こんにちは、理学療法士の大塚です。
今日は「関節モビライゼーション」についてお話しします。
日々の臨床で、こんな場面ありませんか?
- 膝に可動域制限があるから、とりあえずモビをしよう
- 肩を外転するときに痛みがあるから、モビで改善させよう
- 股関節の詰まりを解消するのに、モビをしよう
先輩のカルテにもそう書いてあるし、なんとなく関節を動かしているからこれがモビなんだろう…。よし、なんとなく動いたような気がする。
これ、本当に関節のモビライゼーションができているでしょうか?
実はこの「なんとなくモビ」、かつての僕自身がそのままやっていたことです。この記事では、関節モビライゼーションの定義・歴史的背景、そして「そもそも適応かどうか」を判断するための評価手法(STTT)についてお伝えします。
- 関節モビライゼーションは「不活性組織(関節包・靭帯)」を中心に狙う愛護的・段階的アプローチ。ストレッチとは狙う組織の中心が異なるが、完全な別物ではなく連続体で、神経系・筋の反射的変化も関与する。
- 「可動域制限がある→とりあえずモビ」ではなく、STTT(選択的組織緊張検査)などで適応かどうかを評価してから選ぶ(STTTは判断材料の一つ)。
- STTTは自動運動・他動運動・等尺性抵抗運動を組み合わせ、収縮性組織か非収縮性組織かの仮説を絞り込む補助になる。
そもそも関節モビライゼーションとは?
まず定義から確認しましょう。
関節モビライゼーションとは、収縮性組織(筋肉)を伸ばす「ストレッチ」とは異なり、主に「不活性組織(関節包・靭帯)」を標的とした愛護的・段階的アプローチのことです。
関節には「生理的運動」と「副運動(関節包内運動)」があります。生理的運動とは、私たちが意識的に動かせる曲げ伸ばしの動きです。副運動とは、その生理的運動を可能にするために関節面の間で起きている転がり・滑り・回旋といった微細な動きで、自分ではコントロールできない動きです。
可動域制限が生じているとき、副運動の制限が示唆されることがあります。関節モビライゼーションは、その副運動の制限改善を促し、生理的運動を引き出すための手技です。
ひとつ補足しておきます。モビライゼーションで可動域が改善するのは、関節包そのものが伸びたからだけではありません。手技による刺激が痛みを抑える神経系の働き(疼痛抑制)や、筋の反射的な緊張低下を引き起こすことも、大きな要因と考えられています。「不活性組織だけに作用する」というのは古典的な整理であり、実際には神経・筋・関節が複合的に関与している、と理解しておくとより正確です。
ストレッチ → 収縮性組織(筋肉・腱)が中心
関節モビライゼーション → 不活性組織(関節包・靭帯)の関節包内運動が中心
狙う組織の中心は異なります。ただし両者は完全な別物ではなく、ストレッチでも関節包に負荷はかかり、モビでも筋活動や神経系に影響します。実際には連続体として捉えるのが正確です。
関節モビライゼーションの歴史的背景
この手技には、理解しておくべき3人のキーパーソンがいます(もちろん、ほかにも重要な人物はいますが、まずはこの3人を押さえておきましょう)。
① マックコネイル(MacConaill):関節運動学の発見
解剖学者であるマックコネイルは、関節の動きには「転がり(Roll)・滑り(Slide)・回旋(Spin)」というルールがあることを示しました。これが関節運動学の基礎となります。ただし、実際の関節ではこの3つは同時に起こっており、臨床で完全に分離して操作できるわけではない、という点は押さえておきましょう。
② カルテンボーン(Kaltenborn):技術の体系化
理学療法士のカルテンボーンは、マックコネイルの関節運動学を臨床に落とし込み、「凹凸法則」や「治療平面(牽引・滑り)」という概念によって手技を体系化しました。関節面の形状(凸か凹か)に応じてどの方向に滑りを加えるかを明確にした点が大きな貢献です。ただし、凹凸法則は多くの関節で有用な“目安”であり、絶対のルールではありません。個体差や病態によってズレることがあり、特に肩関節などでは例外的な挙動も知られています。
③ メイトランド(Maitland):痛みを制御する振動手技の体系化
同じく理学療法士のメイトランドは、痛みを制御するための「持続的振動運動(オシレーション)」をグレード分類し体系化しました。このグレード分類は今日でも広く使われています。
その可動域制限、本当に関節モビライゼーションの適応ですか?
ここが、この記事で最も伝えたいことです。
僕が新人の頃によく陥っていた思考があります。
とりあえず動かないから動かしてみる、というものです。もちろん、完全に間違いではないですし、ある程度結果が出ることもあります。でも、これって根拠がないですよね?
可動域制限の原因が「筋肉の短縮(収縮性組織の問題)」であれば、関節モビライゼーションより先にストレッチが適切なはずです。逆に「関節由来の可動域制限(不活性組織の問題)」が示唆される場合は、モビライゼーションが選択肢になります。
まず「何が制限を生んでいるのか」という仮説を立ててから手技を選択する。そのためのスクリーニングツールが STTT(選択的組織緊張検査) です。
STTTでスクリーニングする
STTT(Selective Tissue Tension Testing:選択的組織緊張検査)は、患者さんの痛みや機能障害が「どの解剖学的組織から発生しているのか」について仮説を立てるための評価手法です。整形外科的徒手医学の礎を築いたイギリスの医師、ジェームズ・サイリアックス(James Cyriax)によって開発されました。
ここで大切な前提を共有しておきます。STTTは古典的で有用な評価ですが、組織を明確に特定できる精度は決して高くないことが研究でも指摘されています。「論理的に組織を絞り込める」と言い切るのはやや強い表現で、実際は仮説を立てる補助ツールと捉えるのが適切です。現在は、画像所見・痛みのメカニズム(中枢感作など)・機能評価なども併せて判断していくのが一般的です。
2種類の組織を区別して考える
STTTでは、人体の組織を大きく2つに分けて考えます。
収縮性組織(Contractile tissues)
- 該当するもの:筋腹(筋肉本体)、腱、腱の骨付着部
- 特徴:自発的に縮む、または引き伸ばされることで緊張が高まる組織
非収縮性組織/不活性組織(Inert tissues)
- 該当するもの:関節包、靭帯、滑液包、筋膜、神経根、硬膜など
- 特徴:自発的には縮まない組織。関節が動いて伸ばされるか、挟み込まれることで緊張が高まる
3つのテストで組織を絞り込む
STTTでは、患者さんに以下の3つの方法で関節を動かしてもらい、痛みの出方を比較します。
① 自動運動(Active Movement)
患者さん自身の力で動いてもらうテストです。筋肉(収縮性)も働き、関節(不活性)も引き伸ばされるため、「すべての組織」にテンションがかかります。どこに問題があっても痛む可能性があるため、全体の動きの制限や痛みの現れ方(ペインフルアークなど)を見るスクリーニングとして使います。
② 他動運動(Passive Movement)
術者が力を加え、患者さんの力を完全に抜いた状態で動かすテストです。筋肉はリラックスしているため、主に非収縮性組織(靭帯や関節包など)にテンションがかかります。可動域の制限や、最終域での抵抗感(End feel)、痛みの有無を確認します。
③ 等尺性抵抗運動(Resisted Isometric Movement)
関節が動かないように術者が抵抗をかけ、患者さんに最大限の力で踏ん張ってもらうテストです(関節に負担の少ない中立位で行います)。関節が動かないため、非収縮性組織にはほとんど負担がかかりません。主に収縮性組織(筋肉・腱)にテンションをかけることができます(関節圧縮や神経系への負荷もゼロではありません)。
評価のロジック:痛みの出方で原因を絞り込む
3つのテストを組み合わせることで、以下のように原因を絞り込んでいきます。
他動運動と自動運動の「同じ方向」で痛む
⇒ 非収縮性組織(靭帯・関節包など)の疑い
例:関節を曲げたときに、後ろ側の靭帯が伸びて痛む
自動運動と、他動運動の「逆の方向(ストレッチされる方向)」で痛む、または抵抗運動で痛む
⇒ 収縮性組織(筋肉・腱)の疑い
例:肘を曲げると痛い、かつ、肘を他動で伸ばすと前側が突っ張って痛む
さらに、等尺性抵抗運動(RIT)の結果は複数のパターンに分類されます。特に筋肉や腱のトラブルを評価する際、この分類がサイリアックスの解釈ロジックとして有名です。
これらの評価を組み合わせ、非収縮性組織の問題だと考えられるときに、関節モビライゼーションを選択するというのが、根拠ある手技選択の流れです。ただしSTTTだけで決めてしまうのではなく、痛みの性質(侵害受容性か神経障害性か)・炎症の有無・心理社会的因子なども含めて、総合的に判断していきます。さらに、実際の臨床では介入に対する即時的な反応(可動域や痛みの変化)も重要な判断材料となります。
STTTで出た結果はあくまで「仮説」です。現実の臨床では、筋と関節が同時に問題となる混在病態が多く、また痛みは必ずしも組織の損傷と一致しません(中枢感作などの影響)。STTTは判断材料の一つと位置づけ、介入しながら再評価を繰り返し、仮説を修正していく姿勢が大切です。
まとめ
- 関節モビライゼーションは「不活性組織(関節包・靭帯)」を中心に狙う手技。筋肉を伸ばすストレッチとは狙う組織の中心が異なるが、完全な別物ではなく連続体であり、神経系・筋の反射的変化も関与する。
- 「可動域制限がある→とりあえずモビ」ではなく、STTTなどを用いて仮説を立てた上で手技を選択することが根拠ある臨床につながる。
- STTTは原因組織の仮説を絞り込む補助になるが、組織特定の精度には限界がある。STTT単独で判断せず、痛みの性質・炎症・心理社会的因子なども含めた総合評価の一部として用いる。
関節モビライゼーションの具体的な方法(グレード分類・凹凸法則の臨床応用など)については、次のコラムでお伝えします。
その評価・アプローチ、「なぜそこか」を説明できますか?
硬いところを緩める。弱いところを鍛える。間違いではありません。
でも、患者さんのHOPEから逆算したとき、今すべきことはそれでしょうか。
臨床推論の基本の型を6日間で身につける触診BASICコースで、「地図」を持った療法士になりませんか。
考えて触診する、その一歩目。【触診BASICコース】臨床推論の基本の型から始まる、6日間の触診と徒手的アプローチ

