同じ姿勢で「なぜ痛くなる?」——理学療法士・作業療法士のための中枢感作×血流×筋膜の解説

「同じ姿勢でいると痛くなる」——慢性痛患者だけでなく健常者でも起きるこの現象は、局所血流の制限感覚入力の偏りによる中枢感作筋膜・筋の張力バランス変化などが重なって生じます。本稿は、臨床で即使える視点に絞って、要点と介入の勘所を整理します。

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【概要】

「同じ姿勢でいると痛くなる」という訴えは、慢性痛患者だけでなく健常者でも日常的に経験する現象です。この現象は単純な「筋肉の疲労」だけでは説明できず、局所の血流制限による代謝変化感覚入力の偏りによる中枢神経系の感作など、複数の要因が関与しています。リハビリテーション職にとってこのメカニズムの理解は、姿勢指導・運動療法の説得力を高め、患者教育に直結します。

1. 感覚入力の単調化と順応(sensory adaptation)

① 受容器の適応現象

  • 皮膚・筋・関節の機械受容器(ルフィニ終末、パチニ小体、筋紡錘など)は、一定の刺激が続くと反応が減衰します。

② 順応後の感度低下と痛み感受性

  • 同一入力の持続は受容器レベルでの順応(応答減衰)を生みますが、同時に注意の固定化(SN)脊髄の時間的加重が進むと、わずかな入力変化でも“不快”にラベリングされやすい状態になります。
  • 例:長く座位の後に立ち上がると腰や下肢が痛い背景に、感覚閾値の低下が関与。

③ 臨床での観察ポイント

  • 姿勢を変えた直後の「ピリッとした痛み」や「しびれ」が出やすい患者は、感覚入力の偏り+順応の影響が示唆されます。

2. 中枢神経系の反応と痛みの増幅

① 脊髄レベルでの持続興奮

  • 同じ部位から同種の求心性入力が長時間続くと、脊髄後角ニューロンでwind-up(時間的加重)が起こり、一時的な中枢感作が生じます。
  • 結果として、同一強度の刺激でも時間とともに痛みが増して知覚されます。

② 慢性痛患者での脳ネットワーク変化

  • デフォルトモードネットワーク(DMN)サリエンスネットワーク(SN)が痛みに注意を固定する方向に働く可能性。
  • 軽い不快感でも「痛み」にラベリングされやすい傾向が生じます。

③ 臨床での意味

  • 慢性痛患者では、同じ姿勢由来の痛みが短時間で立ち上がることが多い。
  • 単なる筋疲労・血流だけでなく、脳の情報処理モードが痛み寄りへシフトしている点が重要。

3. 姿勢保持の筋骨格的影響

① 張力バランスの偏り

  • 静的姿勢では特定筋が持続収縮し、拮抗筋が抑制されます。
  • 例:座位PC作業での頚部伸筋群・僧帽筋上部の持続収縮+深部頚屈筋群の活動低下。

② 筋膜・軟部組織の滑走制限

  • 長時間の同一姿勢は筋膜間の滑走を減らし、局所の筋膜内圧↑ → 血流低下を助長。
  • myofascial painの発症につながる可能性。

③ 臨床での見極め

  • 痛み部位のみでなく、持続収縮を強いられている筋群伸ばされ続けている筋群を評価し、介入ポイントを特定。

【臨床応用】介入の視点・患者教育・具体的エクササイズ

1. 介入の視点

  • ポジションチェンジの頻度指導:20〜30分ごとに姿勢変化+数秒の軽い収縮・伸張で血流を維持し、感覚入力を「更新」します。
  • 注意の分散:慢性痛例ではSN過活動を抑えるため、2重課題などで動作・環境への注意を分散。

2. 患者教育の例え話

  • 「ホースを指で押さえると水の流れが悪くなる」=筋収縮で血管が圧迫され血流低下。
  • 「同じテレビ画面を見続けると目が疲れる」=感覚入力が単調化し疲労や痛みを感じやすくなる。
    → 身近な比喩で理解が深まり、行動変容が起きやすい。

3. 具体的エクササイズ

  • 座位:肩甲骨の前後運動+頚部回旋(30分ごと)
  • 立位:膝屈伸+足関節底背屈(30分ごと)

※目的は可動域の拡大ではなく、血流と感覚入力のリセットであることを強調。

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【まとめ】「動く理由」を言語化する

「同じ姿勢で痛くなる」背景には、

  1. 感覚入力の単調化と順応
  2. 中枢神経系の興奮
  3. 姿勢保持による筋骨格系への影響

リハ職は、この生理学的背景を患者教育に活かし、「動く理由」を納得させることで姿勢変化の習慣化を促せます。単に「動きましょう」ではなく、「血流を保つため」「感覚をリセットするため」という目的の言語化が行動変容のカギです。

参考文献

  1. Alexander R. Kett et al. Sitting for Too Long, Moving Too Little: Regular Muscle Contractions Can Reduce Muscle Stiffness During Prolonged Periods of Chair-Sitting. Frontiers in Sports and Active Living, 2021.
  2. Alexander R. Kett et al. The Effect of Sitting Posture and Postural Activity on Low Back Muscle Stiffness. Biomechanics, 2021;1(2):214–224.
  3. Nicole Quodling et al. Sensory processing in medically unexplained pain syndrome: A systematic review. Frontiers in Pain Research, 2025.
  4. Viseux FJF, Simoneau M, Billot M. A Comprehensive Review of Pain Interference on Postural Control: From Experimental to Chronic Pain. Medicina (Kaunas). 2022;58(6):812.
  5. Kelly A. Pollak et al. Exogenously applied muscle metabolites synergistically evoke sensations of muscle fatigue and pain in humans. Experimental Physiology. 2014;99(2):368–80.

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