この記事の要点
- 肩甲胸郭関節は骨結合ではなく「筋によって作られた機能的関節」である
- 肩甲上腕リズムの破綻は、インピンジメントや腱板障害の重要なリスク因子となりうる
- 評価では「静止画(位置)」だけでなく「動画(運動中の筋バランス)」の観察が不可欠
こんにちは、理学療法士の内川です。
「肩甲胸郭関節って、関節なんですか?」
「骨と骨が直接つながっていないのに、なぜ重要なの?」
「肩のリハビリで“肩甲骨が大事”と言われる理由が、まだ曖昧…」
新人リハビリスタッフが最初につまずきやすいのが、肩甲胸郭関節の理解です。
肩甲胸郭関節は解剖学的な“真の関節”ではありません。
それでも臨床では、肩関節機能を左右する最重要ユニットの一つとして扱われます。
今回は、「なぜ肩甲胸郭関節が重要なのか」「どんな筋が関与し、何が起きると問題になるのか」を整理していきましょう。
1.肩甲胸郭関節の解剖

肩甲胸郭関節とは、
👉 肩甲骨と胸郭(肋骨)との間に形成される機能的関節です。
- 骨同士が関節包や靱帯で直接連結していない
- 筋と筋、筋と骨の滑走によって成立
- 肩甲骨運動の“場”として機能する
つまり肩甲胸郭関節は、「筋によって作られた関節」と言えます。
2.肩甲胸郭関節の運動(肩甲骨運動)
肩甲骨の基本運動
- 挙上 / 下制
- 内転(後退) / 外転(前方突出)
- 上方回旋 / 下方回旋
- 前傾 / 後傾
これらは単独ではなく、複合的に起こるのが特徴です。
肩甲上腕リズムとの関係
上肢挙上時には、
- 肩甲上腕関節
- 肩甲胸郭関節
が協調して動く必要があります。
👉 一般的には 肩甲上腕関節:肩甲胸郭関節 ≒ 2:1
この協調運動(リズム)が崩れると、
- 肩甲上腕関節へのメカニカルストレス増大
- インピンジメントのリスク上昇
- 腱板機能の低下
などが起こりやすくなります。
3.肩甲胸郭関節に関与する筋肉
肩甲胸郭関節は筋のバランスで成立します。
主に関与する筋
- 僧帽筋(上部・中部・下部)
- 前鋸筋
- 菱形筋
- 肩甲挙筋
- 小胸筋
特に重要な筋バランス
● 上方回旋ペア
- 僧帽筋(特に下部)
- 前鋸筋
👉 上肢挙上時のカップリングモーションに必須
● 安定化ペア
- 菱形筋
- 僧帽筋中部
👉 肩甲骨の過度な前方突出を制御
● 注意すべき筋
- 小胸筋
- 肩甲挙筋
→ 短縮により肩甲骨前傾・下方回旋を助長しやすい
4.機能不全と臨床症状
肩甲胸郭関節機能低下で起こりうること
- 肩甲骨の上方回旋不足
- 前傾・内旋優位(Scapular Dyskinesis)
- 肩峰下スペースの減少
臨床症状
- 肩挙上時痛
- インピンジメント症候群
- 腱板炎・腱板断裂のリスク増大
- 頸部〜肩甲帯のこり感
- 投球障害・反復動作時痛
👉 「肩関節は悪くないのに痛い」症例では、肩甲胸郭関節機能が関与していることが少なくありません。
5.臨床ちょこっとメモ
- 肩の評価は肩甲上腕関節単独では不十分であり、まずは肩甲胸郭関節の評価も行う
- 肩甲骨の「位置」と「動き」を必ず確認
- 静止姿勢(前傾・挙上)+動作中の変化を見る
- 機能不全(Dyskinesis)を残したまま高負荷な筋トレをすると悪化するリスクも
- 前鋸筋と僧帽筋下部は臨床的に“優先度が高い評価筋”
6.まとめ
① 解剖・特徴
- 肩甲胸郭関節とは
- 肩甲骨と胸郭(肋骨)との間に成立する機能的関節
- 構造的特徴
- 骨同士が関節包・靱帯で直接連結していない
- 筋と筋、筋と骨の滑走によって成立
- 本質的な役割
- 肩甲骨運動が起こる“場”
- 肩関節複合体の中で最も見落とされやすいが重要
- ポイント
- 肩甲胸郭関節は
👉「骨でできた関節」ではなく
👉「筋によって作られた関節」
- 肩甲胸郭関節は
② 評価とアプローチ(運動・筋バランス)
- 肩甲骨の基本運動
- 挙上/下制、内転/外転、上方回旋/下方回旋、前傾/後傾
※ 単独ではなく複合的に出現
- 挙上/下制、内転/外転、上方回旋/下方回旋、前傾/後傾
- 肩甲上腕リズム
- 上肢挙上時:肩甲上腕関節:肩甲胸郭関節 ≒ 約2:1
- リズムが崩れると、肩甲上腕関節に負荷が集中しやすい
- 主な関与筋
- 僧帽筋、前鋸筋、菱形筋、肩甲挙筋、小胸筋
③ 機能低下の影響と臨床的注意点
- 起こりやすい機能不全
- 肩甲骨の上方回旋不足、前傾・内旋優位、肩峰下スペースの減少
- 臨床症状
- 肩挙上時痛、インピンジメント、腱板障害のリスクなど
- 臨床的注意点
- 「肩関節自体は問題なさそう」でも痛みが出るケースは少なくない
- 静止姿勢+動作中変化を必ず確認
- 前鋸筋・僧帽筋下部は優先的に評価したいポイント
関節の理解と共に筋肉がどうついているのか、どう動いているのか一緒に勉強しませんか?
7.参考文献
- 基礎運動学 第6版補訂
- 肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション (痛みの理学療法シリーズ)
- 肩関節の極意 痛み編[痛みを発生させる”4つの関節”と”神経由来の痛み”の鑑別と治療方法を徹底解説] (限界点を通過点に変える秘伝)
- 機能解剖学的触診術 上肢







