こんにちは、理学療法士の大塚です。
今回は、理学療法士・作業療法士が臨床で必ず向き合う「内分泌疾患のリハビリテーション」をテーマに、その核心を深掘りします。「なぜ糖尿病に運動療法が有効なの?」「甲状腺機能低下症の患者さんの倦怠感にどうアプローチする?」といった臨床の疑問に、病態生理のレベルからお答えします。エビデンスに基づいた知識は、あなたの評価と介入の質を確実に向上させます。基礎から具体的な症例まで、明日から使える情報を分かりやすく解説します。
【症例で学ぶ】2大内分泌疾患のリハビリテーション戦略
ここでは、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)が臨床で遭遇する頻度の高い2つの内分泌疾患を取り上げ、病態生理・エビデンスに基づく運動処方・INCET(Integrative Neuro‑Cognitive Exercise Therapy)視点を組み込んだリハビリ戦略を具体的に解説します。
2型糖尿病:運動療法で血糖値をコントロールする具体的アプローチ
症例プロフィール
項目 | 内容 |
---|---|
症例 | 55 歳男性・BMI 31 kg/m²・HbA1c 8.0 %(IFCC 64 mmol/mol)・内服(メトホルミン+DPP‑4 阻害薬) |
主訴 / 目標 | 倦怠感・腰痛・血糖コントロールの改善/目標:体重 –5 kg・日常生活活動(ADL)の円滑化 |
リスク評価 | 合併症チェック(網膜症・末梢神経障害・狭心症スクリーニング)→ 中等度リスクと判定 |
病態生理の要点:なぜ運動がインスリン抵抗性を改善するのか?
- インスリン抵抗性:骨格筋・脂肪組織・肝臓でのブドウ糖の取り込み口であるGLUT4の細胞膜への移動が低下している状態。
- 運動の効果:筋収縮そのものがAMPKを活性化し、インスリン非依存的にGLUT4を細胞膜へ移行させます。さらに、定期的な運動は筋量を増やし基礎代謝を向上させ、インスリン感受性を高める効果もあります。
運動処方の実際:エビデンスに基づくFITT原則
ACSM(アメリカスポーツ医学会)とADA(アメリカ糖尿病学会)のガイドライン、および最新の系統的レビューに基づいた運動処方例です。
項目 | 推奨 | 具体例(本症例) |
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有酸素運動 | 週 150分以上(中等度 40–59%VO₂R/RPE 11–13) | 速歩 30分 × 5日/週(導入期は 15分×2回/日など分割も可) |
レジスタンス運動 | 週 2–3 日/主要筋群 8–10 種目/10–15RM×1–3セット | 弾性バンドでのトレーニングから開始し、マシン負荷へ移行 |
高強度インターバル | 合併症・体力レベルを考慮し導入(>60%VO₂R) | 2分間の速歩+1分間の軽歩を10サイクル繰り返す |
座位行動の削減 | 30分ごとに 2–3分間の立位 or ステップ運動 | スマートウォッチのリマインダー機能を活用 |
INCET 視点
運動セッションの冒頭5分でDual‑Task(例:歩行しながら数字を逆から唱える)を実施。これにより前頭葉の活動を高め、運動学習能力と血糖コントロール改善の相乗効果を狙います。
リスク管理:安全な運動療法のためのモニタリング項目
- 運動開始前の血糖値:100–250 mg/dL が目安。250 mg/dL 超でケトン体陽性の場合は運動を延期します。
- 低血糖症状への対応:発汗・動悸・手指の震えなどが見られたら、ブドウ糖など15gの炭水化物を摂取させ、15分後に再測定します。
- フットケアの徹底:末梢神経障害がある場合は、足の観察を習慣化し、サイズの合った靴(ニュートラルシューズ)の使用を指導します。
介入効果の実例:3ヶ月で得られた変化
- 身体的変化:体重 –4 kg、HbA1c 6.9 %に改善、6分間歩行距離 +70 m、腰痛のNRS(数値評価スケール)が 6→2に軽減。
- 心理的変化:INCETセッションを通じて「自分でも運動を続けられる」という運動自己効力感が 5点から8点(10点満点)へ向上。
甲状腺機能低下症:易疲労感と筋力低下に立ち向かうリハビリ
症例プロフィール
項目 | 内容 |
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症例 | 52 歳女性・橋本病/TSH 15 µIU/mL・fT₄ 0.6 ng/dL・軽度高脂血症 |
主訴 / 目標 | 易疲労感・筋力低下・関節のこわばり/目標:階段昇降を楽に、5 kgの買い物袋を持って歩き続けられる |
薬物治療 | レボチロキシン 75 µg/日(ホルモン補充療法 導入4週間目) |
病態生理の要点:ホルモン低下が身体に与える影響
- 甲状腺ホルモンの低下は、基礎代謝率の低下やミトコンドリアの機能不全を引き起こし、筋力や持久力の低下に直結します。
- 全身のむくみ(浮腫)、腱反射の遅延、関節可動域 (ROM) 制限などを伴うことも多いのが特徴です。
運動処方とセラピストの役割:心身両面からのサポート
項目 | 推奨 | 留意点 |
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有酸素運動 | RPE 9–11(軽度~やや楽)の低強度から漸増 | 徐脈傾向にあるため、Karvonen法による心拍数設定よりも自覚的運動強度(RPE)を優先します。 |
レジスタンス運動 | 40–50 %1RM、10–12 回×1–2セット/週 2–3 日 | 大筋群、特に抗重力伸展筋群を中心に実施。浮腫を軽減する肢位(軽度挙上など)も考慮します。 |
柔軟性運動 | 毎日/静的ストレッチ 30秒×各2回 | 関節痛が強い場合は、運動前に温熱療法を併用すると効果的です。 |
ADL特化訓練 | 食事準備や洗濯など、立位を維持する課題をタスク指向型訓練として取り入れる | 作業療法士が中心となり、高めの椅子や補助具の活用など環境調整も行います。 |
INCET 視点
疲労感が少ない午前中を狙い、モーターイメージ(運動の想像)+実運動を組み合わせます。例えば、鏡で自身のフォームを確認しながらスクワットを行うことで視覚的フィードバックを活用し、体性感覚と運動の連携を再学習させ、効率的な筋活動を促します。
リスク管理:特に注意すべき禁忌とセーフティネット
- 過負荷の禁止:ホルモン値が安定するまでは、心外膜液貯留や重度の徐脈のリスクがあるため、急激な負荷増加は絶対に避けます。
- 環境調整:寒さに弱いため、室温を24–26℃に保ち、重ね着などで体温を保持できるよう指導します。
- 横紋筋融解症の予防:急な高強度・長時間の運動は避け、必要に応じてCK値(クレアチンキナーゼ)などをモニタリングします。
介入効果の実例:8週間での機能改善
- 身体機能:握力 +4 kg、椅子立ち上がりテスト(5回反復)のタイムが2秒短縮。血液データ上でもTSH 4.8 µIU/mLと改善。
- 活動量:活動量計で測定した1日あたりの歩数が3500歩から6400歩へ増加。
- QOL:目標であった「買い物袋を持って歩く」課題を達成。自己報告式の疲労度スケール(FSS)が 5.6→3.2へと大幅に改善。
まとめ:内分泌疾患リハビリで明日から使える3つのキーメッセージ
内分泌疾患を持つ方へのリハビリテーションを成功させるために、以下の3つの視点を常に意識することが重要です。
- 多角的な視点を持つ
ホルモン動態、身体活動、そして心理社会的因子を三位一体で捉え、全人的にアプローチする。 - 運動を「薬」として処方する
運動は単なる活動ではなく、治療的な「薬」です。投与量(FITT:頻度・強度・時間・種類)と、その適応・禁忌を常に明確にしましょう。 - 評価と調整を繰り返す
バイタルサイン、血液データ、自覚症状を継続的にモニタリングし、その結果を本人にフィードバック。そしてプログラムを調整する。このクローズドループが、安全性と継続性を高める鍵となります。
あなたの臨床を次のステージへ導く「INCET®コンセプト」とは?
本稿でご紹介したINCET®(統合的神経認知運動療法)は、ICFとBPSモデルを基盤に、「身体・脳・環境」の相互作用を統合的に捉えるための臨床思考フレームワークです。
患者様の「こうなりたい」という希望(HOPE)から逆算し、構造・神経・環境・発達・心理認知という5つの視点で多角的に分析。徒手療法から認知行動的なアプローチまでを体系的に組み合わせることで、神経の回復力と行動の変化を最大化します。
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