こんにちは、作業療法士の内山です。
今回は、患者さんのQOLに直結するものの、アプローチに悩むことが多い「呼吸器疾患患者さんのトイレ動作支援」に焦点を当てます。息切れを最小限に抑え、安全なADL自立を目指すための評価とアプローチを体系的に解説します。
呼吸器疾患の基礎知識|なぜトイレ動作で息が切れるのか?
COPDや間質性肺炎などの呼吸器疾患では、ガス交換の効率が低下し、少しの動作でも息切れ(労作時呼吸困難)が生じます。特にトイレ動作は、移動・上肢の上げ下ろし・前屈み・いきみなど、息切れを誘発する動作の連続であり、患者さんにとっては大きな負担となります。
- トイレまでの移動:歩行による酸素需要の増大
- 衣服の着脱:上肢を挙上する動作で呼吸補助筋が腕の固定に使われ、呼吸効率が低下
- 立ち座り・排泄:前傾姿勢やいきみで横隔膜の動きが制限され、腹圧が上昇
これらの動作中の息切れが、さらなる活動低下と不安感を生む悪循環に繋がります。
臨床で必須!呼吸器疾患のトイレ動作評価
安全なアプローチのためには、呼吸機能と運動耐容能を正確に把握することが不可欠です。
- 呼吸機能・酸素化の評価:スパイロメトリーの結果(FEV1等)を確認し、パルスオキシメーターで安静時・労作時の酸素飽和度(SpO2)をモニタリングします。
- 運動耐容能評価:6分間歩行テスト(6MWT)などで、どの程度の活動に耐えられるかを評価します。
- 息切れの主観的評価:mMRC息切れスケールやBorgスケールを用いて、患者さんが感じる息苦しさの程度を数値化します。
- 実際のトイレ動作観察:各工程で「いつ、どんな動作で、どのくらい息切れするか」「呼吸パターンはどう変化するか」「休息は必要か」を詳細に観察します。
支援の核① 息切れをコントロールする呼吸法指導
パニックにならず、息切れを自分でコントロールできる技術を身につけてもらうことが、トイレ動作自立の第一歩です。
- 口すぼめ呼吸
息を吸う時より2倍以上の時間をかけて、口をすぼめてゆっくりと息を吐き出す方法。気道内圧を高め、息を吐きやすくします。全ての動作の基本となります。 - 腹式呼吸
横隔膜を効率的に使う呼吸法。お腹に手を当て、息を吸う時にお腹が膨らみ、吐く時にへこむのを確認しながら練習します。
さらに、これらの呼吸法を動作と組み合わせる「動作と呼吸の協調」(例:立ち上がる時に息を吐く)を指導することが極めて重要です。
支援の核② 無駄な体力消耗を防ぐ「エネルギー保存法」
エネルギー保存法は、限られた体力を効率的に使うための生活の知恵です。具体的な工夫を指導しましょう。
エネルギー保存法の4つの原則
- 動作の簡素化:不要な動きをなくす。例:上着を全部脱がず、肩からずらすだけにする。
- 適切な姿勢の維持:呼吸が楽な姿勢(背筋を伸ばす、肘を体につける)で動作する。
- 計画的な休息(ペーシング):息が切れる前に、各工程の間で30秒〜1分程度の休息を意識的に取る。
- 重力の活用:重力に逆らわず、力を抜いて動作する。
環境設定と酸素療法の考慮
安全な環境を整えることで、呼吸への負担をさらに軽減できます。
- 酸素療法の徹底:在宅酸素療法(HOT)導入中の場合、トイレまでの配管を延長したり、携帯用ボンベを近くに置くなどして、動作中も酸素を吸入し続けられるようにします。
- 座位での動作環境:トイレ内に椅子を置く、シャワーチェアを活用するなど、立位での着替えが困難な場合に座って行える環境を整えます。
- 温度・湿度管理:乾燥や高温多湿は気道を刺激するため、適切な室温(20-24℃)と湿度(40-60%)を保ちます。
- バリアフリー化:移動時の負担を減らすための手すり設置や段差解消も有効です。
【まとめ】呼吸器疾患のトイレ動作支援で大切なこと
- 呼吸器疾患のトイレでの息切れは、上肢挙上や前屈み動作が原因。支援の核は「口すぼめ呼吸」と「腹式呼吸」の習得にある。
- 動作の簡素化、計画的休息(ペーシング)といった「エネルギー保存法」を具体的に指導することで、体力消耗を最小限に抑える。
- 在宅酸素療法の継続や、座位で着替えられる環境整備など、呼吸を楽にするための環境設定が、安全なトイレ自立の鍵となる。
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