こんなお悩みありませんか?
- 「巻き肩の患者さんに、どの筋肉をアプローチすべきか分からない…」
- 「肩甲骨の内側に張り感を訴える人が多いけど、評価に自信がない…」
- 「僧帽筋とどう違うの? 菱形筋の触診って難しくない?」
こんにちは、理学療法士の内川です。新人の頃、私自身もこうした疑問にぶつかっていました。
菱形筋は、巻き肩や猫背、肩甲骨の不安定性を訴える方のリハビリにおいて、アプローチに欠かせない重要な筋肉です。この記事を読めば、菱形筋の評価からアプローチまで、自信を持って実践できるようになります。
この記事でわかること
- 菱形筋の解剖学的な特徴と機能
- 機能低下が引き起こす臨床的な問題点
- 明日から使える触診・MMTの具体的な手順
- 効果的なリリースと筋力強化エクササイズ
1. 菱形筋の解剖と作用
菱形筋は、僧帽筋の深層に位置し、肩甲骨の安定化に重要な役割を果たします。大菱形筋と小菱形筋の2つから構成されます。

(菱形筋は僧帽筋の深層に位置する)
1-1. 小菱形筋
- 起始:第6〜第7頸椎の棘突起
- 停止:肩甲骨内側縁
- 支配神経:肩甲背神経(C5)
- 作用:肩甲骨の内転・下方回旋・軽度の挙上
1-2. 大菱形筋
- 起始:第1〜第4胸椎の棘突起
- 停止:肩甲骨内側縁
- 支配神経:肩甲背神経(C5)
- 作用:肩甲骨の内転・下方回旋・軽度の挙上
2. 菱形筋の評価
正確なアプローチのためには、まずは的確な評価が不可欠です。ここでは「触診」と「MMT」の2つの方法を解説します。
2-1. 触診
菱形筋の触診は、以下のステップで進めます。

- 肩甲棘から内側へたどり、肩甲骨の内側縁を触知します。
- 第6頸椎〜第4胸椎の棘突起をおおよそ確認します。
- 患者に結帯動作(背中に手を回す動き)を行ってもらい、肩甲骨内側縁と胸椎棘突起の間で筋の収縮を確認します。
ポイント
作用が同じであるため、小菱形筋と大菱形筋を厳密に触り分けるのは困難です。起始部の高さ(頸椎レベルか胸椎レベルか)で大まかに位置を判断しましょう。
作用が同じであるため、小菱形筋と大菱形筋を厳密に触り分けるのは困難です。起始部の高さ(頸椎レベルか胸椎レベルか)で大まかに位置を判断しましょう。
2-2. MMT(徒手筋力テスト)
ここでは、肩甲骨の内転と下方回旋の筋力を評価します。
段階5・4・3(腹臥位)


- 患者は腹臥位となり、検査する側の手の甲を殿部(お尻の上)にのせます。
- 検査者は一方の手で肩甲骨内側縁に指尖をおき、筋の収縮を確認します。
- 患者に肩関節の伸展・内転(背中から手を持ち上げる)を指示します。
- もう一方の手で肘のすぐ上を持ち、肩関節の屈曲・外転方向(持ち上げた腕を床方向へ下ろす)へ抵抗を加えます。
【判断基準】
- 5 (Normal): 最大抵抗に耐えられます。
- 4 (Good): 中程度〜強度の抵抗に耐えられます。
- 3 (Fair): 抵抗がなければ、可動域全体を動かせ最終域を保持できます。
段階2・1・0(座位)

- 患者は座位となり、腹臥位と同様に手の甲を殿部に置きます。
- 検査者は患者の手首を持ち上肢の重さを支え(除重力)、もう片方の指で肩甲骨内側縁を触知します。
- 患者に背中から手を離すように動かしてもらいます。
【判断基準】
- 2 (Poor): 除重力位で、可動域全体を動かせます。
- 1 (Trace): 筋収縮は触知できますが、関節運動は起こりません。
- 0 (Zero): 筋収縮が全くみられません。
3. 菱形筋のアプローチ
評価に基づき、硬くなった筋を緩め、弱くなった筋を強化するアプローチを実践します。
3-1. リリース
硬くなった菱形筋を緩めるシンプルな方法です。

- 触診と同じ要領で、硬さのある部位を指で捉えます。
- その状態をキープしたまま、患者にゆっくりと深呼吸を繰り返してもらいます。
- 息を吐くタイミングで、筋が緩んでいくのを感じながら圧を調整します。
3-2. 筋力強化エクササイズ
弱化した菱形筋を効果的に鍛えるエクササイズです。
- MMT肢位でのトレーニング:MMTの要領で、段階に応じた抵抗をかけながら運動を繰り返します。自動介助運動や自動運動、抵抗運動として実施します。
- 座位での肩甲骨内転運動(Scapular Squeeze):座位または背臥位で、胸を張りながら意識的に左右の肩甲骨を中央にギュッと寄せます。5秒キープしてゆっくり戻す、という動作を繰り返します。
4. 菱形筋の機能低下と影響
菱形筋の機能が低下すると、身体には様々な不調が現れます。特に以下の4つの問題は臨床で頻繁に遭遇します。
- 肩甲骨の内転保持が困難になり、肩甲骨外転位(いわゆる巻き肩)になりやすい
- 肩甲骨の安定性が低下し、肩関節運動の際に不安定感や痛みが出現
- 肩甲骨内側の違和感や痛みの訴えが増える
- 上肢挙上時に僧帽筋や肩甲挙筋が代償的に過活動し、肩こりや首こりの原因に
5. 臨床ちょこっとメモ
臨床で役立つ豆知識
- 菱形筋は肩甲背神経(C5)の単独支配です。そのため、菱形筋の筋力低下は第5頸髄神経の病変を疑うための一つの指標になります。
- 菱形筋は肩甲挙筋、小胸筋と共同して肩甲骨を下方回旋させます。
- 菱形筋は前鋸筋と共同して、肩甲骨の内側縁を胸郭に安定させる重要な役割(フォースカップル)を担います。
- スマホ操作やデスクワークなどの不良姿勢は、菱形筋の筋活動を抑制し、筋力低下を招きやすいです。
- トレーニングは呼吸と連動させるとより効果的です。例えば、息を吸いながら胸を張り、肩甲骨を寄せるように指導します。
- 菱形筋の機能不全は、小胸筋の短縮とセットで生じることが非常に多いです。菱形筋だけでなく胸郭全体(特に前面)のアプローチが改善の鍵となります。
6. まとめ
最後に、本記事で解説した菱形筋へのアプローチのポイントをまとめます。
解剖と機能のポイント
- 起始はC6〜T4棘突起、停止は肩甲骨内側縁。
- 作用は肩甲骨の内転・下方回旋・軽度挙上。
- 僧帽筋の深層にあり、肩甲骨を胸郭に安定させる役割を持つ。
評価のポイント
- 触診は、肩甲骨内側縁で結帯動作の収縮を確認。
- MMTは腹臥位と座位で実施し、筋力を客観的に評価する。
アプローチのポイント
- 機能低下は巻き肩、肩関節不安定性、肩甲骨周囲の痛みを引き起こす。
- アプローチは筋リリースと筋力強化エクササイズを組み合わせる。
- 小胸筋の短縮など、周囲の組織との関連を常に考慮することが重要。
今回解説したのは、菱形筋という一つの筋肉に焦点を当てた内容です。実際の臨床では、全身のつながりや周囲の筋肉とのバランスを考慮した統合的な視点が不可欠です。この記事が、皆さんの臨床の一助となり、患者さんや利用者さんのより良い生活を支えるきっかけになれば幸いです。
一緒に解剖と評価を学び、臨床能力を高めていきましょう!
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