長母趾伸筋の機能解剖と臨床評価|理学療法士が教える触診・MMT・歩行への影響

こんにちは、理学療法士の内川です。

臨床でこんな疑問を感じたことはありませんか?

  • 母趾の伸展って、歩行のどの場面で重要なの?
  • 長母趾伸筋と短母趾伸筋、臨床での違いは?
  • 母趾の背屈が弱いと、足関節や歩行にどんな影響が出る?

長母趾伸筋(EHL)は、前脛骨筋・長趾伸筋と並ぶ前脛骨筋群のひとつで、母趾の伸展と足関節の背屈に関与する非常に重要な筋肉です。歩行やスポーツ動作における足部のクリアランス(つまずきにくさ)や推進力に直結するため、臨床での評価・リハビリの対象として欠かせません。

この記事では、長母趾伸筋の機能解剖から具体的な評価、アプローチ方法までを分かりやすく解説します。

1. 長母趾伸筋の機能解剖(起始・停止・作用・神経支配)

長母趾伸筋の解剖図
  • 起始:腓骨前面中央、下腿骨間膜
  • 停止:母趾末節骨底
  • 支配神経深腓骨神経(L4〜L5)
  • 作用
    • 母趾の伸展(MP関節・IP関節)
    • 足関節の背屈(補助)
    • 足部の内反(補助)

2. 長母趾伸筋の評価(触診・MMT)

触診のコツ

長母趾伸筋の触診ポイント1 長母趾伸筋の触診ポイント2 長母趾伸筋の触診ポイント3
  1. 足関節から4〜5横指上方で、脛骨の外側に指を当てます。
  2. 被験者に母趾を背屈(伸展)してもらい、筋の収縮を確認します。
  3. 収縮が分かりにくい場合は、母趾から腱を近位に辿っていくと触知しやすくなります。

MMT(徒手筋力検査)の方法

測定肢位:座位

長母趾伸筋のMMT 段階4,5 長母趾伸筋のMMT 段階2,3 長母趾伸筋のMMT 段階0,1

手順

  1. セラピストは低い椅子に座り、被験者の検査したい側の足部を自分の膝の上に置きます。
  2. 一方の手で踵を軽く固定し、もう一方の手の指で中足骨部分を把持して安定させます。
  3. 被験者に母趾を伸展してもらいます。
  4. 【段階5, 4】母趾の基節骨または末節骨の背側に抵抗を加えます。
  5. 【段階3】抵抗なしで、自動で最大可動域まで伸展できるか確認します。
  6. 【段階2, 1, 0】伸展が困難な場合、母趾中足骨の背側面で長母趾伸筋腱の収縮を触知します。

判定基準

  • 段階5 (Normal):最大抵抗に耐えられる。
  • 段階4 (Good):中等度の抵抗に耐えられる。
  • 段階3 (Fair):抵抗がなければ、重力下で全可動域を動かせる。
  • 段階2 (Poor):重力を除いた肢位で、可動域の一部を動かせる。
  • 段階1 (Trace):筋収縮が触知または目視できるが、関節運動は起こらない。
  • 段階0 (Zero):筋収縮が全くない。

3. 機能低下が引き起こす問題と臨床的影響

  • 歩行への影響
    • 遊脚期:母趾が挙がらず、つまずきや転倒のリスクが増大します。
    • 立脚終期:母趾の伸展(背屈)が不十分だと、前足部からの推進力(フォアフットロッカー機能)が低下します。
  • 足関節背屈制限との関連
    • 長母趾伸筋の機能低下は、足関節全体の背屈力低下に繋がります。
    • 遊脚期での背屈不足により足部クリアランスが低下し、代償として膝関節や股関節の過度な屈曲が生じ、歩行効率の低下や疲労感の増大を招きます。
    • 足関節捻挫などの外傷後では、長母趾屈筋や足底方形筋との筋バランスが崩れ、背屈可動域制限や足部の不安定性を助長することがあります。
  • 神経障害
    • 深腓骨神経麻痺やL4–L5レベルの腰椎神経根障害で、早期に筋力低下が現れやすい代表的な筋肉です。
    • そのため、母趾の背屈不全は腰椎疾患の鑑別所見としても非常に重要です。

4. 長母趾伸筋へのアプローチ(リリース・ストレッチ)

  • リリース方法
    • 触診と同様に、下腿遠位の脛骨外側で長母趾伸筋を捉え、圧を加えながら被験者に深呼吸をしてもらいます。呼気時に筋が緩むのを感じながら、ゆっくりと圧を深めていきます。
  • ストレッチ方法
    • 足関節を底屈させ、さらに母趾を屈曲方向に他動的に動かすことで、長母趾伸筋を効果的に伸張できます。

5. 臨床ちょこっとメモ|L4/L5神経根障害との関連

臨床での重要ポイント

  • 母趾の背屈筋力は、L4/L5神経根障害を評価するための重要なチェックポイントです。腰痛や下肢の痺れを訴える患者さんには必ず確認しましょう。
  • 足関節の捻挫後や、長母趾屈筋など足趾屈筋群の過緊張により、相反抑制で長母趾伸筋の機能が低下しているケースも少なくありません。
  • 歩行分析では、「立脚後期から遊脚初期にかけて、母趾がしっかり伸展しているか」を観察することが、クリアランス評価の重要な視点となります。

6. まとめ

今回は、長母趾伸筋の機能と評価、臨床的な意義について解説しました。

長母趾伸筋の重要ポイント

解剖と特徴

  • 起始・停止:腓骨前面中央 → 母趾末節骨底
  • 神経支配:深腓骨神経(L4, L5)
  • 作用:母趾伸展、足関節背屈(補助)
  • 歩行での役割:遊脚期のクリアランス確保、立脚終期の推進力に関与。

評価とアプローチ

  • 触診:下腿遠位の脛骨外側で、母趾を伸展させて収縮を確認。
  • MMT:座位で母趾の伸展運動に対して抵抗を加え、筋力を5段階で評価。
  • アプローチ:筋腹のリリースや、足関節底屈+母趾屈曲でのストレッチが有効。

機能低下の影響

  • 歩行:つまずき、転倒リスク増大、推進力低下。
  • 神経:L4/L5レベルの神経根障害の指標となる。

たかが親指と侮らず、長母趾伸筋の機能を正しく評価し、アプローチすることが安全で効率的な歩行の再獲得に繋がります。

今回解説したのは、あくまでも筋単体の知識です。実際の臨床では、周囲の筋(中殿筋、大腿直筋など)との関係性や、深さ(層)を考慮した三次元的なイメージが不可欠です。

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