パーキンソン病のすくみ足対策|トイレ動作を変える「視覚・聴覚」アプローチ

パーキンソン病のすくみ足対策|トイレ動作を変える「視覚・聴覚」アプローチ

この記事の要点(3行まとめ)

  • すくみ足対策には「視覚的手がかり(床のライン)」と「聴覚的手がかり(リズム)」が有効。ただしテンポ設定は慎重に。
  • トイレの環境調整(動線・照明・手すり位置)と、薬効のOn/Offに合わせた「移動しない選択肢」も重要。
  • すくみ発生時は「焦らせない・引っ張らない」が鉄則。家族には具体的な「解除テクニック」を共有しよう。

皆さんこんにちは。作業療法士の内山です。今回は、パーキンソン病の方のトイレ動作、特にすくみ足への対策に焦点を当てて考えていきたいと思います。よろしくお願いします。

パーキンソン病とすくみ足のメカニズムを理解する

パーキンソン病は、脳内のドーパミンという神経伝達物質が減少することで、運動機能に様々な障害が現れる神経変性疾患です。代表的な症状として、振戦(ふるえ)、筋強剛(筋肉のこわばり)、動作緩慢、姿勢反射障害などがあります。

その中でも、トイレ動作に大きな影響を与えるのが「すくみ足」です。

すくみ足とは、歩き始めや方向転換の際に、足が地面に貼りついたように動かなくなる現象です。本人は歩こうとしているのに、足が前に出ない。この状態は、トイレに間に合わないという切迫感をさらに強め、焦りによってすくみがさらに悪化するという悪循環を生み出します。

すくみ足が起こりやすい3つの場面

すくみ足が起こりやすい場面は、主に以下の3つです。

  • Start hesitation(スタート時のためらい)
    立位から歩行を開始しようとする瞬間に、最初の一歩が出なくなります。
  • Turning hesitation(ターン時のためらい)
    トイレのドアを開けて中に入る時、便器の前で向きを変える時など、方向を変えようとする瞬間に起こります。
  • Narrow space hesitation(狭い空間でのためらい)
    トイレのドア、便器と壁の間など、狭い空間を通過しようとする時に生じます。

これらのすくみ足は、大脳基底核の機能障害により、運動の開始や切り替えに必要な神経回路がうまく働かないことが原因と考えられています。また、視覚情報や注意の分配にも問題が生じ、複雑な動作が困難になります。

トイレ動作は、立ち上がる、歩く、方向を変える、ズボンを下ろす、便座に座る、という複数の動作の連続です。パーキンソン病の方にとって、この一連の動作はまさにすくみ足が起こりやすい状況の連続なのです。

視覚的手がかりを活用した歩行訓練

すくみ足への対策として最も効果的なのが、視覚的手がかり(visual cue)の活用です。

パーキンソン病の方は、自動的な運動制御は困難ですが、視覚情報に導かれた意識的な運動は比較的保たれています。この特性を活かすことで、すくみ足を軽減することができます。

実践ポイント:床のライン

床に貼ったテープやラインを目印にして歩く方法が、最も基本的な視覚的手がかりです。
内山のデイサービスでは、トイレまでの通路の床に、「本人がまたぎやすい、普段より少しだけ広めの歩幅」の間隔(目安:40〜60cm)でテープを貼っています。この線を跨ぐように歩くことで、歩幅が広がり、すくみ足が起こりにくくなります。

【事例】70代男性・パーキンソン病の方へのアプローチ

この方は、部屋からトイレまでの約10メートルの距離を移動する際に、必ず2〜3回すくみ足が起こり、5分以上かかっていました。特にトイレのドアの前でのすくみが顕著で、「行きたいのに行けない」という焦りから、失禁してしまうこともありました。

行った対策と結果:

  • 部屋からトイレまでの動線に沿って、床に白いテープを貼付(床の色とコントラストをつけて視認しやすく)。
  • 最初は「線を見ながら歩く」意識付けが必要でしたが、練習により自然と跨げるように変化。
  • 2週間後には、移動時間が5分から2分程度に短縮。すくみ足の回数も減り、ドア前でのすくみもほぼなくなりました。

本人からは「線があると足が出やすい」「安心してトイレに行ける」という言葉をいただきました。

ただし、視覚的手がかりには注意点もあります。あまりに多くの線を引くと、かえって混乱を招くことがあります。また、レーザーポインターで足元に光の線を投影する方法も有効です。これは外出時にも活用できます。

聴覚的手がかりとリズム訓練の活用

視覚的手がかりと並んで効果的なのが、聴覚的手がかり(auditory cue)とリズム訓練です。メトロノームのリズムや音楽に合わせて歩くことで、すくみ足を軽減できることが分かっています。

メトロノームを活用した訓練法

以前は「速いテンポ」が推奨されることもありましたが、すくみ足対策としては、まず利用者さんの「快適なペース(Personal Tempo)」を測定し、そのテンポに合わせてメトロノームを設定します。

まずは「リズムに同調して歩く」感覚をつかみ、慣れてきたら徐々にテンポを整えていく方が、焦りによる転倒リスクを減らせて安全です。

【事例】60代女性・パーキンソン病の方へのアプローチ

通常の歩行ペースが1分間に80歩程度の方に対し、スマホアプリでメトロノームを同程度のテンポに設定し、「カチ、カチ」というリズムに合わせて歩く練習を行いました。

最初は音に合わせるのに必死でしたが、2週間ほどで自然とリズムに乗れるようになり、すくみ足の頻度も減少。「音があると足が勝手に出る感じがする」とおっしゃっていました。

その他にも、以下のような方法が有効です。

  • 音楽療法:行進曲のようなはっきりとしたリズムの音楽を利用する。
  • 声かけ:「いち、に、いち、に」と声を出しながら歩く(自己生成リズム)。

注意の集中とデュアルタスクへの対応

パーキンソン病の方は、複数の動作を同時に行う「デュアルタスク(二重課題)」が苦手です。トイレに向かう時は、「歩くこと」だけに集中できる環境を作ることが重要です。

ここが重要!

移動中に話しかけたり、物を持たせたりすることは避けましょう。「急いで」という声かけも、焦りを生み注意を分散させるためNGです。

80代女性の事例では、家族に「急がせずに、ゆっくりでいいので確実に歩けるよう見守ってください」とお願いしたことで改善が見られました。
また、「今から歩きます」「ドアを開けます」と動作を事前に言葉にすることも、脳の準備を促すため有効です。

環境調整と動線の工夫

物理的な環境を整えることで、すくみ足が起こりにくい状況を作ることができます。以下のポイントをチェックしてみてください。

  • 動線の単純化
    障害物を取り除き、まっすぐ歩ける経路を確保します。曲がり角が多いと方向転換ですくみやすくなります。
  • ドアの種類
    可能であれば引き戸がお勧めです。開き戸は「ドアを開けながら入る」という複合動作が必要になり、すくみの原因になります。
  • トイレ内のスペース
    便器と壁が近すぎると「狭い空間」と認識されすくみやすくなります。十分なスペースを確保しましょう。
  • 手すりの位置と使い方(注意点)
    縦手すりは安心感につながりますが、すくんだ際に手すりを強く手前に引っ張ると、後方へバランスを崩し(突進現象)、転倒するリスクがあります。「手すりは引っ張らず、軽く支える」よう指導することも大切です。
  • 照明と床材
    暗いと視覚情報が不足します。明るい照明(自動点灯がベター)にし、床材は反射の少ないマットな質感のものを選びます。

薬の効果時間を考慮したトイレ誘導

パーキンソン病の治療薬(レボドパ等)には、効果が現れている「オン」と、切れている「オフ」の時間があります。

  • オンの時間帯:動作がスムーズで、すくみ足も軽減される。
  • オフの時間帯:すくみ足が顕著になり、動作に時間がかかる。

オフの時間帯ですくみが強く、どうしてもトイレ移動が困難な場合は、ポータブルトイレや尿瓶の使用など、「移動しない」環境設定も転倒予防の観点からは重要です。無理な移動は避け、安全第一で選択肢を提案しましょう。

すくみ足が起こった時の即時対応法

どれだけ予防しても、すくみ足が起こってしまうことはあります。その際、現場でどう対応するかが重要です。

すくんでしまった時の「解除」テクニック

  • まずは深呼吸:焦りは禁物です。一度リラックスさせます。
  • 視覚的手がかりの提供:杖や傘、または介助者の足を出し「これを跨いでください」と指示します。
  • 具体的な声かけ:「大きく一歩」「膝を高く上げて」とイメージを伝えます。
  • 重心移動:その場で体を左右に揺らし、リズムを取り戻させます。

80代女性の事例では、職員が足を前に出し「この足を跨いで」と促すことで、30秒以内にすくみが解除されるようになりました。

家族・介護者への指導のポイント

家族の善意が、かえってすくみ足を悪化させてしまうことがあります。以下の3点を家族・介護者に伝え、理解していただくことが重要です。

  1. 急がせない
    「早く行かないと」という焦りはすくみを悪化させます。時間に余裕を持ちましょう。
  2. 手を引っ張らない
    すくんだ時に手を引くと、バランスを崩して転倒する危険があります。腕を支える程度のサポートに留めます。
  3. 見守る勇気を持つ
    できることは自分でやっていただき、必要な時だけ介入する距離感が自立を促します。

まとめ

  • 視覚・聴覚の活用:床のラインやリズム刺激を組み合わせることが効果的。
  • 環境とタイミング:動線をシンプルにし、薬の「オン」の時間に合わせて誘導する。
  • 現場での対応:すくんだら焦らず視覚的手がかりを。家族には「急がせない・引っ張らない・見守る」を指導する。

 

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