こんにちは!
モーションアナライシスコース講師の吉田頌平です。
前回と前々回のコラムで、ADLは「寝返り〜起き上がりがあってこそ」という点を見落としがちであることと、まずADLを遂行する指標として「動作中に体幹を回旋できること」「肩関節、股関節の屈曲・伸展動作がスムーズにできること」をチェックすることをお伝えしました。
特に介助量が多くて、「できれば自分でやりたい!」との要望が利用者さん・ご家族さん・医療従事者それぞれから多く寄せられやすい『食事』と『トイレ動作』では、安定した座位保持がキーポイントのひとつとなりますよね。
そこで今回は、安定した座位保持を目指す際に必要な、「座位でのスクリーニング評価」について考えていきたいと思います。
座位保持の動作分析 – スクリーニング評価 –
▼目次
2. 前に倒れるのは、股関節の自動屈曲ができなかった結果
3. 頭を支えるために必要な要素を引き出す「股関節スクリーニング評価」
4. すばやくADLを評価するコツは?
5. 終わりに
6. 講習会情報
安定した座位保持のためには、頭を安定させることが必須
骨盤前傾の獲得と、転落防止策
座位を安定させる可能性があり、もっとも介入の対象として観察しやすいターゲット、すなわち「骨盤」。座位姿勢の評価において、どんな骨盤の動きが存在するのかを考え、いかに骨盤の動きを再現できるかの戦略を立てることが重要です。しかし、これは簡単なことではありません。
座位を崩すことなく骨盤を動かすためには、その場でしなやかな腰椎の前弯と股関節屈曲を発生させつつ、からだが前に倒れないように体を支える必要があります。また、いったん骨盤を動かせたとしても、そのあと頭から前につんのめって身体が倒れ「転落」につながってしまうことも多々あります。
座位作業時の転落防止策として行われることといえば、テーブルを前に置いて上肢で上体を支持する方法や、肘掛けの使用、足底接地の促しなどが挙げられますが、まずはこういった基本的な項目をクリアして、頭の位置を安定させていくことが大切です。
対策に見合う成果が得られなくなったら……?
しかし基本的な部分がある程度まで改善されると、それ以上環境面からの改善困難という壁にぶち当たることがあります。多くの労力を注いで対策を打っても十分な成果が見られなくなったら、一度立ち止まって考えるべきことがあります。
その対策は、本当に生活動作に活かせるものだと言い切れますか?
その対策は、本当に利用者さんが求めているものですか?
この問いかけに対して、自信をもって「YES!」と答えられる場面は多くはないのではないでしょうか? なぜ言い切れないのか、その原因を紐解いていきましょう。
前に倒れるのは、股関節の自動屈曲ができなかった結果
これまでの主流は「局所的な座位保持」と「外見上は安定した状態を保つこと」
上記のような座位姿勢の改善方法のポイントを大きく分けると、「局部的な姿勢支持」と「外見上は安定した状態を保つこと」の2つに集約できるといえます。
トイレの便座には背もたれがなく、寄りかかれる肘掛けが必ずあるわけではありません。そのため、手すりや介助者の身体を使って身体を支える場面が出てきます。ご存知の通り、排便の際は「適度に腹圧を高める」必要があり、そもそも自力で座位を保つだけの筋力を全身で保てなければ腹圧を高めることは難しいため、ひとによっては、下剤を服用したり腹部マッサージを受ける場合もあるでしょう。これらの対策はすぐに目に見える効果が表れますが、その反面、効果はすぐに薄まるうえ、ADLの自立には影響しません。なぜなら、その瞬間になんとか排泄を行うためだけの対策にすぎず、根本にある「自力で姿勢を保つこと」が解決されないまま限りなく局部的な介入しかできない対策だからです。これが「局部的な姿勢支持」です。
先ほど、いったん骨盤を動かせたとしても、そのあと頭から前につんのめって身体が倒れ「転落」につながってしまうことも多々あるとお伝えしたように、そもそも座位保持に必要な根本原因は股関節 屈曲肢位が保てず、頭の位置を安定できないことにあります。
重心線が通過するラインから考えてみると、確かに骨盤を前傾させる能力は必要です。
ただし重要なのは「骨盤をさせる力を維持できること」であり、骨盤が前傾位であればオッケーというわけではありません。ROMexでいえば、パッシブ(受動的)ではなくアクティブ(能動的)な動きがまず骨盤に求められる、ということです。
つまり、外見上は骨盤 前傾位の状態を保て、安定しているように見えていても、頭が前に突き出した状態で座位を保っているようだと作業に適した座位姿勢としては効果を発揮しないということです。
(そういえば先日、大塚委員長が骨盤の前傾について記事を上げておられましたね。→大腰筋のアプローチで円背傾向の姿勢を改善する)
作業中に分析した利用者さんの座位姿勢は、あくまで「仮説」
療法士が利用者さんの作業中の座位を観察して残るのは、座位姿勢全体の安定感と、作業中の不安定感の情報だけ座位姿勢へアプローチするための対策を考えるときには、座位姿勢を分析することで「なぜ安定感が得られないのか」の仮説を立てるほかありません。
もちろん、座位姿勢の観察だけで正解に近い答えを導き出すこともあります。ただ、それには多くの時間や経験が求められますし、ときには経験則から間違った仮説を生んでしまうこともあります。観察から導き出した仮説は、これまで利用者さんから得られた情報を積み重ねた「仮説」であって、作業時にも座位姿勢が安定する“本質”を反映させたものではありません。
すなわち、利用者さんの座位姿勢のうち環境面の調整を含め骨盤の前傾角度にだけこだわって観察・介入しても改善できない、ということです。
では、どうすれば座位が安定しない人たちの姿勢を素早く“評価”することができるのでしょうか?
これに対する一つの解決策が、座位で前屈をする「股関節屈曲のスクリーニング評価」です。
頭を支えるために必要な要素を引き出す「股関節スクリーニング評価」
スクリーニング評価で見るべきポイント
では、スクリーニング評価でどんな分析を行うのか、具体的にどんなことが知れるのか、代表的な観点を4つご紹介します。
1. 骨盤を前傾できない要因がわかる
座位を保てない方の多くは、骨盤を前傾させること自体が難しい状況です。その要因が股関節の可動域制限によるものなのか、骨盤を前傾させるだけの筋出力がないのか、骨盤を触診しながら前屈してもらうことで評価できます。
2. 身体支持が行えない理由がわかる
前屈してもらったあとに、自分で身体を起こせるかを観察します。このとき、手の力を使わないと起こせない場合は広背筋や脊柱起立筋、そして実は大臀筋上部繊維などの体幹伸展筋が作用していないことがわかります。
つまり、姿勢を保持できない背景や理由を分析していくきっかけを考えることができます。
3. 次に狙うべきターゲットが見えてくる
骨盤の動き自体は出るけれど、身体を起こすときに後ろへ勢いよく寄りかかったりする場合には、股関節・体幹の筋出力が得られていないと分析できます。また、骨盤自体が動かない場合は股関節の屈曲動作が制限されていると考えられます。つまりは、骨盤からの股関節 屈曲動作ができるかどうかで次に狙うべきターゲットを絞ることができ、本当にアプローチすべき問題点をあぶり出すことができるということです。
すばやくADLを評価するためのコツは?
ということで、座位が安定しない場合には
・体幹から股関節を屈曲するように動かせているか?
の1つに絞って観察してみると、
『体幹の問題』なのか、『股関節の問題』なのかを見やすくなりますよ!
座位での股関節の動きについては、次回お伝えしますね。
ちなみに…実は寝返り動作をみれば、座位保持に必要な動作を解釈しやすくなりますよ。
寝返り動作の具体的な視点については、以下のコラムをご参照ください。
- 寝返りって、利用者さんが自分で起きたいと思いつつも、院内のリスク管理の為に行動制限される「自立と依存の境界線になる説」[療法士に必要なセルフエクササイズの考え方~その64~]
- 股関節が持つ2つの動き、2つの意味とは?[療法士に必要なセルフエクササイズの考え方~その63~]
- 『寝返り動作』を分析したことのなかった僕が、患者さんと寝返りできるようになるために悩み続けたこと[療法士に必要なセルフエクササイズの考え方~その61~]
- 寝返りに必要な脊柱の動きって??[療法士に必要なセルフエクササイズの考え方~その60~]
- 仰臥位から寝返りができない時は?どんな代償パターンがあるのか考えてみました[療法士に必要なセルフエクササイズの考え方~その59~]
終わりに
これまでは座位姿勢を全体的に観察し、見えている現象を解決するようなやり方が行われてきました。しかし、動作分析で問題のひとつひとつを明確にすることで、改善したい問題点をつなぎ合わせて考えていくことができ、線でつながった考察・介入へと変化行きます。座位姿勢の安定化に向けた考察・介入に限界を感じてきたら、一度試してみてください。
より正確で、より詳細で、より精度の高い改善方法を提案していきたいですね!
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「Motion Analysisコース」では、これまでBasic, Assessmentコースで学んできた触診技術と評価方法を活用して、寝返り動作を分析し介入できるようになります。生活の自立のベースとなる寝返り動作から、介入するべき問題点を素早く見つける眼と手を養う。それが「Motion Analysisコース」です。
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動作分析が苦手…と思う方の苦手意識が
少しでも「楽しい!」に近づきますように。
ありがとうございました。
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・立ち上がる時に必要な、股関節と骨盤帯の連動の仕組み
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必要な動作分析の視点と、段階的な自主トレ(セルフエクササイズ )の構築方法、
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わからない部分は、いつでも質問できるところも
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療法士活性化委員会
認定講師 吉田 頌平
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