こんにちは、理学療法士の赤羽です。
外来リハビリでよく遭遇する「足関節背屈制限」。歩行やしゃがみ動作だけでなく、階段昇降やスクワットにも直結するため、ADLやスポーツ動作に大きな影響を与えます。
例えば「しゃがめない」という訴えの患者さんをみると、膝や股関節ではなく、実は足関節背屈の制限が根本原因だったというケースも少なくありません。
- ✓足関節背屈制限の評価・アプローチに悩んでいる
- ✓「しゃがめない」患者さんの根本原因が特定できない
- ✓膝痛や股関節痛の患者さんに、足関節からのアプローチを試したい
足関節背屈制限の背景(運動学)
足関節背屈は、主に「距腿関節」で生じます。距骨滑車が脛骨・腓骨に包み込まれるように関節を構成しており、背屈時には距骨が後方へ滑り込む動き(Posterior glide)が必要です。
しかし、この運動がスムーズに行えないと、背屈制限(インピンジメント)となり、代償的に足部過回内や膝の内側偏位(Knee-in)が生じ、二次的な障害(膝痛や股関節痛)につながります。
距腿関節における背屈制限の4つの要因
では、なぜ距骨の後方滑りが阻害されるのでしょうか。制限因子を4つのレベルで整理します。
1. 骨・関節レベル
- 距骨は台形をしており、前方が広いため、背屈位では脛腓間(足関節のほぞ穴)が拡がる必要があります。
- 下腿遠位の脛腓関節の可動性低下があると、この「拡がり」が起きず、距骨の後方滑りが物理的に阻害されます。
- 関節包(特に前方関節包靭帯)の伸張性低下も制限因子となります。
2. 筋・筋膜レベル
- 下腿三頭筋(特にヒラメ筋)の短縮は、最も一般的な制限因子です。
- 長母趾屈筋(FHL)や後脛骨筋(TP)の過緊張・短縮は、距骨を前方に引き出す(または後方滑りを抑制する)力として働き、背屈を制限します。
3. 神経レベル
- 足関節の背屈動作は、下腿後面を走行する脛骨神経や、外側を走行する腓骨神経に牽引ストレス(伸張)を加えます。
- これらの神経の滑走不全(周辺組織との癒着など)があると、背屈動作が神経系の防御性収縮によって制限されることがあります。
4. 運動学的要素(関節包内運動)
- 距腿関節は「凸(距骨)- 凹(脛骨・腓骨)」の関節です。
- 関節の運動法則(凹凸の法則)により、背屈(運動)と同時に距骨の後方滑り(副運動)が必須です。
- この「滑り」が失われると、代償的に距骨が前方に押し出されたり(Anterior shift)、距骨下関節の過回内が生じたりします。
【臨床応用】評価のポイントとアプローチ
これらの要因を念頭に、以下の評価とアプローチを実践します。
1. 評価のポイント
- 膝屈曲位・伸展位での背屈可動域の差
→ 伸展位で制限↑(屈曲位で改善)なら腓腹筋。両方の肢位で制限があるならヒラメ筋や関節性の要因。 - 距骨後方グライド評価
→ 脛骨・腓骨を固定し、距骨を後方へ滑らせ、その可動性を確認します。 - 下腿遠位脛腓関節の開排(モビリティ)評価
→ 遠位の脛骨と腓骨を把持し、内外側から圧迫・開排する動きを確認します。
2. アプローチの例
- 関節モビライゼーション:
距骨を後方へ滑らせるグライド(距骨後方滑り)を行い、関節包内運動を改善します。脛腓関節のモビライゼーションも有効です。 - ストレッチ:
ヒラメ筋の短縮が疑われる場合、膝屈曲位での持続的なストレッチ(30秒以上)を実施します。 - 動作練習:
スクワットやランジ動作の中で、代償(Knee-inや踵の浮き上がり)を防ぎながら、正しい荷重下での背屈運動を再学習させます。 - 神経モビライゼーション:
坐骨神経や腓骨神経のSLR(下肢伸展挙上)ベースのモビライゼーションを行い、滑走性を改善します。
3. 臨床例:膝痛の原因が足関節にあったケース
対象:70代女性、主訴:スクワット動作時の膝内側痛。
評価:スクワット動作で著明なKnee-inと足部過回内を認める。足関節背屈制限が強く(特に右)、距骨後方グライドの硬さが顕著。
アプローチ:距骨後方グライドのモビライゼーションを実施し、荷重位での背屈運動(代償を抑制)を指導。
結果:背屈可動域が改善し、スクワット時のKnee-inが減少。膝の内側痛も軽減した。
→ 膝痛の原因が、実は足関節の運動障害(距骨後方滑り不全)由来だったという典型例です。
まとめ:背屈制限は「筋の硬さ」だけではない
足関節背屈制限は、単なる「下腿三頭筋の柔軟性の問題」ではなく、距腿関節の運動学的制約(距骨後方滑り)が大きな鍵を握っています。
臨床では「背屈が出ない=筋が硬い」と短絡せず、
- 骨・関節(脛腓関節も含む)
- 筋・筋膜(FHLやTPも)
- 神経(滑走性)
まで多角的に評価し、根本原因にアプローチすることが重要です。 背屈制限の改善は膝や股関節、さらには腰部の力学的ストレスの軽減にもつながり、全身的な運動連鎖を正しく回復させるための第一歩となります。
【参考文献】
- Loudon JK, Bell SL. The foot and ankle: an overview of arthrokinematics and selected joint techniques. J Athl Train. 1996 Apr;31(2):173-8.
- Donald A.Neumann 原著/P.D.Andrew・有馬慶美・日髙正巳 監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版, 医歯薬出版, 2018
- 松本優佳:足部運動学の基礎, 専門リハビリ 第21巻:9–14, 2022
- 大工谷新一:足関節背屈制限に対する理学療法, 関西理学 6:21-26, 2006







