本の急性期医療向けに拡張され、初期離床の安全性に特化。
リハ中止基準(リハ医学会)全リハビリテーション医療訓練中の事故を防ぐため、中止すべき具体的な数値や症状を定める。
早期リハの基準(集中治療医学会)ICU人工呼吸器など高度な生命維持装置管理下での早期離床の安全性を最優先。
PADISガイドラインICU不動による廃用予防を重視し、鎮静レベル(RASS)も考慮する。
離床の開始・中止基準(離床学会)全病棟(ICU〜一般)多職種で共有しやすい簡便で実践的な基準。看護ケアとの連携を重視。

5. 多職種で共有しやすい「日本離床学会」の基準

ポジショニングは多職種連携が鍵となるため、ここでは最も実践的で共有しやすい「離床の開始基準と中止基準」を詳しく見ていきましょう。

【離床禁忌】絶対に見逃してはいけないサイン

  • 神経症状の増悪がある
  • 活動性の出血がある
  • 不安定な未治療の骨折がある
  • コントロール不能な致死的 不整脈
  • 患者・家族の同意が得られない
【離床を慎重に検討】リスクが高い状態

  • 38.0℃以上の発熱
  • 安静時心拍数が50回/分以下 or 120回/分以上
  • 安静時収縮期血圧が80mmHg以下 or 200mmHg以上
  • P/F比が200以下の重度呼吸不全
  • 安静時の疼痛がVAS 7/10以上

6. 症例で学ぶ!振り返りクイズ

以下の症例では「守り」と「攻め」のどちらを優先すべきでしょうか?理由も考えてみましょう。

症例1:脳出血急性期(発症3日目)

【状況】左片麻痺が進行傾向。安静時血圧180mmHg台。家族は「今は動かさないでほしい」と希望。
【解答】守りのポジショニング
【理由】「神経症状の増悪」「家族の同意が得られない」という離床禁忌に該当。血圧も高く、再出血リスクがあるため、二次的障害予防を最優先します。

症例2:脳梗塞回復期(発症1ヶ月)

【状況】バイタル安定。食事中に体幹が傾き、介助量が増加。目標は「食事時の姿勢を安定させたい」。
【解答】攻めのポジショニング
【理由】全身状態が安定しており、離床に問題なし。「食事」という具体的な活動・参加の改善が目標のため、車いすの調整など積極的な機能改善を目指します。

症例3:慢性心不全の増悪期

【状況】安静時心拍数130回/分。安静時でも倦怠感が強くVAS 8/10。
【解答】守りのポジショニング
【理由】安静時心拍数と強い倦怠感が「慎重に検討すべき状態」に該当。心臓への負荷が高く、身体の予備能力が低いため、エネルギー温存と二次的障害予防を優先します。

まとめ

  • ポジショニングは常に「守り」と「攻め」を意識する。
  • 判断にはバイタルだけでなく、多角的なアセスメントが必須。
  • 安全管理のため、病態や環境に応じた客観的な医学的基準を活用する。

引用・参考文献

リハビリ効果が持続しない悩みを解決! 科学的根拠に基づく「考えるポジショニング」

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