【作業療法士の専門性】デイサービスでの社会参加支援「3つの成功事例」と段階的アプローチ

【作業療法士の専門性】デイサービスでの社会参加支援「3つの成功事例」と段階的アプローチ

「デイサービスはリハビリだけの場ではない」──そう実感する瞬間があります。

閉じこもりがちだった方が、再び買い物や趣味活動に参加できるようになる。それは本人にとっても、家族にとっても大きな喜びです。

この記事では、実際の事例を通して、理学療法士・作業療法士がデイサービスでどのように社会参加を支えているのかをご紹介します。

この記事で分かること
  • ✓ 「社会参加」の定義と、高齢者がそれを失う要因
  • ✓ 閉じこもり男性が「囲碁クラブ」に復帰した事例
  • ✓ 認知症女性が「先生」としての役割を再獲得した事例
  • ✓ 脳梗塞後と介護疲れの夫婦が「共通の趣味」を再開した事例
  • ✓ 社会参加を支援するOT/PTの専門的な3ステップ(評価・介入・連携)

🤝 社会参加とは何か?~生きがいと役割の回復~

社会参加の定義と重要性

社会参加とは、単に「外出する」ことではありません。地域社会の一員として、自分なりの役割を持ち、他者との関わりの中で生きがいを感じることです。

社会参加の階層

  1. 基本的社会参加:近所への買い物、散歩
  2. 社会的役割の遂行:家庭内での役割、地域での活動
  3. 生きがい活動:趣味、ボランティア、学習活動
  4. 社会貢献:経験や技能を活かした地域への貢献

高齢者が社会参加を失う4つの要因

  • 身体的要因
    歩行困難、体力低下、視力・聴力低下による外出・情報収集の困難。
  • 心理的要因
    自信の喪失(「迷惑をかけるのでは」)、意欲の低下、転倒・失敗への不安。
  • 社会的要因
    役割の喪失(退職、死別)、人間関係の希薄化、社会環境の変化(デジタル化など)。
  • 経済的要因
    年金生活による活動費の制限、交通費の負担。

【成功事例1】閉じこもりから地域活動(囲碁)復帰へ(80代男性)

利用開始時の状況

  • 身体面:軽度の変形性膝関節症。歩行自立だが長距離は困難。
  • 心理・社会面:妻と2年前に死別し一人暮らし。「もう誰とも関わりたくない」と閉じこもり、趣味だった囲碁も「相手に迷惑をかける」と中断。
  • 認知面:MMSE 26点。認知機能に問題はないが、意欲・関心の著しい低下あり。

段階的アプローチ:評価→介入→成果

第1段階:信頼関係の構築(1-2ヶ月目)

  • 評価:生活歴の詳細な聴取(元教師であったこと)、興味・関心チェック、孤独感の評価。
  • 介入:デイサービスを「居場所」と感じてもらう。無理な活動は求めず見学から。スタッフとの1対1の会話を重視し、「先生」と呼び経験を尊重。
  • 成果:デイサービスへの拒否感が軽減。「先生」と呼ばれることに表情が明るくなる。

第2段階:小さな役割の提供(3-4ヶ月目)

  • 評価:他利用者との関わりへの意欲、得意分野(計算、文字)の評価。
  • 介入:「新聞の音読係」「集団レクの得点係」など軽い役割を依頼。囲碁の相手として若いスタッフが挑戦。
  • 成果:「自分にも役立つことがある」という実感。他利用者から「ありがとう」と言われる経験。「教える楽しさ」を再発見。

第3段階:地域活動への橋渡し(5-6ヶ月目)

  • 評価:外出意欲、自信の程度、地域活動への関心の確認。
  • 介入:公民館の囲碁クラブの情報提供。地域包括支援センターと連携。スタッフによる外出同行支援(見学)。
  • 成果:月2回の囲碁クラブ参加を開始。「後輩指導」という新たな役割を獲得し、生活にメリハリが生まれる。

山田さんの6ヶ月後の変化

  • 身体面の変化:
    • 握力:右18kg→22kg、左16kg→20kg(+4kg向上)
    • 歩行耐久性向上:連続歩行距離500m→1.2km
  • 心理・社会面の変化:
    • 「生きがい」という言葉を自分から使うように。
    • 近所の人との挨拶が復活。
    • 「囲碁を教えるのが楽しい」と積極的発言。
  • 家族(息子夫婦)の変化:
    • 「父が別人のように明るくなった」「父の話を聞くのが楽しみになった」と訪問回数が増加。

【成功事例2】認知症でも「先生」としての役割を(70代女性)

利用開始時の状況

  • 認知面:アルツハイマー型認知症(軽度)。MMSE 20点。短期記憶低下、軽度の見当識障害あり。
  • 身体面:基本的ADLは自立。
  • 心理・社会面:元保育士。認知症診断後、「もう何もできない」と自信喪失。近所の子どもとの関わりも避けるように。

段階的アプローチ

第1段階:得意分野の再発見(1-2ヶ月目)

  • 介入:保育士としての経験談を聞く。手遊び歌、童謡、折り紙など「手続き記憶」を活かした活動を実施。
  • 成果:表情が明るくなり、折り紙の手順を思い出し、他利用者に教える場面が見られる。

第2段階:デイサービス内での役割創出(3-4ヶ月目)

  • 介入:「保育コーナー」の担当者として任命。週1回の「昔の遊び教室」を開催。
  • 成果:「教室」を楽しみに通所。認知症の症状があっても、子どもとの関わり(手続き記憶)では能力を発揮。「先生」として尊敬される経験。

第3段階:地域との再接続(5-6ヶ月目)

  • 介入:地域の保育園との交流企画に参加。「おばあちゃん先生」として月1回の訪問。
  • 成果:保育園児から「花子先生」と慕われる。認知症があっても「必要とされる存在」として役割を持ち続ける。

佐藤さんの12ヶ月後の総合的変化

  • 認知面:
    • MMSE:20点→22点(2点向上)
    • 「教える」という行為が認知刺激となり、症状進行が抑制傾向。
  • 社会参加の質的変化:
    • デイサービス利用者 → 地域の保育園での「先生」へ
    • 受動的参加 → 能動的な貢献へ
    • 「介護される人」 → 「必要とされる人」へ
  • 家族・地域への影響:
    • 娘:「母が認知症になっても、こんなに輝けるとは思わなかった」
    • 地域:「佐藤さんがいてくれると、子どもたちが喜ぶ」

【成功事例3】夫婦での社会参加再開(80代夫婦)

利用開始時の複合的課題

  • 夫(一郎さん):脳梗塞後の軽度片麻痺。「妻に迷惑をかけたくない」と外出を避け、趣味の写真撮影を中断。
  • 妻(和子さん):夫の介護疲れ。「二人とも外に出なくなった」と友人との交流も減少。

夫婦同時利用による相乗効果

  • 個別アプローチ:
    • 夫:上肢機能訓練、歩行訓練、自信回復プログラム
    • 妻:介護者支援、リフレッシュ活動、社交的な関わり
  • 夫婦合同アプローチ:
    • デイサービス内での「夫婦活動」、お互いの良い変化を確認し合う機会を設定。

6ヶ月後の変化と地域参加

  • 夫の変化:
    • 片麻痺でも撮影できるカメラアダプター(自助具)を導入。
    • デイサービスの行事写真係として活動。
    • 地域の写真クラブに夫婦で参加開始。
  • 妻の変化:
    • 介護負担感が軽減。
    • 「二人で外出する楽しさ」を再発見。
  • 夫婦関係の変化:
    • 「介護する人・される人」ではなく「パートナー」として再認識。
    • 共通の趣味(写真)を通じた新たな絆が生まれる。

【OT/PTの専門性】社会参加支援 3つの介入ステップ

これらの事例は、理学療法士・作業療法士の専門的な介入によって支えられています。

ステップ1:包括的評価による可能性の発見

  • 興味・関心の評価:
    「興味・関心チェックシート」を活用し、過去・現在・未来の関心事を整理。「過去に熱中していた活動」や「人との関わり方の好み」は、介入の最大のヒントになります。
  • 阻害要因の分析:
    身体的要因(移動能力)、認知的要因(記憶、判断力)、心理的要因(自信、意欲)、環境的要因(交通手段、家族の理解)を多角的に分析します。

ステップ2:段階的な社会参加プログラム

  1. デイサービス内での役割創出
    例:受付のお迎え係、食事準備、レクの司会など、安全な環境で「小さな成功体験」を積みます。
  2. デイサービスを拠点とした外部活動
    例:買い物同行支援、近隣公園への散歩・体操、地域イベントへの参加。
  3. 独立した地域活動への参加
    例:趣味サークルへの参加、ボランティア活動、生涯学習講座の受講。

ステップ3:多職種連携による継続支援

  • ケアマネジャーとの連携:
    社会参加の状況と課題を共有し、ケアプランに反映。通所回数の調整や、他サービス(移動支援など)の導入を検討します。
  • 地域包括支援センターとの連携:
    高齢者向けサークル、ボランティア募集情報など、「地域資源」の情報を共有し、橋渡し役となります。

社会参加支援を成功させる3つの鍵

    1. 本人の「やりたい気持ち」を最優先
      「運動が必要だから」と活動を押し付けるのではなく、「昔、どんなことが楽しかったですか?」と本人の語りから真の関心事を発見し、それに関連した活動を提案します。
    2. 小さな成功体験の積み重ね
      いきなり高い目標を設定せず、デイサービス内での撮影→近隣での撮影→写真展示→写真クラブ入会など、段階的に目標を設定し、自信を育みます。
    3. 周囲(家族・地域)の理解と協力
      家族へ社会参加の意義を説明し、失敗を恐れず挑戦する価値を共有します。また、地域の受け入れ側の不安を軽減し、互いにメリットのある関係を築きます。

社会参加がもたらす「3方面への効果」

1. 本人への効果(身体・心理・認知)

      • 身体的効果:外出頻度の増加による歩行量増加、体力・筋力の維持向上。(事例1では1日平均歩数が1,200歩→4,800歩に増加)
      • 心理的効果:「自分にもできる」「他者から感謝される」という自己効力感の向上、うつ気分の軽減、生きがいの再発見。
      • 認知的効果:新しい環境や人との関わりによる認知刺激、注意・記憶機能の活用。

2. 家族への効果(介護負担軽減・関係改善)

      • 介護負担の軽減:本人の自立度向上による物理的介助量の減少、外出による家族のレスパイト(休息)時間確保、心理的安心感の回復。
      • 家族関係の改善:本人からの積極的な報告・相談が増え、共通の話題が増加。「介護」の関係から「家族」の関係へ。

3. 地域社会への効果(活性化・共生)

      • 地域コミュニティの活性化:高齢者の知識・経験が、若い世代への技術伝承や地域行事の担い手として活かされます。
      • 共生社会の実現:「支援される人」から「共に生きる人」へ認識が変化し、インクルーシブな地域社会が構築されます。

まとめ:一人ひとりの可能性を信じる支援

デイサービスにおける社会参加支援は、利用者の人生に新たな章を加える支援です。年齢や疾患、障害があっても、その人なりの方法で社会とつながり、役割を持ち続けることは可能です。

成功のための重要なポイント

      1. 個別性の尊重:その人の生活歴、価値観、興味関心を深く理解する。
      2. 段階的なアプローチ:小さな成功体験から積み重ね、本人のペースに合わせる。
      3. 多方面からの支援:身体・認知・心理・環境からの包括的アプローチ。
      4. 長期的な視点:一時的な改善ではなく、持続可能な社会参加を目指す。

作業療法士・理学療法士として私たちが大切にしたいのは、目の前の利用者の中に秘められた可能性を信じることです。「もう年だから」「認知症だから」と諦めるのではなく、その人らしい方法での社会参加を一緒に見つけていく。そんな支援を通じて、利用者、家族、地域社会全体が豊かになっていくのです。

「現場の悩みを、実践知に変える」

デイサービスで感じる小さな悩みや「もっとこうしたい」という思いは、全国の療法士・介護職・看護職が同じように抱えています。

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