明日から臨床で使える!腸腰筋の触診・MMT・ストレッチ|機能解剖から腰痛との関連まで

こんにちは、理学療法士の内川です。

こんなお悩みありませんか?
  • 「股関節屈曲=腸腰筋って習ったけど、実際どこをどう評価したらいいの?」
  • 「腰痛との関係ってよく聞くけど、何で腸腰筋が関係するの?」
  • 「トーマステストの結果をどう臨床で活かせばいいのかよく分からない…」

新人の頃、腸腰筋を「股関節を曲げる筋肉」とは理解していても、腰痛や歩行との関連性、正しい評価や触診方法、姿勢への影響まで意識できていないことが多かったと感じています。

しかし、腸腰筋は股関節・骨盤・腰椎をつなぐ重要なインナーマッスルであり、歩行や立ち座り動作、姿勢制御にも深く関わっています。今回はこの腸腰筋について、臨床でのポイントを交えて解説していきます。

1. 腸腰筋とは?基本の解剖と作用

腸腰筋の解剖図

腸腰筋は主に3つの筋肉から構成されています。

大腰筋(Psoas major)

  • 起始:第12胸椎〜第5腰椎の椎体・横突起
  • 停止:大腿骨小転子
  • 神経:腰神経叢($L_2$〜$L_4$)
  • 作用:股関節の屈曲・外旋、骨盤の前傾・腰椎前弯の維持

腸骨筋(Iliacus)

  • 起始:腸骨窩
  • 停止:大腿骨小転子(大腰筋と合流)
  • 神経:腰神経叢($L_2$〜$L_3$)
  • 作用:股関節の屈曲・外旋、骨盤の前傾・腰椎前弯の維持

小腰筋(Psoas minor)

※小腰筋は大腰筋と一体化している、あるいは欠損している人も多いです。

  • 起始:第12胸椎〜第1腰椎椎体の前面
  • 停止:寛骨臼前下縁
  • 支配神経:腰神経叢($L_1$)

2.【実践】腸腰筋の評価方法(触診・MMT・トーマステスト)

臨床で必須となる腸腰筋の評価方法を3つご紹介します。

触診方法

腸腰筋の触診方法
  1. 上前腸骨棘(ASIS)と臍(おへそ)を結ぶ線の中間点あたりを目安にします。
  2. 腹直筋の外側縁から、指を腹部の深層へ向かってゆっくりと沈み込ませます。
  3. 患者に股関節を軽く屈曲してもらい、その際に収縮する筋肉を触知します。

MMT(徒手筋力テスト)

【段階 5, 4, 3】

測定肢位:端坐位(ベッドの端に座る)

MMT段階5,4,3の手順1 MMT段階5,4,3の手順2 MMT段階5,4,3の手順3
  • 手順:患者は下腿をベッドの縁から垂らし、体幹を安定させます。セラピストは膝のすぐ上で大腿部に抵抗を加えます。
  • 判定
    • 5 (Normal):最大抵抗に耐えられる。
    • 4 (Good):中程度〜強度の抵抗に耐えられる。
    • 3 (Fair):抵抗がなければ可動域全体を動かせる。
代償動作に注意!

MMTの際は、骨盤の後傾や、縫工筋・大腿筋膜張筋による股関節の外転・外旋が代償として生じやすいため、注意深く観察しましょう。

MMTの代償動作1 MMTの代償動作2 MMTの代償動作3

【段階 2】

測定肢位:側臥位

MMT段階2の手順
  • 手順:テストする側の下肢を上にし、セラピストが下肢を支えて摩擦をなくした状態で股関節の屈曲運動を行います。
  • 判定 (Poor):重力を除いた状態で、可動域全体を動かせれば「2」。

【段階 1, 0】

測定肢位:背臥位

MMT段階1,0の手順
  • 手順:触診と同じ部位(鼠径靭帯のすぐ遠位で、縫工筋の内側)で筋収縮を確認します。
  • 判定
    • 1 (Trace):筋収縮は触知できるが、関節運動は起こらない。
    • 0 (Zero):筋収縮が全くない。

トーマステスト(Thomas Test)

腸腰筋の短縮を評価するテストです。

トーマステスト陰性 トーマステスト陽性
  1. 患者にベッドの端に座ってもらい、評価側の下腿をベッドから出します。
  2. 非評価側の股関節・膝関節を深く屈曲させ、胸に引き寄せます。この時、腰椎が後弯(平坦化)するようにします。

【判定】

  • 陰性:評価側の大腿がベッドと平行な状態を保てる。
  • 陽性:評価側の大腿がベッドから浮き上がり、股関節が屈曲してくる(=腸腰筋の短縮)。
臨床ワンポイント:代償パターンを見抜く

陽性の場合、どのように股関節が浮いてくるかを観察することで、他の筋の短縮も評価できます。

大腿四頭筋の短縮 大腿筋膜張筋の短縮 縫工筋の短縮
  • 股関節屈曲 + 膝関節伸展大腿四頭筋(特に大腿直筋)の短縮
  • 股関節屈曲 + 股関節外転大腿筋膜張筋の短縮
  • 股関節屈曲 + 股関節外転・外旋縫工筋の短縮

3. 腸腰筋の機能不全が引き起こす臨床所見

腸腰筋の機能が低下したり、過度に緊張したりすると、様々な問題が生じます。

  • 筋力低下:大腿骨頭の安定性が低下し、前方へ変位しやすくなります。また、歩行時の踵接地(HC)における衝撃吸収がうまくできず、前方への推進力低下に繋がります。
  • 過緊張・短縮:骨盤が前傾し、いわゆる「反り腰」姿勢となり腰椎への負担が増大。これが腰痛の大きな原因となります。

4. 腸腰筋への具体的なアプローチ方法

リリース(弛める)

触診と同じ要領で腸腰筋を捉え、患者にゆっくりと深呼吸をしてもらいます。呼気(息を吐く)のタイミングで、指をさらに深層へ沈めていくことで、筋の緊張を緩和させます。

筋力トレーニング

  • 股関節屈曲運動:仰向けや座位で、骨盤や体幹が動かないように固定し、純粋な股関節の屈曲を繰り返します。
  • 骨盤前後傾運動:四つ這いや仰向けで、意識的に骨盤を前傾・後傾させる運動を行い、腸腰筋の収縮・弛緩を促します。

ストレッチ

腸腰筋のストレッチ方法
  1. 片膝立ちになり、伸ばしたい側の脚を後ろにします。
  2. 骨盤を立てたまま(腰が反らないように)、体重を前方へスライドさせ、後ろ脚の股関節前面を伸ばします。
  3. さらに伸張感を高める場合は、骨盤の前傾を保ったまま体幹を軽く後屈させます。

5.【臨床メモ】知っておきたい腸腰筋の豆知識

  • 腰痛患者さんでは、腸腰筋の過緊張による骨盤前傾が腰椎への剪断ストレスを増大させているケースが多く見られます。
  • 高齢者では、腸腰筋の萎縮が歩行時のつまずきや転倒リスクの上昇に直結します。歩幅が狭くなっている方には特に注意が必要です。
  • 安静時の立位や座位姿勢を保つためにも、腸腰筋の適度な緊張(基礎張力)は非常に重要です。

6. まとめ:腸腰筋アプローチの要点

最後に、本日の内容を3つのポイントでまとめます。

ポイント1:解剖学的な特徴

  • 大腰筋・腸骨筋・小腰筋の3つで構成され、腰椎・骨盤・大腿骨を繋ぐ。
  • 股関節屈曲・外旋の主働筋であり、骨盤前傾・腰椎前弯を維持する姿勢保持筋でもある。
  • 歩行や立位・座位の安定に不可欠なインナーマッスル。

ポイント2:評価のポイント

  • 触診は腹直筋の外縁から深層へ。股関節屈曲で収縮を確認。
  • MMTは肢位を変えて評価。骨盤後傾などの代償動作に注意する。
  • トーマステストは腸腰筋の短縮評価。陽性時の代償パターン(膝伸展、股関節外転など)から、他の筋の短縮も同時に評価する。

ポイント3:臨床応用とアプローチ

  • 機能低下は歩行推進力の低下や転倒リスクに、過緊張は反り腰や腰痛に繋がる。
  • アプローチはリリース、筋力トレーニング、ストレッチを組み合わせて行う。
  • 特に腰痛や高齢者の歩行機能改善において、中核的な治療対象となる筋肉。

今回ご紹介したのは筋単体の評価とアプローチですが、実際の臨床では周囲の筋群とのバランスを考慮することが極めて重要です。ぜひ明日からの臨床で、腸腰筋への意識を高めてみてください。

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7. 参考文献

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