「運動機能が落ちてきた」「認知症で混乱してしまう」「社会とのつながりが欲しい」…デイサービスの現場では、利用者さん一人ひとりの多様な課題に直面します。
私たち作業療法士(OT)に求められるのは、単なる機能訓練だけではありません。評価・介入・環境調整・多職種連携を通じて、利用者さんの「その人らしい生活」を支える専門性です。
この記事では、新人からベテランまで、明日からの臨床ですぐに役立つ具体的な視点や実践例を交えながら、デイサービスにおけるOTの役割と支援方法を徹底解説します。
- デイサービスにおけるOTの具体的な3つの役割
- 評価から個別訓練プログラム立案までの具体的な流れ
- レクを治療に変える集団活動の企画術
- QOLが向上した3つの実践事例と多職種連携のコツ
デイサービスとは?その機能とリハビリの位置づけ
まず基本として、デイサービス(通所介護)の役割を再確認しましょう。
デイサービスの3つの基本機能
- 日常生活上の支援:入浴や食事などを提供し、心身機能の維持向上を図る。
- 社会的孤立感の解消:集団活動を通じて社会参加の機会を提供し、生きがいや役割を見出す。
- 家族の介護負担軽減:利用者が日中サービスを利用することで、家族の身体的・精神的負担を軽くする。
かつてのデイサービスは「入浴・食事・レク」が中心でしたが、現在は介護保険制度の方針もあり、「生活機能の向上」に重点が置かれています。まさにここが、私たち作業療法士の専門性が最も活かされるポイントです。
デイサービスにおける作業療法士の3つの主な役割
デイサービスにおいて、OTは主に3つの役割を担います。それぞれを具体的に見ていきましょう。
役割①:個別機能訓練の実施・指導
利用者さん一人ひとりの状態に合わせたアプローチは、OTの核となる業務です。
評価から始まる個別アプローチ
まずは、身体・認知・社会機能を包括的に評価し、課題を明確にします。
- ADL評価:FIM、Barthel Index
- 認知機能評価:MMSE、HDS-R、時計描画テスト
- 身体機能評価:MMT、ROM、TUGなどのバランステスト
- 社会参加評価:興味・関心チェックシート、生活歴のヒアリング
個別機能訓練プログラムの立案
評価結果に基づき、その人だけのオーダーメイドプログラムを作成します。
【プログラム立案のポイント】
単なる訓練ではなく、本人の「やりたいこと」「役割」に繋がる目標を設定することが、意欲を引き出す鍵です。
プログラム例:
- Aさん(軽度認知症):得意だった料理を活かし、調理活動を通じた認知機能訓練と役割獲得を目指す。
- Bさん(脳梗塞後遺症):趣味だった書道を目標に、左上肢の機能訓練と書字動作の再獲得を目指す。
- Cさん(パーキンソン病):手芸を楽しみながら巧緻性を向上させ、転倒予防訓練も並行して行う。
役割②:集団活動の企画・指導
多くのデイサービスで行われる体操やゲーム。OTが関わることで、これらは単なるレクリエーションから明確な目的を持つ「治療的活動」へと昇華します。
レクリエーションと治療的活動の違い
| 一般的なレクリエーション | OTが企画する集団活動 | |
|---|---|---|
| 目的 | 楽しい時間を過ごす、気分転換 | 特定の心身機能の向上、社会参加促進 |
| 効果 | 一時的な満足感、社交 | 継続的な機能改善、自信・意欲の向上 |
具体的な集団プログラム例
- ADL体操プログラム:「服の袖を通す動き」「ズボンを履くためのバランス」など、日常生活の動作を分解し、必要な動きを取り入れた体操。
- 認知機能訓練プログラム:計算やしりとりだけでなく、手工芸で手順を記憶したり、調理活動で段取りを考えたりと、より実践的な課題を提供する。
- 社会参加促進プログラム:利用者さんの過去の職業や趣味を活かした「先生役」をお願いしたり、地域行事の企画・参加を促したりする。
役割③:多職種連携と情報共有のハブ役
デイサービスはチーム戦です。OTは専門的視点を他職種と共有し、チーム全体の支援の質を高める「ハブ」の役割を担います。
💡 多職種連携における OT の役割
- 看護師との連携:身体状況を共有し、安全な活動内容やリスク管理について検討する。
- 介護福祉士との連携:食事や移乗など、日常ケアの場面で実践できるリハビリ的関わり(例:麻痺側からの声かけ、スプーンの持ち方の工夫)を具体的に指導する。
- 生活相談員との連携:評価結果を共有し、ケアプランへの反映や家族への情報提供をサポートする。
特に、家族やケアマネジャーへの情報提供は重要です。デイでの変化を具体的に伝えることで、在宅生活での支援にも繋がり、サービスの継続利用や目標の共有がスムーズになります。
【実践事例】QOL向上に繋がった3つのケース
実際の現場で、OTの介入がどのように利用者の生活を変えたのか、3つの事例をご紹介します。
事例1:料理を通じた認知機能維持と役割獲得
対象者:田中さん(仮名・80代女性・軽度認知症)
課題:「もう何もできない」と意欲が低下し、自宅での調理も家族任せに。
OTの介入:
- 得意だった料理に着目し、「野菜を洗う」といった単純作業から段階的にアプローチ。
- 最終的に、デイサービスの昼食準備で「料理長」という役割を担ってもらう。
3ヶ月後の変化:MMSEが2点改善。「みんなのために作る」という役割意識が芽生え、自宅でも簡単な調理を手伝うようになり、家族からも喜ばれた。
事例2:上肢機能訓練による書字動作の再獲得
対象者:佐藤さん(仮名・70代男性・脳梗塞後左片麻痺)
課題:利き手交換がうまくいかず、「趣味だった手紙が書けないのが辛い」と落胆。
OTの介入:
- 「お孫さんへ絵手紙を出す」という具体的で意欲的な目標を設定。
- 左上肢の機能訓練と並行し、太いペンや滑り止めマットなどの環境調整を実施。
4ヶ月後の変化:右手で簡単な文字が書けるようになり、月1回、孫に絵手紙を送る習慣が復活。デイでの活動が、生活の喜びに直結した。
事例3:転倒予防訓練による外出意欲の回復
対象者:鈴木さん(仮名・70代女性・変形性膝関節症、転倒歴あり)
課題:転倒への不安から外出を控え、引きこもりがちに。
OTの介入:
- 筋力・バランストレーニングに加え、杖の適切な使用方法を指導。
- 「まずはデイの玄関先まで」と段階的な外出練習で成功体験を積み重ね、心理的支援も行う。
3ヶ月後の変化:TUGが18秒→13秒に改善。シルバーカーを使い近所の散歩が可能になり、「友達と買い物に行きたい」と前向きな発言が増えた。
デイサービスOTの専門性を活かすための3つの視点
最後に、あなたの専門性を最大限に発揮するための3つの重要なポイントをお伝えします。
- 生活視点でのアセスメント:「握力20kg」という数値だけでなく、「この握力なら瓶の蓋が開けられるから調理に参加できる」というように、評価結果を常に生活場面に結びつけて考える。
- エビデンスに基づいた介入:初回・3ヶ月後・6ヶ月後と定期的に再評価を行い、変化を数値で示す。これが家族やケアマネへの説得力となり、機能訓練加算の根拠にもなる。
- チームを動かす協働:OT一人で頑張らない。定期的なカンファレンスや日常的な情報共有を通じて、チーム全体でリハビリの視点を持てるように働きかける。
まとめ:デイサービスOTは利用者の生活をデザインする専門家
デイサービスにおける作業療法士の役割は、機能訓練に留まりません。利用者の生活の質を高め、社会参加を促し、家族まで支える、包括的なアプローチが可能な唯一無二の存在です。
生活に密着した長期的な関わりの中で、あなたの専門性は必ずや利用者さん、そして地域社会全体の健康と福祉に貢献できるはずです。
あなたの臨床を次のステージへ
本記事で紹介した内容は、デイサービスにおける作業療法士の実践のほんの一部です。「評価から介入、家族支援、そして多職種連携」まで、より体系的に学び、明日からの臨床に自信を持って臨みたい方は、ぜひ療法士活性化委員会のセミナーをご検討ください。









