こんにちは、理学療法士の内川です。
「前腕の屈筋群を触診していて、腱が1本少ない気がする…」
「長掌筋って教科書にはあるけど、実際に臨床でどう関わるの?」
「欠損している人もいるって聞いたけど、評価は必要なの?」
長掌筋は前腕屈筋群の中でも比較的目立たない筋ですが、手関節掌屈や手掌腱膜の緊張調整に関与し、手や前腕の動作効率に影響を与えます。
さらに臨床では腱移植のドナーとしても利用されるため、存在確認や基礎知識は押さえておきたい筋の一つです。
1. 長掌筋の解剖と作用

長掌筋の走行:上腕骨内側上顆から手掌腱膜へ
📍 基本的な解剖学的情報
起始 | 上腕骨内側上顆(共同屈筋腱起始部) |
停止 | 手掌腱膜 |
支配神経 | 正中神経(C7〜Th1) |
⚙️ 主な作用
- 手関節の掌屈(補助的な役割)
- 手掌腱膜の緊張による掌の安定性向上
⚠️ 知っておくべき特徴
- 欠損率:約10〜25%(報告により差あり、左右差も存在)
- 細長い腱を持ち、個体差が大きい
- 欠損しても日常生活動作への影響は少ない
2. 長掌筋の評価方法【画像で解説】
✋ 触診の手順
- 前腕を回外位にする
- 手関節を軽度掌屈させながら母指と小指の対立つまみを行う
- 前腕中央に腱が浮き上がるのを確認
※ 欠損例では腱の隆起が触知できません

母指-小指対立運動での触診

前腕中央に浮き出る長掌筋腱
💡 臨床でのコツ:
触診が難しい場合は、手関節掌屈の抵抗運動を加えることで、腱がより明確に浮き上がることがあります。また、橈側手根屈筋腱と尺側手根屈筋腱の間を探すと見つけやすくなります。
3. 機能低下と臨床的影響
🔍 欠損時の影響
- 機能的な制限はほぼなし
- 他の屈筋群(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋)が代償
- 日常生活への影響なし
⚡ 損傷時の影響
- 掌屈力がわずかに低下する場合あり
- 手掌腱膜の緊張が軽度減少
- 把持時の掌の安定性がわずかに低下する可能性
📊 臨床的意義:長掌筋の欠損は機能的には問題ありませんが、腱移植を検討する際には事前の存在確認が重要です。
4. 長掌筋へのアプローチ方法
🏋️ リハビリテーションのポイント
- 欠損や軽度機能低下では直接的な強化は不要
- 前腕屈筋群全体の筋力トレーニングが有効
- 腱移植後は、掌屈筋力維持と手掌腱膜の柔軟性保持を意識したリハビリを行う
💪 推奨エクササイズ:
・手関節掌屈運動(セラバンド使用)
・グリップ強化運動
・前腕屈筋群のストレッチング
5. 臨床での活用ポイント
🏥 臨床での重要な役割
1. 腱移植のドナーとして利用
- 肘の側副靭帯損傷の再建術
- 手指屈筋腱再建
- 母指CM関節症手術
- ACL再建術(稀に使用)
2. 手根管症候群手術時のランドマーク
手根管開放術において、正中神経の位置を推定する重要な指標となります。
6. まとめ|押さえるべき3つのポイント
✅ 臨床で押さえるべき3つのポイント
- 約4人に1人(10-25%)は欠損しているが、機能的影響は最小限
- 触診は「母指-小指対立+手関節掌屈」で簡単に確認可能
- 腱移植のドナーとして臨床的価値が高い
📊 詳細なまとめ
① 解剖学的特徴と機能
- 起始:上腕骨内側上顆(共同屈筋腱起始部)
- 停止:手掌腱膜
- 支配神経:正中神経(C7〜Th1)
- 主な作用:手関節の掌屈(補助的)、手掌腱膜の緊張による掌の安定性向上
- 特徴:欠損率約10〜25%、形態の個体差が大きい
② 評価と機能低下の影響
- 評価(触診):前腕回外位で、手関節軽度掌屈+母指と小指の対立つまみ動作
- 機能低下時:欠損時は他の屈筋群が代償、損傷時は軽度の掌屈力低下の可能性
③ 臨床応用とアプローチ
- 欠損時は直接的な強化は不要、前腕屈筋群全体のトレーニングを実施
- 腱移植材料として活用(各種靭帯再建術)
- 手根管症候群手術時の重要なランドマーク