こんにちは、理学療法士の内川です。
本日のテーマは、臨床で非常に重要な「長腓骨筋・短腓骨筋」です。
臨床でこんな疑問を感じたことはありませんか?
- 「足関節捻挫を繰り返す患者さん、原因はどこにあるんだろう?」
- 「立位バランスや歩行に影響する腓骨筋の具体的な役割って?」
- 「長腓骨筋と短腓骨筋って、どう評価してアプローチを使い分けるの?」
これらの疑問を解決する鍵は、腓骨筋の正確な理解にあります。
腓骨筋は、足関節の安定性や足部アーチの保持に不可欠な筋肉です。歩行やスポーツ動作はもちろん、足関節捻挫のような外傷とも深く関わっています。
この記事を読めば、腓骨筋の機能解剖から評価、そして臨床でのアプローチまで、一貫して理解を深めることができます。まずは基本となる解剖から一緒に確認していきましょう!
目次
1. 長腓骨筋・短腓骨筋の機能解剖と作用
まずは、長腓骨筋と短腓骨筋の基本的な情報を整理しましょう。
長腓骨筋 (Peroneus Longus)

起始 | 脛骨外側顆、腓骨頭、腓骨外側面 |
停止 | 内側楔状骨、第1中足骨底 |
作用 | 足関節の外反、底屈 |
神経支配 | 浅腓骨神経 (L5-S1) |
短腓骨筋 (Peroneus Brevis)

起始 | 腓骨外側面 |
停止 | 第5中足骨粗面 |
作用 | 足関節の外反、底屈 |
神経支配 | 浅腓骨神経 (L5-S1) |
【ポイント】
外果の後方では、短腓骨筋腱が長腓骨筋腱の前方に位置します。これら2つの筋肉は「外側筋群」として協調して働き、足部の外反動作や立位バランスの保持、そして内反捻挫の予防に極めて重要な役割を果たします。
2. ここが違う!長腓骨筋と短腓骨筋の特徴
同じ腓骨筋でも、走行や役割には明確な違いがあります。
- 長腓骨筋の特徴
- 腓骨上部から始まり、足底を斜めに横断して内側楔状骨や第1中足骨底に停止します。この走行により、足部の横アーチを吊り上げて保持する重要な役割を担います。具体的には、内側縦アーチを構成する内側楔状骨・舟状骨や、外側縦アーチを構成する立方骨の挙上に関与します。
- 短腓骨筋の特徴
- 腓骨中部から起こり、第5中足骨の外側に直接付着します。そのため、長腓骨筋よりもダイレクトに足関節の外反をコントロールします。内反捻挫の際に最も損傷を受けやすい筋肉の一つです。
3. 明日から使える!腓骨筋の評価方法(触診・MMT)
正確なアプローチのためには、正確な評価が欠かせません。ここでは触診とMMTの方法を解説します。
3.1. 触診方法
長腓骨筋の触診


腓骨頭のすぐ下を目印に、腓骨の外側面に沿って筋腹を触知します。被験者に足関節を外反+底屈してもらうと、筋収縮を明瞭に確認できます。
短腓骨筋の触診

腓骨中部から第5中足骨粗面にかけて走行する腱を触知します。特に外果後方で明瞭に触れることができます。足関節を内転位から中間位へ外転させる動きで収縮を確認します(長腓骨筋の影響を最小限にするため)。
3.2. 徒手筋力検査(MMT):足関節底屈+外返し
段階5, 4, 3, 2 の手順
- 測定肢位: 足関節中間位で座位をとる。
- 動作: 被験者に足関節の「底屈と外返し」を行ってもらう (これで段階3の評価)。
- 抵抗: 検者は一方の手で踵骨部を固定し、もう一方の手で足背外側(第1・第5中足骨あたり)に内反・背屈方向へ抵抗を加える。
【判定基準】
- 段階5 (Normal): 最大抵抗に抗して最終可動域を保持できる。
- 段階4 (Good): 中等度〜強度の抵抗に抗して保持できる。
- 段階3 (Fair): 抵抗がなければ全可動域を動かせる。
- 段階2 (Poor): 重力の影響を除けば、可動域の一部を動かせる。


段階1, 0 の手順
- 測定肢位: 座位または背臥位。
- 触知: 検者は腓骨頭の下で長腓骨筋、外果と第5中足骨の間で短腓骨筋腱を触知する。
- 動作: 被験者に底屈と外返しを行うよう指示する。
【判定基準】
- 段階1 (Trace): 筋の収縮または腱の緊張が触知できる。
- 段階0 (Zero): 筋収縮が全く触知できない。

4. 腓骨筋への臨床アプローチ
評価で見つかった機能不全に対して、具体的なアプローチを行いましょう。
1. 筋膜リリース
過緊張状態にある腓骨筋をリリースします。触診と同じ要領で長腓骨筋や短腓骨筋の硬結部を捉え、ゆっくりと圧をかけながら、被験者に深呼吸を3〜5回繰り返してもらいます。呼気に合わせて筋が弛緩するのを感じましょう。
2. セラバンド外反トレーニング
筋力低下が見られる場合に有効です。
- 椅子に座り、足部にセラバンドを引っかけ、内側から外側へ抵抗がかかるようにセットします。
- 膝が内外に動かないように固定したまま、ゆっくりと足部を外反させます。
- コントロールしながらゆっくりと元の位置に戻します。
注意点:代償動作を防ぐため、膝の位置と足指の過剰な屈曲に注意してください。
3. 内股カーフレイズ
立位での腓骨筋の活動を促通します。


立位でつま先をやや内に向け、母趾球で地面を押すことを意識しながら踵(かかと)を高く持ち上げます。この運動は、腓骨筋と後脛骨筋の協調性を高める効果も期待できます。
5. 腓骨筋の機能低下がもたらす影響
腓骨筋の機能が低下すると、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
- 足関節内反捻挫の再発リスク増大: 特に短腓骨筋の反応遅延は、不安定性を増大させ再発の大きな要因となります。
- 外側動揺性の増大: 歩行やランニング時の接地期に足部が不安定になり、バランスを崩しやすくなります。
- 中足部痛やアーチの低下: 長腓骨筋の機能低下は横アーチの崩れを招き、前足部へのメカニカルストレスを増大させます。
- 外反母趾のリスク増大: 長腓骨筋は、母趾を内側に引っ張る前脛骨筋の作用に拮抗し、第1中足骨を安定させる役割があります。この機能が低下すると外反母趾を助長する一因となり得ます。
6. 臨床ちょこっとメモ
- 内反捻挫後のリハビリでは、痛みや腫れが引いた後の腓骨筋の反応速度と筋力強化が再発予防の鍵となります。
- 内反捻挫の受傷機転では、短腓骨筋腱が強く牽引されることで第5中足骨粗面剥離骨折(下駄骨折)を伴うケースがあるため、圧痛の確認は必須です。
7. まとめ
今回は長腓骨筋と短腓骨筋について、解剖から臨床応用までを解説しました。重要なポイントを以下にまとめます。
【機能解剖】
- 長腓骨筋: 足底を横断し、横アーチを保持する重要な役割。
- 短腓骨筋: 第5中足骨に停止し、より直接的に外反をコントロール。内反捻挫で損傷しやすい。
- 共通して足関節の外反・底屈に作用し、浅腓骨神経に支配される。
【評価】
- 触診: 走行をイメージし、特定の運動(長腓骨筋は外反+底屈、短腓骨筋は外転)で収縮を確認する。
- MMT: 底屈+外返しの複合運動で評価する。抵抗のかけ方と固定が重要。
【臨床的意義】
- 機能低下は内反捻挫の再発、足部アーチの低下、外反母趾など多くの問題に繋がる。
- 特に内反捻挫後のリハビリでは、腓骨筋の機能回復が不可欠。
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今回解説した内容は、腓骨筋単体の知識です。しかし、実際の臨床では周囲の筋や関節、神経との関連性を三次元的にイメージする能力が求められます。
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