肩外転の前方滑りをどう止める?関節包内運動と凸凹の法則を「順序」で整える臨床思考

「肩の可動は出したはずなのに、外転で前方につっかえる感じが残る…」
「徒手で軽くなっても、日常のリーチや更衣にうまく転移しない…」

臨床で、こんな経験はありませんか?

この記事では、関節包内運動(ロール/スライド/スピン)凸凹の法則を、“順序”で再現する手順に落とし込みます。
特に肩外転で起こりやすい「上腕骨頭の前滑り」を例に、胸郭→肩甲帯→上腕骨の順で整える具体策を提示します。

専門用語は最小限に、明日から患者さんへそのまま伝えられる言葉で臨床に落とし込みましょう。

この記事でわかること
  • ロール・スライド・スピン/凸凹の法則の“臨床的な意味”
  • 「包内→骨運動→動作」の順序アルゴリズム
  • 肩外転で前滑りを止める3つの実践ポイント
  • 評価→介入→再評価(同条件30秒ルール)の回し方
  • ケーススタディ:外転60–90°でのつっかえ・疼痛の改善
  • 明日から使える60秒臨床スキルトレーニング

この記事のゴール:
“包内→骨運動→動作”の順序をそろえ、肩外転での前滑りを抑えて日常動作へ転移させること。

✅ 凸凹の法則を手の当て方・方向に直結できる。
✅ 前滑り(前方化)を、胸郭・肩甲帯・上腕骨の順で再配列して減らせる。
✅ Before/Afterを同一タスク・同一条件で記録し、再現性を担保できる。

1. 関節包内運動とは何か

関節の動きには大きく分けて2種類あります。

  • 骨運動(Osteokinematics):骨全体の動き(例:屈曲・伸展・外転・内転など)
  • 関節包内運動(Arthrokinematics):関節面同士の微細な動き(ロール・スライド・スピン)

骨運動は“目で見える動き”、関節包内運動は“触ってわかる動き”です。
骨運動だけを整えても、包内運動が通っていなければ動作はぎこちなくなります。

この2つを「どちらを先に整えるか」という順序で扱うことが、動作の再現性を高める鍵になります。

2. ロール・スライド・スピンの基礎

  • ロール(Roll):骨頭が関節窩の縁に向かって“転がる”動き。
    骨運動と同じ方向に起こります。
  • スライド(Slide):骨頭が関節窩に沿って“滑る”動き。
    関節面の形(凸凹)によって方向が決まります。
  • スピン(Spin):骨頭がその場で“回る”動き。
    回旋成分を担います。

これら3つは常に同時に起こっていますが、どの成分が優位かによって、関節の安定性や疼痛の有無が変わります。

ロール+スライド+スピンのバランスが崩れると、滑りの方向が狂い、関節が前方化・上方化しやすくなる。

3. 凸凹の法則:包内運動の方向を決めるルール

ロールとスライドの方向関係は、関節面の形によって変わります。

動く関節面ロールとスライドの方向
凸面(Convex)骨運動と逆方向上腕骨頭が関節窩に対して動く(肩関節)
凹面(Concave)骨運動と同方向脛骨が大腿骨に対して動く(膝関節)

肩外転(凸=上腕骨頭、凹=関節窩)では、骨運動=外転(ロール上方)に対して、包内スライド=下方(+わずかに後方)が必要になります。

この「下方+後方滑り」が不足すると、骨頭が前上方へずれてインピンジメント様の症状を引き起こしやすくなります。

4. 臨床翻訳:「包内→骨運動→動作」の順序で整える

① 包内(滑り)を通す → ② 骨運動(関節角)を作る → ③ 動作(タスク)へ転移
この順序で介入すると、効きが安定し、戻りが減ります。

4-1. 評価(まず“包内の通り”を疑う)

  • 観察:胸郭の前後・左右拡張、肩甲帯の上方回旋・後傾の出遅れ。
  • 触診:肩甲下角の滑走、鎖骨の後方回旋の手応え、GH後下方のタイトネス。
  • スクリーン:外転60–90°で前面のつっかえ/疼痛。軽い後下方モビで症状が和らぐか。

4-2. 介入(包内→骨運動→動作)

  1. 包内:GH後下方の滑りを通す
    痛みゼロ域で後下方グライド(Ⅱ–Ⅲ)を30〜45秒。「骨頭を“ポケットに入れる”」イメージで、抵抗の減少を確認します。
  2. 骨運動:肩甲帯の後傾・上方回旋を先行
    肩甲下角を外上方へ、鎖骨を軽後方回旋へ誘導。
    同時に背側呼吸(背中に空気)を促して、土台となる胸郭の支持性を高めます。
  3. 動作:外転タスクへ転移
    壁スライドや棒・スライダーを用いて、ST→GHの順を保ったまま外転を反復します。
    親指を上、肘窩を前上方に向ける外旋バイアスを追加すると、包内の滑りが整いやすくなります。

5. 肩外転の前滑りを止める3つの実践ポイント

5-1. 胸郭の“背側拡張”を先に作る

  • 胸郭が前側優位だと、肩甲帯の後傾・上方回旋が出遅れ、結果としてGHの前方化が起こりやすくなります。
  • 背側呼吸(「背中に空気を入れる」)を誘導し、肩甲帯が動きやすい土台を作ります。

5-2. 肩甲帯(ST)の順序:上方回旋→後傾→内外旋の微調整

  • 肩甲下角を外上方に滑走させ、鎖骨の後方回旋を促すことで、GHの必要滑りが通りやすくなります。

5-3. GHの包内:後下方グライド+軽度外旋バイアス

  • 外転に伴うロール上方に対し、スライド下方+わずかに後方を手で誘導することで、前滑りを抑制します。
  • 自動運動に移る際は、外旋バイアスをキュー(例:「肘窩を少し上向きに」)。

6. 評価 → 介入 → 再評価(同条件30秒ルール)

6-1. 評価(45秒)

  1. 外転タスクを側面・斜め前から3秒ほど動画撮影。
  2. 痛みNRS痛み出現角、代償(胸郭前突/肩甲帯の出遅れ/肩のすくみ等)をメモします。

6-2. 介入(2〜3分)

  1. 背側呼吸誘導(仰臥位 or 壁立位)
    背部に手掌を当て、「ここに息を送ってみましょう」とキューします。
  2. ST促通(下角を外上方、鎖骨を軽後方回旋
    強く押さず、皮膚〜軟部組織ごと“そっと運ぶ”程度の力で行います。
  3. GH後下方モビ(Ⅱ–Ⅲ、30〜45秒、痛みゼロ域)
    骨頭の前上方の突っ張り感が和らぐまで、ゆっくりと滑りを誘導します。
  4. 外転再学習(壁スライド)
    親指を上、肘窩を前上方にし、ゆっくりと外転。
    「肩甲骨が先、腕があとからついてくる」イメージで誘導します。

6-3. 再評価(30秒)

  • 同じ手位置・速度・視線で外転を3回実施。
  • 目安:痛み出現角+20〜30°、NRS -2以上、映像で代償の減少が確認できれば「成功」です。

7. ケーススタディ:外転60–90°での前面のつっかえ

対象:50代女性。外転60–90°で前面にひっかかり感、安静時痛なし。

観察:胸郭が前側優位。肩甲帯の上方回旋が出遅れ。
触診:肩甲下角の滑走不良、GH後下方のタイトネス。
スクリーン:軽い後下方グライドを加えると、痛みとつっかえ感が軽減。

介入(各30–60秒)

  1. 背側呼吸誘導(仰臥位、背部に手掌接触)
    吸気で背中側が広がる感覚を共有します。
  2. ST促通(下角を外上方、鎖骨を軽く後方回旋)
  3. GH後下方モビ(Ⅱ–Ⅲ、痛みゼロ域で30秒)
  4. 壁スライド再学習(親指上・肘窩前上。外旋バイアスを維持)

結果:
外転痛み出現角 70°→100°、NRS 5→2。
本人のコメント:「詰まる感じがだいぶ減って、上げやすい」。

宿題:

  • 壁スライド 10回×2セット/日(背側呼吸とセット)
  • 仰臥位での背側呼吸練習 5呼吸×2セット/日

8. よくある失敗と対処法

よくあるパターン対応策
いきなり外転の“形”だけ矯正してしまう胸郭→ST→GHの順を守る。まず背側拡張で土台づくりを行う。
モビ後にそのまま終了してしまう外転の再学習(壁スライド)で運動パターンを固定化。外旋バイアスを必ずキューする。
再評価が別条件(角度・速度・視線が違う)同じ手位置・速度・視線で撮影・評価。数値+映像で保存する。

9. 明日からの60秒トレーニング

  1. 背側呼吸20秒:仰臥位で手掌を背部に当て、「ここに息を送ってみましょう」と誘導。
  2. 下角誘導20秒:座位または立位で、肩甲下角を外上方に“そっと”滑らせる。
  3. 壁スライド20秒:親指上・肘窩前上(外旋バイアス)で、ゆっくりと肩外転。

【まとめ】関節包内運動を整えると“動きの質”が変わる

関節包内運動(ロール・スライド・スピン)は、単なる運動学の知識ではなく、痛みを減らし・動作を滑らかにするための“臨床操作”そのものです。

特に肩関節・股関節のような球関節では、包内運動のわずかなズレが「前方化」「上方化」「引っかかり感」「詰まり感」「代償運動」を引き起こしやすく、
その多くは滑りの方向(スライド)と肩甲帯・胸郭の協調で改善できます。

✔ 本日のまとめポイント

  • 包内運動は“骨運動の前提条件”。滑りが整えば、骨運動は自然に広がる。
  • 凸凹の法則でスライド方向を判断(凸→逆方向/凹→同方向)。
  • 「包内 → 骨運動 → 動作」の順番で介入すると、再現性が高まる。
  • 肩外転のつっかえ感は、ほぼ例外なく前上方滑り+胸郭前方化が背景にある。
  • 背側呼吸・肩甲帯後傾・GH後下方グライドの3点セットで改善を引き出す。
  • 動作学習には外旋バイアス(親指上・肘窩前上)が最も効果的。

✔ 明日から使える判断基準

  • 外転60〜90°で前方痛 → GH後下方スライド不足
  • 挙上初期から僧帽筋代償 → 肩甲帯の後傾不足
  • 上がるけど重い/詰まる → 胸郭背側の支持不足
  • 徒手で上がるのに動作で再現しない → ST→GH順序の学習不足

よくある質問(Q&A)

Q1. 凸凹の法則は“絶対”ですか?
A. 包内運動の基本原理として有効ですが、実際の動作はロール・スライド・スピンの合成で起こり、肩甲帯や胸郭の影響を強く受けます。したがって胸郭→ST→GHの順序で全体を整えた上で適用すると、より安定した効果が得られます。

Q2. モビライゼーションの強さはどのくらい?
A. 原則は痛みゼロ域・低〜中等度(Ⅱ〜Ⅲ)で30〜45秒。都度即時再評価し、変化が出る最小量に留めます。


あなたの臨床を次のステージへ導く
「統合的神経認知運動療法®︎(INCETコンセプト)」とは?

ICFとBPSモデルを基盤に、「身体・脳・環境」の相互作用を統合的に捉える臨床思考フレームワークです。
HOPE(患者様のなりたい姿)から逆算し、構造・神経・環境・発達・心理認知を統合。徒手から認知行動アプローチまでを最適配合して、回復力と行動変容を引き出します。

この思考法は、新人からベテランまで、誰もが明日からの臨床をアップデートできる実践的なツールです。アプローチの引き出しを増やし、他の療法士と差をつけたい先生は、ぜひ詳細をご確認ください。


関連記事:
この記事の基礎となる「触診」のスキルを学びたい方は、こちらの記事もおすすめです。

→ 【PT/OT向け】臨床で役立つ触診の基本と練習法

【触診が苦手な方限定】6日で学ぶ評価・アプローチのための触診セミナーBASICコース

免責事項

本記事は理学療法士・作業療法士の学習を目的とした教育コンテンツです。
個別の診断・治療行為を代替するものではありません。
実施は必ず痛みゼロの範囲で、同意のもと行ってください。

多くの受講生が選ぶ療活一番人気のセミナー 6日で学ぶ評価・アプローチのための触診セミナー”信頼される療法士”の土台を作る

受付中講習会一覧