【理学療法士・作業療法士・学生向け】股関節安定の要「深層外旋六筋」- 解剖・作用から評価・アプローチまで徹底解説

深層外旋六筋の解剖と機能を徹底解説! 〜学生・新人理学療法士、作業療法士のためのスキルアップガイド〜

こんにちは。理学療法士の内川です。

今回は、股関節の安定において非常に重要な役割を果たす「深層外旋六筋(しんそうがいせんろっきん)」について、その解剖学的特性から評価、具体的なアプローチ方法に至るまで、詳細に解説します。

この記事を通じて解消が期待できる疑問点
  • 「股関節の外旋に関わる筋は多数存在するが、深層外旋六筋それぞれの具体的な役割や差異について整理したい。」
  • 「梨状筋以外の深層外旋筋についての知識を深め、臨床での観察眼を養いたい。」
  • 「深層外旋六筋の機能が、歩行や片脚立位といった動作時の股関節安定性にどのように寄与するのかを理解したい。」
  • 「学習した解剖学・運動学の知識を、臨床場面や実習でどのように応用すればよいか具体例を知りたい。」

この記事を通じて、これらの疑問点を解消し、臨床や学習における理解を深める一助となれば幸いです。

深層外旋六筋は、6つの個別の筋から構成され、それぞれが特有の機能を有しています。特に、肢位(体の位置や姿勢)によって各筋の力源としての役割が変化する点は臨床上重要です。そして、これら6筋が協調して働くことで、股関節の精巧な安定性が実現されます。

本記事では、深層外旋六筋の解剖学的特徴に焦点を当て、それが臨床での評価やアプローチ選択にどのように結びつくのかを、論理的に解説していきます。

目次

  1. 深層外旋六筋の全体像:解剖学的配置と主要機能
  2. 各筋の個別解説:起始・停止、支配神経、肢位による作用変化
  3. 臨床的評価の着眼点:肢位の違いによる筋活動の差異の理解
  4. 作用機序に基づく効果的なアプローチ法
  5. 機能不全が及ぼす影響:臨床症状との関連性
  6. 総括:深層外旋六筋の理解と臨床応用
  7. 参考文献

1.深層外旋六筋の全体像:解剖学的配置と主要機能

深層外旋六筋は、股関節の深層に位置する6つの筋群であり、梨状筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上双子筋、下双子筋、大腿方形筋から構成されます。これらの筋群の主要な機能は、股関節の外旋運動と、関節の安定化にあります。特に股関節伸展位での外旋モーメントの生成や、荷重時における大腿骨頭の臼蓋への求心位保持に重要な役割を担います。

近年の報告によれば、梨状筋、上双子筋、下双子筋、内閉鎖筋は関節包や関連靭帯に線維性の連結を持つとされており、これらの筋収縮が関節包・靭帯の張力を調整し、股関節後方の機械的安定性に寄与する可能性が示唆されています。

股関節深層外旋六筋の解剖学的配置(後面観)

図:股関節深層外旋六筋(後面観)。骨盤と大腿骨を連結し、股関節の深部を支持している様子が確認できます。

2.各筋の個別解説:起始・停止、支配神経、肢位による作用変化

深層外旋六筋の各々は、起始、停止、神経支配が異なり、特に重要なのは肢位による作用の変化です。これらの詳細な理解は、より正確な臨床推論を行う上で不可欠です。

梨状筋 (Piriformis)

  • 起始:仙骨前面
  • 停止:大転子上縁
  • 支配神経:仙骨神経叢 (S1-S2)
  • 作用と臨床的意義:
    • 股関節0°屈曲位(中間位):外旋
    • 重要:股関節90°屈曲位では内旋作用へと変化します。この作用の逆転現象は臨床上考慮すべき点です。
    • 股関節60~75°屈曲位:股関節伸展・外転作用が主となります。

補足:梨状筋下孔を坐骨神経が通過する解剖学的関係から、梨状筋の過緊張や炎症が坐骨神経症状(いわゆる梨状筋症候群)を誘発する場合があります。

内閉鎖筋 (Obturator Internus)

  • 起始:閉鎖膜内面、閉鎖孔周縁
  • 停止:転子窩
  • 支配神経:仙骨神経叢 (L5-S2)
  • 作用と臨床的意義:
    • 股関節0°屈曲位(中間位):外旋作用が主。
    • 股関節90°屈曲位:外転作用が主となります。

外閉鎖筋 (Obturator Externus)

  • 起始:閉鎖膜外面、閉鎖孔周縁
  • 停止:転子窩
  • 支配神経:閉鎖神経 (L3-L4)。深層外旋六筋で唯一、異なる神経支配を受けます。
  • 作用と臨床的意義:
    • 基本作用として外旋
    • 股関節0°屈曲位(中間位):内転作用も有します。
    • 股関節屈曲角度増大に伴い、伸展作用、さらに外転作用へと変化する特性があります。

上双子筋 (Gemellus Superior) & 下双子筋 (Gemellus Inferior)

  • 上双子筋起始:坐骨棘
  • 下双子筋起始:坐骨結節
  • 共通停止:内閉鎖筋腱に合流し転子窩へ
  • 共通支配神経:仙骨神経叢 (L5-S1)
  • 共通作用:股関節外旋。内閉鎖筋の作用を補助する形で機能します。

大腿方形筋 (Quadratus Femoris)

  • 起始:坐骨結節
  • 停止:転子間稜
  • 支配神経:仙骨神経叢 (L4-S1)
  • 作用と臨床的意義:
    • 強力な外旋筋の一つです。
    • 股関節屈曲位・中間位(0°屈曲位)ともに、股関節伸展作用を有します。

学習のポイント:各筋の解剖学的情報(起始・停止・支配神経・作用)は、国家試験や臨床推論の基礎となります。解剖図を参照し、三次元的なイメージと共に記憶することが推奨されます。

3.臨床的評価の着眼点:肢位の違いによる筋活動の差異の理解

深層外旋六筋の機能を評価する上で、股関節の角度(肢位)によって各筋の活動様式が変化するという原則を理解しておくことが極めて重要です。これにより、特定の筋群の機能低下を選択的に推察することが可能になります。

評価の基本戦略:股関節屈曲位と伸展位における外旋機能の比較

  • 股関節屈曲位(約60°~90°)での外旋機能評価:

    この肢位では、大殿筋上部線維、中殿筋・小殿筋後部線維、そして梨状筋は股関節外旋への力学的貢献が低下、あるいは内旋に作用します。そのため、この肢位における外旋機能は、主に梨状筋以外の深層外旋筋(例:内閉鎖筋、大腿方形筋)の活動を反映すると考えられます。

    股関節屈曲位での外旋運動時における筋活動の概念図 股関節屈曲位で活動が期待される主な外旋筋の模式図

    図:股関節屈曲位での外旋。梨状筋の外旋への寄与は限定的となる肢位です。

  • 股関節伸展位(0°、中間位)での外旋機能評価:

    この肢位では、深層外旋六筋を含むほぼ全ての股関節外旋筋群が効率的に活動できるため、股関節の全体的な外旋能力を評価するのに適しています。

    股関節伸展位での外旋運動時における筋活動の概念図 股関節伸展位で活動が期待される主な外旋筋の模式図

    図:股関節伸展位での外旋。多くの外旋筋が協調して機能する肢位。

臨床推論の展開:
仮に、股関節屈曲位における外旋機能が、伸展位と比較して著しく低下している場合、それは大殿筋下部線維、内閉鎖筋、外閉鎖筋、大腿方形筋といった、屈曲位でも外旋に貢献する深層筋群の機能不全をより強く示唆する所見と言えます。この識別が、的確なアプローチ選択の根拠となります。

4.作用機序に基づく効果的なアプローチ法

評価結果に基づき、特定の深層外旋筋群に対して選択的に介入するためのエクササイズ例を提示します。ここでも肢位の選択が効果を左右する鍵となります。

側臥位股関節外旋運動(クラムシェルエクササイズの応用)

側臥位での股関節外旋エクササイズ(クラムシェル)の実施図
  • 実施方法:
    1. 側臥位をとります。
    2. 両股関節を約60°~90°屈曲、両膝関節を約90°屈曲位とします。両足部は軽く接触させておきます。
    3. 上方の膝を天井方向へゆっくりと挙上させ、股関節を外旋します。
  • 重要な留意点:運動中、骨盤の後傾や体幹の回旋といった代償運動が生じないよう、体幹を固定し股関節単独の運動を促すことが重要です。セラピストは骨盤の動きを触診等で監視することが望ましいです。
  • 主な対象筋:この肢位での股関節外旋は、主に大殿筋下部線維、内閉鎖筋、外閉鎖筋、大腿方形筋などの活動を促します(前述の通り、この肢位では梨状筋の外旋への直接的な貢献は比較的小さくなります)。

腹臥位股関節外旋運動(ハムストリングスによる代償の抑制)

腹臥位での股関節外旋エクササイズの実施図1 腹臥位での股関節外旋エクササイズの実施図2
  • 実施方法:
    1. 腹臥位をとります。
    2. 対象となる側の膝関節を90°屈曲させます。
    3. 股関節は0°(中間位)とし、下腿が床面に対して垂直になるようにコントロールしつつ、わずかに股関節を軽度外旋位(足部がやや外方を向く程度)に設定します。
    4. その初期外旋位から、さらに股関節を外旋する(下腿を内方へ倒す)運動をゆっくりと実施します。
  • アプローチ上の工夫:内側ハムストリングス(半腱様筋、半膜様筋)は、股関節内旋位からの外旋運動において活動しやすい傾向があります。あらかじめ股関節を軽度外旋位に設定することで、これらの筋による代償運動を抑制し、より選択的に深層外旋六筋への刺激を集中させることを意図しています。

臨床実践のヒント:対象者の状態や能力に応じて運動負荷(回数、セット数、抵抗など)を調整し、常に正しいフォームでの実施を優先してください。運動指導の前に、セラピスト自身が各運動の目的と正しい動きを正確に理解しておくことが不可欠です。

5.機能不全が及ぼす影響:臨床症状との関連性

深層外旋六筋の機能不全は、股関節局所の問題に留まらず、隣接関節や全身の運動機能にも広範な影響を及ぼす可能性があります。以下に代表的な影響を挙げます。

  • 股関節不安定性:特に荷重下での動作(歩行、階段昇降、ランニングなど)において、股関節後方または後外側方向の不安定性が顕在化しやすくなります。これは、大腿骨頭の臼蓋に対する適切な制動が効かないことに起因し、「股関節が抜けるような感覚」や「力が入らない」といった自覚症状に繋がることがあります。
  • Knee-in(膝関節内側偏位)アライメントの助長:股関節外旋筋群の機能低下は、荷重時に大腿骨の内旋・内転を許容しやすくし、結果として膝関節が内側に入るKnee-inアライメントを呈する一因となります。このアライメントは膝関節内側部へのメカニカルストレスを増大させ、鵞足炎、内側側副靭帯損傷、半月板損傷といった膝関節障害のリスクを高めることが指摘されています。
  • 腰部痛との関連:深層外旋六筋を含む股関節周囲筋の柔軟性低下や筋力低下は、股関節や仙腸関節の可動性を制限する可能性があります。その結果、体幹回旋を伴う動作(例:ゴルフスイング、床上動作)において、股関節での代償が困難となり、腰椎の椎間関節へ過剰な回旋ストレスや剪断力が集中し、腰痛の発症または増悪に関与するケースがあります。

臨床的視点:クライアントが訴える症状の背景に、これらの深層筋の機能不全が関与している可能性を常に念頭に置き、多角的な評価を行うことが求められます。

6.総括:深層外旋六筋の理解と臨床応用

本記事では、股関節の安定性と機能に不可欠な深層外旋六筋について、その解剖、機能、評価、アプローチの要点を解説しました。以下に主要なポイントを再掲します。

解剖学と運動学:「肢位による作用変化」の理解が核心

  • 深層外旋六筋は、梨状筋、内・外閉鎖筋、上・下双子筋、大腿方形筋の6筋から成ります。
  • 主要機能は股関節外旋安定化。特に股関節伸展位での外旋大腿骨頭の求心位保持が重要です。
  • 最重要事項:肢位による作用変化の認識
    • 梨状筋:股関節90°屈曲で内旋作用へ。
    • 内閉鎖筋:股関節90°屈曲で外転作用が優位に。
    • 外閉鎖筋:股関節0°で内転作用も。屈曲に伴い伸展・外転作用が増大。
    • 大腿方形筋:股関節屈曲・伸展位ともに伸展作用。
  • 神経支配:大部分が仙骨神経叢外閉鎖筋のみ閉鎖神経支配。

評価とアプローチ:機能差の識別と選択的介入

  • 評価の基本は、股関節「屈曲位」と「伸展位」における外旋機能の比較分析
  • 屈曲位での外旋機能低下が顕著な場合、梨状筋以外の深層筋(内閉鎖筋、大腿方形筋など)の機能不全の可能性を考慮。
  • アプローチでは、対象筋が効果的に活動する「肢位」の選択が効果を最大化する。
    • 側臥位クラムシェル(股関節屈曲位):内閉鎖筋、大腿方形筋などにアプローチ。
    • 腹臥位外旋(股関節伸展・軽度外旋位開始):ハムストリングスの代償を抑制し深層筋へ。

機能不全の影響:局所から全身へ

  • 股関節の不安定性、膝のKnee-in、さらには腰痛との関連も考慮。
  • これら6筋の協調的な活動が、股関節の精緻な運動制御と安定性を提供します。各筋の特性を理解し、統合的に機能を捉える視点が、臨床推論能力の向上に繋がります。

深層外旋六筋は、股関節機能における基盤的な役割を担っています。本記事で提供した情報が、皆さんの日々の臨床実践や学術的探求の一助となることを願っています。


今回の内容は、深層外旋六筋に関する基本的なフレームワークを提供するものです。実際の臨床応用においては、個々の症例に対する詳細な評価と、より広範な解剖学・運動学的知識との統合が不可欠です。「より深いレベルでの理解を追求したい」「触診技術や具体的な介入戦略について、実技を交えながら習得したい」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。

そのような学習意欲は、専門家としての成長に不可欠です。更なるステップアップを目指す方々のため、より専門的かつ実践的な知識・技術を提供する機会もございます。ご関心があれば、以下の情報もご参照ください。

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参考文献

本記事の執筆にあたり、以下の文献を参考にしました。いずれも専門性を深める上で有益な書籍です。

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