- 関節の「詰まり感」の一因として、関節面での滑り・転がりなどの副運動や関節内運動の異常が生じ、インピンジメントを起こしているケースがあります。
- 臨床的に詰まり感がよく問題となるのは肩、股関節、足関節、膝関節、胸鎖関節などですが、その発生には骨形態・軟部組織・運動制御など多くの要因が関与します。
- 無理に終末域へ押し込むのではなく、症状とエンドフィールから要因(関節由来・筋由来・構造的障害など)を評価し、適切なアプローチで関節内運動と筋機能を整えることが重要です。
関節の「詰まり」ってなんだ?
臨床で、こんな事ありませんか?
- ストレッチしてるつもりなのに、伸びる感覚が無い、詰まる感じといわれる
- エンドフィールがわからん!!
- 可動域訓練しても効果が出ない
- 何故そのアプローチしてるか自信が無い
- 主動作筋と拮抗筋ってどうゆう事?
患者様からよく言われる「詰まって痛いから動かしたく無い」。今回は臨床で頻発の、そんな詰まり感についてお話しします。
運動学で観るインピンジメント
「構成運動」と「副運動」
腕を上げたり膝を曲げたりする目に見える動きは「関節運動」と呼ばれます。その際に関節の中では「構成運動(生理的運動)」と呼ばれる動きが起こっています。
しかし、この動きをスムーズに行うためには、関節面の中で起こる無意識の動き、すなわち「副運動(関節の遊び)」が不可欠です。
「詰まり感」の一因として、関節面での滑り・転がりなどの副運動や、関節内運動の異常が生じているケースが考えられます。
「転がり」と「滑り」の必要性
関節面は、多くの場合「凸型」と「凹型」の組み合わせ(凹凸の法則)で成り立っています。例えば肩や股関節を動かすとき、骨の端では以下の2つの動きが同時に起こります。
- 転がり(Rolling): 骨頭が運動方向(上)に転がる
- 滑り(Gliding/Sliding): 骨頭が下にスライド
もし「転がり」だけが起きると、骨の端が関節の受け皿から外れそうになったり、周囲の組織に衝突したり、挟み込んだりします。それを防ぐために、逆方向への「滑り」がセットで起こることで、関節は常に「求心位」を保ったままスムーズに回転できる仕組みになっています。
【寝返りで例えると…】
広いプラットフォームで寝返りする → 転がりだけ
狭いベッドでの寝返り → 落ちない様に身体を引きながら寝返る(転がり+滑り)
なぜ「インピンジメント」は起きるのか
インピンジメントとは、関節を動かした際に骨と骨、あるいはその間の軟部組織(腱板や滑液包)が挟み込まれてしまう現象です。
メカニズム的には、何らかの理由(筋肉の硬直や姿勢の崩れ)で「滑り」の動きが制限されると、骨が正しい軌道から外れます。
結果として、関節包や靭帯がピンと張り詰め、余裕(遊び)がなくなった状態で骨同士が接近します。これが「ぐにゅ」という詰まり感や、鋭い衝突痛を引き起こす一因となります。

詰まりを解消するには
関節の「詰まり」や「インピンジメント」を深く理解するためには、私たちが意識して行う「屈曲・伸展」といった動きの奥で起きている、ミクロな動きに目を向ける必要があります。
「詰まり」を感じる方向に無理に押し込むのは、衝突を悪化させるだけです。重要なのは、失われた「副運動(特に滑り)」を取り戻し、正しい動きである「構成運動」を促すことです。
関節周囲の組織をリリースし、骨が本来の軌道で「滑りながら転がる」環境を整えることが、機能不全脱却への近道となります。
臨床で問題になりやすい関節の特徴
臨床的に「詰まり感」や「インピンジメント症状」がよく問題となるのは、以下の5つの関節です。ただし、その発生には単なる関節の形状だけでなく、骨形態・軟部組織・運動制御など多くの要因が関与します。
1. 肩関節(肩甲上腕関節)
もっともインピンジメントという言葉が使われる部位ですね。構造的に肩甲骨の肩峰の下を、上腕骨がくぐり抜ける作りをしています。
詰まるメカニズムの一例として、腕を上げる際、上腕骨頭が下方に「滑り」ながら回転しなければなりませんが、肩のインナーマッスルが硬いと「転がり」ばかりが強くなり、肩峰周辺の組織と衝突しやすくなります。
2. 股関節
「詰まり感」を訴える人が非常に多い部位です(FAIなども代表的です)。
- 構造としては深い寛骨臼に、球状の大腿骨頭がはまり込んでいます。
- 屈曲時、大腿骨頭は後ろ側に「滑る」必要があります。お尻の奥の筋肉が硬かったり、前側の組織が縮んでいたりすると、この滑りが起きず、股関節前方で組織が挟み込まれるケースがあります。
3. 足関節
「深くしゃがめない」原因としてよく挙げられます。
- 構造的には脛骨・腓骨が、足の骨(距骨)を上からまたいでいる構造です。
- 背屈時に距骨が後ろ側へスッと滑り込みます。後方の軟部組織が硬いとこの滑りが阻害され、足首の前側で詰まりを感じやすくなります。
4. 膝関節
「膝が伸びきらない」「曲げると裏や前が詰まる」という感覚が代表的です。
- 構造:大腿骨の丸い端と、脛骨の平らな面が接しています。
- 膝屈曲時、大腿骨は脛骨の上を「後方に転がりながら、前に滑る」。この前方への滑りが不足すると、膝の裏にある組織を圧迫して「裏側の詰まり」を感じることがあります。
- 逆に膝を伸ばす時には、脛骨がわずかに外側に回る構成運動が必要です。これが阻害されると、ロックされたような「伸びきらない詰まり」が生じます。
5. 胸鎖関節
胸鎖関節の「詰まった感」、主な原因の一つに「鎖骨の動きの制限」があります。
- メカニズム(巻き肩・猫背パターン):肩が内側に入ると、鎖骨が前方に押し出されたり、逆に深く埋まり込んだりして、関節の遊びが少なくなることがあります。
なぜこの5つでよく訴えがあるのか?
これら5つの関節の機能不全において共通して観察されるのは、「骨の凸面が凹面の中で転がりながら滑る」という精密な副運動が破綻しているケースが多い点です。
- 肩・股関節: 球関節(自由度が高い分、運動制御の乱れが影響しやすい)
- 足関節: ほぞ継ぎ構造(遊びが少ない分、滑りがないとすぐ衝突感に繋がる)
- 膝、胸鎖関節: 半月板、脂肪体、関節円板が介在し干渉しやすい。
半月板は、転がりと滑りの動きに合わせて形を変えながら移動します。この移動がスムーズにいかないと、物理的な詰まりに繋がります。
脂肪体の柔軟性低下により関節のスペースが奪われ、鋭い詰まり感や痛みを引き起こすこともあります。
評価→アプローチ→再評価
無理に終末域へ押し込むのではなく、まず問診とエンドフィールにより、症状が関節由来か、筋由来か、あるいは構造的障害などその他の要因かを適切に評価・分類することが極めて重要です。
【関節の問題が疑われる場合】
凹凸の法則に則って動いているかを観察します。
モビライゼーション → 副運動(関節内運動)の改善
可動域訓練 → 構成運動の促通
の順にアプローチし再評価します。
【筋の問題が疑われる場合】
リリース → 筋不全の改善
促通 → 滑走の改善
自動運動 → 筋活動の改善(筋の長さ変化)
両者を組み合わせて観察することで、単なる可動域制限なのか、炎症や構造的障害(骨形態異常や腱板断裂など)が関与しているのかを推測でき、予後予測やリスク管理にも直結します。
同じ可動域訓練を行うならば効果が出る方が良いですよね?
この観察、評価、アプローチの方法をお伝えします。
[今回のまとめ]
関節の詰まり、インピンジメント
- 事実 → 関節面の不一致
- 解釈 → 副運動の低下、構成運動(主に滑り)の異常
- 行動 → 副運動:モビライゼーション、構成運動:可動域訓練
筋の詰まり
- 事実 → 関節運動と筋活動の不一致
- 解釈 → 主動作筋の滑走不全
- 行動 → リリース(不全の改善)、促通(滑走の改善)、自動運動(筋活動の改善)
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