こんにちは、理学療法士の内川です。
- 「中殿筋は外転筋…という知識はあるけど、前部線維と後部線維の役割までしっかり説明できる?」
- 「歩行での役割は何となく知っているけど、荷重位と非荷重位でどう働きが違うの?」
- 「外転筋トレーニングを指導しても、なかなか股関節の安定性が改善しない…」
こうした疑問は、臨床で中殿筋の評価やアプローチを行う際によく直面するものです。実は、中殿筋は前部・中部・後部線維で機能が異なり、漠然と「外転筋」として捉えてしまうと、効果的な介入が難しい場合があります。
この記事では、中殿筋の機能解剖から荷重位・非荷重位での役割の違い、そして臨床で明日から使える評価・アプローチ方法まで、網羅的に整理していきます。
目次
1. 中殿筋の機能解剖と作用

- 起始:腸骨外側面(前殿筋線と後殿筋線の間)
- 停止:大腿骨大転子外側面
- 支配神経:上殿神経(L4~S1)
線維別の作用
中殿筋は一枚の筋肉ですが、線維の走行によって主に3つのパートに分けられ、それぞれ異なる作用を持ちます。
- 前部線維:股関節の外転・屈曲・内旋。特に非荷重位での内旋時に活動が最も高まります。
- 中部線維:股関節の純粋な外転が主作用。内旋時にも一定の活動を示します。
- 後部線維:股関節の外転・伸展・外旋。非荷重位では外旋で活動が高まりますが、荷重位では運動方向に関わらず股関節の安定化に大きく寄与します。
全体の作用としては、股関節の外転、歩行立脚期における骨盤の側方傾斜防止(骨盤の安定化)が最も重要です。
2. 中殿筋の評価方法(触診・MMT)
機能解剖を理解したら、次は正確に評価する技術が必要です。ここでは触診とMMTのポイントを解説します。
触診方法
- 側臥位をとり、ASIS(上前腸骨棘)、PSIS(上後腸骨棘)、大腿骨大転子を触知します。
- これらのランドマークを基準に、中殿筋の全体の中心部を触知した状態で股関節外転運動を行ってもらい、筋収縮を確認します。
より詳細に線維を触知し分けるには、以下の部位を意識します。
 ・前部線維:ASISの後外方
 ・中部線維:腸骨稜の直下
 ・後部線維:PSISの外側から大転子後方にかけて
MMT(徒手筋力テスト)
段階5、4、3の方法
 
  
 
- 測定肢位:側臥位。テストする側の下肢を上にし、下側の下肢は安定のため股関節・膝関節を屈曲します。
- 基本肢位:股関節を中間位より軽度伸展し、骨盤を軽度前方に回旋させた位置から開始します。
- 抵抗:段階5では足関節外側、段階4では大腿外側に抵抗を加えます。
【判定】
- 5 (Normal):最大抵抗に耐えられます。
- 4 (Good):中等度〜強度の抵抗に耐えられます。
- 3 (Fair):抵抗がなければ、重力下で全可動域を動かせます。
MMT実施時は、大腿筋膜張筋(TFL)による代償(股関節屈曲・内旋)や、腰方形筋・腹斜筋による代償(骨盤挙上)が起きていないかを必ず確認しましょう。正確な評価には代償のコントロールが不可欠です。
 
 
段階2、1、0の方法

- 測定肢位:背臥位。重力を除去した肢位で行います。
- 方法:検者はテスト側の足部を支え、床との摩擦を減らしながら、膝蓋骨を天井に向けたまま股関節外転するように指示します。もう一方の手で中殿筋の収縮を触知します。
【判定】
- 2 (Poor):重力除去下で、全可動域を動かせます。
- 1 (Trace):筋収縮は触知できますが、関節運動は起こりません。
- 0 (Zero):筋収縮が全く触知できません。
線維別の評価
中殿筋全体の筋力だけでなく、各線維の機能を個別に評価することも重要です。
- 前部線維の評価:股関節外転+軽度屈曲+内旋位で抵抗を加えます。
- 後部線維の評価:股関節外転+軽度伸展+外旋位で抵抗を加えます。
3. 中殿筋の機能低下がもたらす影響
中殿筋の機能低下は、歩行や片脚立位など、様々な動作に深刻な影響を及ぼします。
- 歩行での骨盤安定性低下:立脚中期に支持側の中殿筋が十分に機能しないと、反対側の骨盤が下がる「トレンデレンブルグ徴候」が生じます。これを代償するために体幹を患側に傾けるのが「デュシェンヌ歩行」です。
    
- 前部線維の機能低下:股関節の内旋・屈曲動作が不安定になり、歩行や階段昇降での推進力が低下します。
- 後部線維の機能低下:股関節の伸展・外旋動作が不安定になり、特に片脚立位や方向転換動作の安定性が低下します。
- 線維間のアンバランス:特定の線維の弱化は、代償として大腿筋膜張筋(TFL)や腰方形筋の過活動を引き起こし、結果として股関節や腰椎への負担を増大させる原因となります。
4. 中殿筋への具体的なアプローチ
評価で特定した問題点に対し、効果的なアプローチを行います。
リリース
過緊張状態にある場合は、まず筋の緊張を緩和させます。触診で特定した圧痛点(トリガーポイント)や硬結部を持続的に圧迫しながら、患者に深呼吸を繰り返してもらうことで、筋のリリースを促します。
筋力強化
単に外転運動を繰り返すのではなく、弱化している線維を狙ってトレーニングを行うことが重要です。
- 線維別のトレーニング:MMTの評価肢位を応用します。前部線維を狙うなら「外転+内旋」、後部線維を狙うなら「外転+外旋」の運動を行います。負荷が軽い場合は、セラバンドなどを用いて抵抗を加えます。
- 片脚立位保持:特に荷重位での安定性に重要な後部線維の活動を促進します。バランスディスクなど不安定な支持面で行うと、さらに効果的です。
- サイドランジ:荷重下で股関節の安定性を高める実践的なトレーニングです。
5. 臨床ちょこっとメモ【臨床力UPのヒント】
- 後部線維は荷重位において、運動方向に関わらず常に活動し、大腿骨頭を臼蓋に引き付ける「求心位」を保つ重要な役割を担っています。
- 中殿筋トレーニングは、単なる「外転」だけでなく、「どの線維を、どの方向で、どの肢位で鍛えるか」を意識するだけで効果が大きく変わります。
- 股関節疾患(変形性股関節症など)やFAI(大腿骨寛骨臼インピンジメント)の術後では、特に前部線維の機能低下が残存しやすい傾向があります。意図的な運動学習と再教育が重要です。
- 大腿筋膜張筋(TFL)の過活動を抑制するためには、中殿筋(特に後部線維)の機能を高めると同時に、骨盤のアライメント制御(例:骨盤後傾位でのトレーニング)と股関節を正中位に保つ意識付けがポイントになります。
6. まとめ
今回は、臨床で重要となる中殿筋について、機能解剖から評価、アプローチまでを解説しました。最後に要点を振り返りましょう。
機能解剖
- 前部線維:外転+屈曲+内旋
- 中部線維:純粋な外転
- 後部線維:外転+伸展+外旋(荷重位では安定化に大きく寄与)
評価
- 触診で前・中・後の線維を触知し分ける。
- MMTではTFLや腰方形筋による代償動作に注意する。
- 弱化が疑われる線維に合わせた肢位で選択的に評価する。
機能低下の影響
- 全体的な筋力低下はトレンデレンブルグ徴候を引き起こす。
- 線維間のアンバランスは代償パターンを助長し、二次的な問題(腰痛など)につながる。
アプローチ
- 評価に基づき、弱化している線維を狙った選択的なトレーニングを行う。
- 非荷重位でのトレーニングだけでなく、荷重位での安定性を高める運動(片脚立位など)を取り入れることが重要。
今回解説したのは、あくまで中殿筋単体の機能です。実際の臨床では、周囲の筋(大殿筋、小殿筋、TFL、深層外旋六筋など)との関係性や、運動連鎖を考慮した評価・アプローチが求められます。
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