こんにちは、理学療法士の嵩里です。
トイレ動作の獲得には身体機能的な介入だけでなく、既往や進行性疾患、予後予測によっては福祉用具を使用することも有効なアプローチの一つです。今回は、便座からの起立動作を容易にしてくれる補高便座について、適応や使用場面などを詳しくお伝えします。
1. 補高便座とは?
補高便座は、便座の上に乗せて便座の高さを上げることで、起立・着座時の負担を軽減する福祉用具です。
補高の高さは3cmから10cm程度まであります。補高便座を使用する際は、患者さんの体格や身体機能に合わせて高さを決定します。10cm前後の補高になると、使用できる便器のサイズが限られたり、ウォシュレット機能が使えない場合もあります。自宅のトイレに合ったサイズを選びましょう。
また、補高便座だけでなく、手すりの位置や形状によっても起立動作が改善される場合があります。縦手すり、L字手すり、両手でプッシュアップできる置き型の手すりなど、どの手すりがより起立をサポートできるか、合わせて検討することが重要です。
2. 補高便座の適応例
主に、関節可動域の低下や下肢の筋力低下を呈し、起立動作が困難な場合に適用となります。また、心疾患やCOPDにより、いきむと呼吸苦が生じる場合にも有効です。
◯関節疾患
変形性膝関節症、変形性股関節症、関節リウマチなど
膝関節や股関節に屈曲可動域制限があると、体幹前傾を伴った足部への重心移動が困難になります。その結果、離殿が難しくなります。補高便座を使用することで、足部と身体重心の位置が近づき、起立動作が容易になります。また、疼痛がある場合は関節への負担を軽減できます。
◯神経疾患
筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ギランバレー症候群、封入体筋炎など
離殿動作では、前傾から伸展相へ切り替わる際に股関節伸展筋群や大腿四頭筋の筋力が必要です。廃用や加齢による筋力低下はもちろん、上記のような神経疾患でも下肢筋力は徐々に低下していきます。この場合、補高便座を使用することで、起立に必要な筋活動の時間を短縮し、起立を容易に行うことができます。
3. 実際の補高便座導入例
補高便座を使用して起立動作の獲得に至った事例を紹介します。ある患者さんは進行性疾患を呈し、下肢の筋力が低下していましたが、トイレ動作は自立されていました。しかし、入院により廃用が進行し、起立動作に介助が必要となりました。過負荷でのリハビリは筋疲労のリスクがあり、筋力向上は期待できないため、補高便座を使用し、便座の高さを調整することで、便座からの起立動作の獲得を試みました。リハビリでは、起立できる座面の高さを評価しました。また、ご家族に自宅の便器の高さを測ってもらい、起立可能となる補高便座のサイズを伝え、購入してもらいました。その結果、便座からの起立では介助量が軽減し、自宅退院も視野に入れることができました。
機能的な改善を求めるだけでなく、予後予測や疾患の特徴に合わせて福祉用具を導入することも効果的です。病気の進行に合わせて補高便座の高さを少しずつ高くすることも可能です。自宅での生活を少しでも長く続けられるよう、福祉用具に関する知識も身につける必要があると感じています。
まとめ
- 補高便座は、起立動作が困難な場合に、便座を高くして起立をサポートする福祉用具です。
- 適応となるケースは、関節可動域制限や筋力低下、心疾患を呈している方です。
- 身体機能や疾患の予後予測に合わせて、補高便座の高さや手すりの形状を検討しましょう。
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